29 ノアへの招待状
廊下は何人かの生徒がトイレに行ったり、会話を楽しんでいたり、割とざわざわしていた。
休み時間に、ノアを廊下にちょこっと呼び出して、こそっと招待状を渡す。
学生時代、友達にナプキンを渡したときのことを思い出した。
「あー! 言ってたやつね! 行く行く! 元々協力するとは言ってたけど、普通にアンちゃん家、興味ある!」
「よかったー、助かるわ、本当に」
拝み倒したいくらいだ。
なんて物分かりのいい子なんだろう。
購買でお菓子でも奢ってあげようかな。
「これさ、デリックくんとマークくんには、もう渡したの?」
ノアが急に小声になって、確認してくる。
「う、うん。もう二人には」
「……アンちゃん、何かされなかった?」
真剣な目つきで、わたしの肩を掴むノア。
何かされたというほどのことではないと思うけれど……。
「実は……」
口元を手で覆って、ノアの耳元でこしょこしょ話をする。
ノアは耳を貸したまま、うんうん、とうなずいて聞いていたかと思ったら、
「え!? 手ぇ繋いで、ハグされたの!?」
と、大きな声を出した。
「しーっ!」
わたしは人差し指を自分の口の前に立てて、渾身の「静かにしろ」を表現した。
「ごめんごめん……。あの二人、抜け駆けじゃんね」
抜け駆けって何よ。
「なんかみんな、人恋しいみたいで。長期休暇を待たずして、実家に帰ったほうがいいんじゃないかしら」
「うーん……」
ノアは、うんうん、と唸って悩み込んだが、すぐにキュルリンとした可愛らしいお顔に戻る。
「ね〜、ボクもご褒美欲しい〜」
「それマークにも言われたけど、お茶会でのおもてなしじゃダメなの?」
「ダメ」
即答ですか。
さっきまでの猫撫で声と違って、スンッとした「ダメ」が叩きつけられた。
少しは考えるそぶりを見せてくれたっていいじゃない。
「じゃあ、いいわよ。わたしにできる範囲なら何でも」
「なんでもね? じゃあちょっと目を瞑って」
「はい」
言われるがままに目を瞑る。
さすがに、もう殴られる想像は出てこない。
目を瞑って一秒後、ほっぺたに柔らかい感触があたって、いなくなった。
「はい、もういいよ」
わたしは恐る恐る目を開ける。
「……今、ほっぺにチューしなかった?」
「ん? してないよ?」
きょとんとした可愛らしい顔ですっとぼけるノア。
わたしも目を瞑っていたから、とぼけられてしまえば、詰める手段はもうないのだけど。
「え、今の……」
「しっ! やめとけ、学年三位のノアだぞ。何やり返されるかわかんねえ」
男子のひそひそ声が聞こえて、確信する。
やってるじゃないの。
なんだか、保育園くらいの赤ちゃんにプチュッとされた気分だ。
「あー、お茶会楽しみだな〜!」
ノアは頭の後ろで手を組んで、教室へ戻っていく。
わたしはプチュッとされた頬を触る。
「親愛のキスなんて、お洒落なことするのね」
でも、人の目があるときは目立つからやめて欲しかったわ。
これで三人を自宅に誘うことができた。
あとはもう、お父様の前で「友達です」と宣言させれば……!
この学院生活とおさらばできる!!
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