26 お茶会への誘い
三十歳にもなれば、緊張する場面というものにあまり遭遇しなくなると思っていた。
わたしは今、とても緊張している。
ティーカップを持つ手が震え、紅茶が上手く口に運べない。
現在のわたしは、来客対応用のドレスに身を包み、お茶会の準備が整った応接室で、ソファに腰掛けている状態だ。
横には、いつもの執事用の燕尾服を着用したコリンが、姿勢正しく立っている。
コンコン、とノックの音。
「お嬢様。デリック様、ノア様、マーク様がいらっしゃいました」
ドアの向こうから、聞き慣れたメイドの声がする。
「…………ありがとう、通してちょうだい」
わたしは唾を飲み込んでから、メイドに返事をした。
──遂にきたか。
わたしは覚悟を決めた。
そう、わたしはあの三人を、自宅のお茶会に招待したのだ。
時を遡ること、演劇祭直後。
演劇祭が行われたホールから、五人で教室へぞろぞろと戻っている中、わたしは切り出した。
「ねぇ。今度の休み、わたしの家でお茶会するから、よかったら来てくれない?」
「あ、アンさん!?」
なんの相談もされていない身内は、わたしの突然の申し出に驚きを隠せないようだった。
他の三人はキョトンとしてから、
「いいね〜! アンちゃんのお家、行ってみたい!」
ノアが明るく承諾してくれた。
この子は本当に、話が早くて助かる。
「まぁ、どうしてもと言うなら、行ってやらないこともない」
デリックが腕を組んで、チラチラとこちらに視線をやる。
「どうしても」と言ったほうがいいのだろうか。
「オレも行く」
そんなデリックを尻目に、マークは短く答えた。
それに反応して、デリックも慌てて「行かないとは言ってない!」と捲し立てた。
よかった。
みんな来てくれるみたいだ。
「じゃあ、後で招待状を渡すわね。美味しい紅茶とお茶菓子を揃えて待ってるから、楽しみにしてて」
胸を撫で下ろすわたしに、二十三歳たちは首を傾けた。
「招待状……?」
慌てた様子のコリンがこっそり耳打ちしてくる。
「アンさん! 貴族じゃない人は、普段から招待状を送ったり受け取ったりはしないんですよ!」
「え、そうなの!?」
知らなかった。まさか、招待状が一般的なものじゃないとは。
「え、えっと、招待状っていうのは……そ、そう! 女子の間で、家に招く時は招待状を送り合うのが流行ってるのよ!」
「へぇ。女って、めんどくさいのが好きなんだな」
わたしの言い訳に、マークがデリカシーゼロの返答をする。
誤魔化されてくれたようだが、一発引っ叩きたくなる。
「とにかく、時間と場所を書いた手紙を渡すから! 覚悟して待ってなさい!」
「決闘かよ」
デリックのツッコミはあながち間違いではない。
だから、特に訂正はしなかった。
わたしにとっては、決闘のようなものだ。
家に招くということは、身分を明かすと同時に、年齢も明かすということ。
成功すれば、年齢にそぐわない学院生活からおさらばできるが……失敗すれば、三人と気まずい雰囲気のまま、学院生活が続行になる。
わたしの正体を、年齢を知ってもなお、三人は友達でいてくれるのだろうか……。
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