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27 デリックへの招待状

 演劇祭から数日後。

「書き終わった……!」

 三人分の招待状が完成した。


 なんだか変に緊張してしまって、書き損じが連続し、なかなか完成しなかったのだ。

 わたしは三枚の招待状を、胸に当てる。

 心を込めて、一人ずつに手渡そうと思う。


「話ってなんだよ……」

 今日はデリックを呼び出した。

 放課後、クラスメイトたちが教室から全員出て行った時間に、待っていてくれと頼んだのだ。


 夕焼けが教室に差し込んでいる。

 デリックの金髪はそれを受けてキラキラと輝いていた。


「渡したいものがあるの」

 わたしは後ろ手で隠していた招待状を渡す。

「これって……」

 デリックはそれを受け取って、一瞬顔を赤らめた。


「読んでいいか……?」

 わたしはうなずく。

 デリックは手で、丁寧に封を切り、中の手紙を読む。


「…………」

「どう、かしら……?」

 こんなにドキドキしたのは、何年ぶりかしら。

 数日前は、お茶会に参加してくれるような口ぶりだったけど、気が変わっているかもしれないし、改めて誘ったら断られることだってあるはずだ。


「これ……」

 本文を読み終わったのか、デリックが口を開いた。

 わたしは緊張の面持ちで次の言葉を待つ。

 しかし、飛び出してきたのは、

「……ラブレターじゃねぇじゃねぇか!」

 というツッコミだった。


 ら、ラブレター?


 ガックリと肩を落とすデリックに、わたしは声をかける。

「デリック、ラブレターが欲しかったの? 年頃ね。でも、わたし以外女子がいないんだから、魔法学院に在籍している間は諦めたほうがいいんじゃないかしら。それか、他校の女子生徒と関わりを持つとか」


「そうだけど、そうじゃねえよ……」

 ぶつぶつと何やら文句を言っているが、上手く聞き取れない。


「それで、返事は……?」

 デリックを見上げると、デリックは大きくため息をついた。


「行くに決まってんだろ……くそ……」

 その言葉を聞いて、わたしはニンマリと笑う。

「ありがとう! 楽しみにしているわね!」

「あぁ……」

 ずっと残念そうにしているデリック。

 るんるんで女子寮に戻ろうとするわたしに「途中まで送っていく」と言って、一緒に帰路についた。


 丁寧に手入れされた木々や花壇の間を二人分の影が伸びる。

 わたしは、核心的なことを尋ねてみた。

「デリックは、わたしのこと、どう思ってるの?」

「ぶっ!!」

「わ、何よ、汚いわね」


 デリックが吹き出した。

「それ、意味わかって聞いてんのか?」

 口元を袖で拭いながら、わたしを高い位置から睨みつけてくる。

「意味って、そのまんまよ。わたしのこと、どう思ってるの?」

 ここで友達だという言質が取れたら、かなり安心してお茶会に臨める。


 デリックは目線をあちこちにやって、色々と考えたあと「あー」と頭をぼりぼり掻いた。

「……特別、だよ」

「特別?」

 それは、友達と同じ意味?


「お前みたいな女、というか、人間が、俺にとっては初めてだった。父さんの権力も気にしないで、俺より魔力が多くて、反抗的なやつ」

 ……悪口かしら。

 言い返したい気持ちを堪える。

 まだ黙って聞いておこう。


「お前といると、全部新鮮で、楽しい。お前が頑張っていると、俺も頑張ろうと思える。だから、特別だ」

 デリックがわたしに微笑みかける。

 それは、いつだったかに試験に合格したときに見たのと同じ笑顔で。


「……ありがとう」

 わたしは素直にお礼が口から出ていた。

「…………」

「えっ?」

 デリックが無言でわたしの左手を取った。

 きゅ、と宝物を扱うような力で包み込まれる。


「どうしたの?」

「少しだけ、いいだろ」

「別にいいけど」

 人肌恋しくなっちゃったのかな。ずっと寮生活だし。


 わたしにも子どもがいたら、こんな感じだったのかしら。

 残念ながら、前世では子どもを授かるどころじゃなかったけど。


 ちらり、とデリックの表情を盗み見ると、

「ん?」

 デリックが嬉しそうに微笑みかけてきた。


 何が嬉しいんだか……。

 

 女子寮への分かれ道まで、わたしたちは手を繋いで歩いたのだった。

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