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5 迷惑な人

 学院中に悪名が知れ渡った入学式から、教室へ戻る帰り道は、あまりにも視線が痛かった。

 ほぼ全員がわたしを見ては、「やばい女だ……」とボソッと呟いて、廊下をすれ違っていく。


「つ、疲れたぁ〜……」

 教室に到着するや否や、わたしは机に突っ伏した。

 先生がホールから戻ってくるまで、軽い自由時間。

 すでに教室の前には、わたしを見物にきた生徒で人だかりができている。

「あの女が……」

「地味なのに……」

 失礼な感想も多々ある始末。


 勘弁してよね……!


「迷惑な人だね……」


 ぽそり、と透き通った声が耳に届いた。

 顔を上げると、隣の席の男子が教室前の人だかりに眉をしかめていた。


 おぉ……、わたしに興味がない人間だ……!


 透明感があるのは声だけではなく、髪の色もだった。

 ホワイトに近いアクアブルーの髪は、彼の右目を隠している。


「そ、そうよね、クラスまで押しかけられたら、困っちゃうわ」

 彼の言葉に同調すると、長い前髪の向こう側からギロリと睨まれた。


「迷惑なのはアンタだよ。女は女らしく、大人しくしていればいいのに」


 ぎゃ。


 こいつ、モラハラの素質がある。


 一気に前世のトラウマが走馬灯のように脳内を駆け巡り始めたが、頭を横に振って物理的に追い出す。


「女らしく?」

 ブチギレそうになるのを抑えて、わたしは苦笑いで聞き返す。

 彼は鼻で笑った。

「女は弱いんだから、余計なことをしないほうが身のためだよ」


 はぁ?


 わたしは全属性の魔法が使えるんですけど?

 火、水、風、土の四属性あるうちの一属性しか使えないあなたたち、お子ちゃまと違って!!

 魔法の研究職兼ライターで、とっても練習して、とっても勉強したんですけど!?

 魔法学院で学べる魔法なんてないくらいにね!!


 ……と、早口で捲し立てたかったが、我慢した。


「……あなた、名前は?」

「……マークだけど」

「そう、覚えておくわ、マーク」

「別に、わざわざ覚えようとしなくてもいいよ。オレは一位になる人間だから、いやでも名前を見かけるようになる」

 マークは頬杖をついて、これで会話は終わりだと言わんばかりに目を逸らした。


 ぎゃ〜〜〜〜!

 ムカつくわ〜〜〜!!


 拳に力が入って、手のひらに爪が食い込む。

 こんなのと仲良くしなきゃいけないわけ!?

 クラスメイトだから!?

 やってられないわよ〜〜!


「アンさん……! そんなに握りしめたら、血が出ちゃいますよ……!」

「コリン……」

 我を忘れそうになったわたしを正気に戻してくれたのは、遠くの席からわざわざやってきてくれたコリンだった。


「ありがとう、話しかけてくれて……。危うく学院全体を吹き飛ばすところだったわ……」

「物騒なこと言わないでください……」


 コリンがわたしを宥めながら、わたしのスクールバッグを持つ。

「もうホームルーム終わって、みんな寮に移動しましたよ」

 あれ? いつの間に先生が来たんだろう。

 怒りのあまりに、周りが見えてなかったみたいだ。


 気がつげば、教室にいるのもわたしとコリンだけ。

「女子寮まで送りますから、何があったか教えてくださいね」

「確か、女子寮への通路も男子禁制よ」

「じゃあ、男子寮との別れ道までご一緒させてください」


 わたしのスクールバッグを持ったままコリンが歩き出すので、わたしは大人しく送られることにした。


 校舎から寮までのルートは、よく整えられた木や花壇がレンガ調の道を彩っている。

 学校指定のニーハイブーツは、三センチほどヒールがある。歩くとコツコツと小気味の良い音を鳴らした。

 並んで歩いていたコリンに、マークとの会話を説明すると、目を大きく見開いた。


「え!? 女は女らしくしろ、なんて言われたんですか!? お嬢様に向かって!?」

「しーっ!」

「あ、すみません……」


 わたしは慌てて周囲を見回す。

「もう大声で噂になるのは懲り懲りよ……」

 幸い、確認できる範囲に人はいなかった。


「アンさん、何かあったら、呼んでくださいね、駆けつけますから」

「コリン……」

「これでも、ボディーガードとして、体術だけは自信あるんです。それ以外は空っきしですけどね、兄のカリンと違って……はは」

 コリンの声がだんだん尻すぼみになっていく。


 わたしはコリンの手を取り、目を合わせる。

「コリン、前も言ったけれど、カリンとあなたを比べる必要はないわ。コリンにはコリンにしかない優しさがあるの」

 言いながら、わたしは入学式前夜のことを思い出した。

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