表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/28

7 迷子も歩けば事件に当たる

 寮に向かう途中、コリンの手を取って、目を合わせて伝える。

「だから、わざわざカリンを引き合いに自分を卑下しなくていいのよ」

「……!」

 コリンは少し照れくさそうにしながらも、きゅ、と手を握り返してくれた。

「そうですね、はは。自虐癖が治ってなくて……」

 コリンが苦笑いをする。

「あ、あれ、女子寮じゃない?」

 わたしは前方に並ぶ木の向こうを指差した。


 木々の合間から、マンションのような二つ建物が顔を出していた。

 明るいベージュの建物が女子寮で、グレーの建物が男子寮だったはず。

 二つの建物の距離はだいぶ離れていた。


「ここまでみたいね」

 ちょうど、ずっと一本道だった道が二股に分かれ、看板が立っていた。

 右が女子寮、左が男子寮。


「はい。気をつけて」


 コリンからスクールバッグを受け取って、わたしは意気揚々と女子寮へ向かって歩き出した──のだが。


 一瞬で迷った。


「どこよ、ここ……!」


 コリンと解散してから、一向に看板がない。

 しかも補正された道が途切れていたのだ。

 普通に森の中を歩かされている。

 木々はどんどん生い茂り、女子寮も見えなくなっていた。


「まさか、三十にもなって迷子だなんて……」


 情けなさすぎる……!


 いっそ風で舞い上がる風属性魔法【ウィンド・パージ】で空高く飛んで、寮の場所を上から見つけようかしら?

 いや、誰かに目撃されて、また変な噂が立ったら……。

 

 うんうん唸って、途方にくれていると、

「おい、持ってきたぞ、早く燃やそうぜ」

「これで偉そうにしてるあいつも困るだろ」

 遠くから男の子の声が聞こえてきた。


 ──人だ!

 これで道が聞ける!


 わたしは話し声のするほうへ、踵を返した。


「あの、すいませーん……」

 ガサガサと草の間を縫って、意気揚々と進んでいく。

 すぐに二人の男子生徒の姿が見えた。


「……?」

 何やってるのかしら……?


 なんだか、様子がおかしい。

 彼らがわたしに気づかないのをいいことに、わたしは木の後ろに身を隠した。


 彼らの前には、数枚の布切れが地面に落ちている。

 一人がそれに手をかざすと、手のひらに小さな炎が出現した。


 手のひらから火の玉を出す火属性魔法【ファイア・ウィスパー】で、布切れを燃やそうとしていたのだ。


「ちょっと! やめなさい!」


 あまりに予想外の光景で、思わず叫んでしまった。

 こんな森の中で火属性魔法なんて、一歩間違えれば大火事じゃない!


「ヤベッ、見つかった」

「逃げろ!」


 わたしの大声に驚いた二人は、全速力で走り去ってしまった

 残されたのは、わたしと布切れたち。


「一体何を燃やそうとしていたの……?」

 地面に放置された布の一つを手に取る。

 それは、男性用のパンツだった。

 割と奇怪な模様をしていらっしゃる。

 男性用パンツ界隈には明るくないが、この世に二つとなさそうな不思議な模様だった。


 なぜ男の子たちがパンツを……?

 なぜ【ファイア・ウィスパー】を……?


「ま、まさか……!?」


 ピーン!

 名探偵よろしく、彼らのやっていることが何か、分かってしまった。


 ──この寮生活で、気に入らない人間のパンツを燃やす嫌がらせ!?


「とんでもないわね、最近の若い子は……!」

 驚きのあまり、ついつい年寄りじみたセリフを吐いてしまう。


 とにかく、持ち主に返してあげないと……!

 誰のものか分からないけれど、コリンに頼んで、男子寮の先生に渡してもらおう。

 腰をかがめて、放り投げられたパンツたちをかき集めているときだった。


「おい、お前なにしてんだ」


 嫌な声が、背中に降り注いだ。

 ゆっくり振り返る。


 クソガキが、驚愕した表情でわたしを真っ直ぐ見ていた。


 正確には──わたしの手元を。


「それ……、俺のパンツ……」


 …………おや?


 ……これって、ひょっとして、まずいのでは?

 彼の中で、わたしが下着泥棒になっているのでは?


「違う違う違う!!」

「なにが違うんだ、どうやって盗んだ?」

 ずんずんとクソガキが近づいてくる。


「わたしが盗んだんじゃないの! 盗んだ人から取り返したのよ!」

「取り返した……?」


 パンツ欲しいから取り返したみたいになってる!?


「と、とにかく、返すから! 持ち主が見つかってよかったわ、それじゃ、わたしはこれで。おほほほほほ」


 パンツをクソガキに押し付ける。

 慣れないお上品な笑い方で誤魔化しながら、とにかく逃げようとするが、

「待て」

 普通に捕まった。

 そりゃそうだ。


「お前、怪しいんだよ。なにか隠してるな? 出せ」


 隠してるのは年齢だけだって。

 アンタのパンツはもう全部出したって。


「……っ」

 黙りこんだわたしの胸ぐらが、クソガキの手によってつかみ上げられる。

 力じゃ勝てない。


 もちろん魔法なら勝てる。

 竜巻を起こす風属性魔法【ストーム】で吹き飛ばしてもいいし、土属性魔法【サモン・アースゴーレム】で土ゴーレムを召喚してぶっ飛ばしてもいい。


 授業外で魔法を使うのは、また悪目立ちしてしまいそうで、いささか憚られる。

 でも、このままじゃ白状するまで解放してくれなさそう……!


 いったい、どうしたら──


「アンさん!」


 パァン!


 どこからか、現れたコリンが、胸ぐらをつかむクソガキの手を手刀で弾き飛ばして、守るようにわたしを背にする。


「アンさんに、なにしてるんですか! アンさん、大丈夫ですか!?」

「こ、コリン……!」

 す、すごい……!

 体術には自信がある、みたいなことは言っていたけれど、ここまで咄嗟の動きができるなんて、見たことがなかった。


「あ? なんだよ、お前」


 クソガキが手首をさすりながら、コリンを睨み返す。

 コリンも負けじと応戦する。

「アンさんに触らないでください!」


 一触即発の空気だ。

 まずい、入学早々喧嘩なんて……!

 問題騒動でコリンまで退学になる可能性がある。

 せっかく、入学式前にクソガキとわたしがやり合いそうになったときは、コリンが収めてくれたのに……!

「コリン、待っ……」


「あ、いたいた〜、デリックく〜ん!」


 なんの事情も知らないノアが、手を振りながら和やかに駆け寄ってきた。


「パンツ盗まれてたよ〜!」

「捕まえたら、すぐ白状した」

 ノアの後ろにはマークが、気絶した男子二人の襟首を掴んで、ずりずりと引きずっていた。


 デリックと呼ばれたクソガキが振り返る。

 わたしたちの視線を一斉に受けたノアは、キョトンとわざとらしく首を傾げた。


「おやおや? もしかして、変なタイミングに来ちゃったのかな?」

読んでくださり、ありがとうございます!

ぜひ☆やリアクションをポチッとよろしくお願いします!

感想やレビュー、励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ