4 入学式で噂の女
そんなこんなで、入学式当日──学院にたどり着く前の通学路でクソガキと出会ったのだ。
まだクソガキに言い足りないわたしは、コリンに引きずられるようにして、なんとか教室にたどり着いた。
教室は、わたしが前世で通っていた高校となんら変わらなかった。前に黒板と教壇。机と椅子が均等に並べられている。
……のだが、そこで問題が発生した。
「元男子校なんて、聞いてないわ……!」
わたし以外、全員男子生徒だったのだ。
今年から共学になったものの、入学した女学生は、お父様のコネのわたしだけ。
同性なら楽勝で家に連れて行けると思ったのに……!
歳の離れた異性との接し方なんて知らない。
今世ではコリンのように幼少期からの付き合いがあり、身分関係がはっきりしている人間としか触れ合ってこなかったし、前世でそんな機会などあるわけない。
七個も年下の男の子と、どうやって友達になれって言うのよ……!?
愕然としつつも、黒板に示されていた自分の座席に座る。
周りを見渡すと、見覚えのある金髪がいた。
しかも、今朝のクソガキも同じクラスだし……!
遠くの席のクソガキをチラリと見る。
目が合った。
「チッ」
でかい舌打ちをされて、目を逸らされる。
こんな環境で学院生活なんて無理じゃない!?
頭を抱えて絶望していると、ガラリと扉を開いた。
長身に白衣を纏った男が入ってきた。
「今日から、君たちと一年間一緒になる担任の、ルノウだ」
わたしより若そうな男性教師。もしかしたら、新人なのかもしれない。
藍色の癖っ毛のようだが、前髪を上げるスタイルで綺麗に整えており、清潔感がある。
あんな痩せっぽっちで、ご飯はちゃんと食べているのかしら……?
健康状態が心配になる体躯の先生に、わたしは要らぬ心配をかけてしまう。
「これから入学式のために、ホールに向かう。みんな、名前順に廊下に並んでくれ。ホールに入ったら、奥から座る。いいな」
簡潔に説明され、わたしたちは指示に従った。
先生の後を雛鳥のように追って、廊下をしばらく歩くと、渡り廊下に辿り着く。渡り廊下の向こう側がホールだった。
ホールは広く、中央には舞台があった。座席は半円状に並べられていて、後ろの席になるほど、段差が高くなっている。ふわふわの椅子は、使っていない時は、座席が上がる映画館タイプ。
ちょっとした劇場みたいだ。
入学式が始まり、一年生全員がホールの中に揃ったので、一縷の希望をかけて、女の子(同性)がいないか血眼で探す。
……やっぱり男の子しかいない。
認めたくないけど、わたしが唯一の女子生徒なんだ。
「……おしまいだぁ……」
小声で呟いて、頭を抱える。
同性が一人でもいたら、クラスを跨いだとしても、仲良くなる難易度は低いと思ったのにぃ……。
「次に、新入生代表挨拶」
アナウンスにハッとして、壇上を見る。
今朝のクソガキが登壇した。
「あっ」
思わず声を上げてしまった。
それを隣に座っていたクラスメイトの男子が聞きつけたのか、
「どうしたの? 知り合い?」
と聞いてきた。
柔らかい声色。ふわふわした髪と、その髪色と同じ紫の瞳。少しダボッとした制服。
コリンほど幼い雰囲気はないが、人懐っこそうで中性的な男子が、わたしを見ていた。
「ちょっと朝、彼とバトって……」
わたしはひそひそ声で事情を説明する。
可愛らしい外見のクラスメイトは、ぷっと小さく吹き出した。
「バトったの!? あの人、理事長の息子のデリックくんだよ! すごいね〜!」
「ちょっと、声が大きいってば!」
周りの生徒たちの視線が一斉に集まるのを感じる。
「バトったって、言ったか?」
「デリックくんと……って、女子!?」
「すげぇ度胸……」
ま、まずい……!
友達を作るどころか、悪評が広がっていく……!
「ごほん!」
舞台上でクソガキが大きく咳払いをした。
一瞬で生徒たちが口をつぐむ。
「…………」
壇上から遠い席にいるっていうのに、クソガキの青い両目が、わたしをとらえている。
騒がしくなったのは、わたしのせいじゃないわ……!
弁解しようにも、何もできないもどかしさ。
「あーあ、ロックオンされちゃったね。デリックくんには誰も逆らえないのに」
ことの発端を生み出したクラスメイトが、クスクスと笑う。
クソガキがなんで脅しみたいなことを言ってきたのか、理解した。
だから初めて会ったとき、クソガキは「俺に逆らわない方がいい」とか言ってたのか。
親の権力で、お前なんてどうとでもできるんだぞ、という脅しのつもりで。
くだらない。
「……理事長の息子って言っても、ただ親が権力を持ってるだけのお子ちゃまでしょ」
わたしのつぶやきに、クラスメイトは、そのくりりとした目をさらに大きくした。
「……へぇ〜。随分、大人びたこと言うね。本当に同い年?」
興味深そうに尋ねてくる彼に、わたしは自分のミスに気づいた。
またやっちゃった。
転生したなんて、誰にも言えるわけがないのに。
「や、やだな〜、同い年に決まってるじゃない」
「ふーん……」
彼はそれ以上追求してこなかった。
その代わり、右手が差し出される。
「ボクの名前はノア。キミ、学院で唯一? 女子だよね? よろしく」
「……アンよ。こちらこそ、よろしく」
握手をしながら見つめてくるノアの視線は、秘密を見透かされそうで、どことなく居心地が悪かった。
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