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24 演劇祭

 演劇祭、当日。

 演劇祭は保護者など学外の人間に見せる催しではなく、あくまで学内で、生徒たち同士で観覧する催事。

 そのため、特に彩飾などはなく、学院はいつもと変わらぬ風景だった。


 いつもと違うのは、わたしの体調だけ。

「はぁ……はぁ……」

 体調はすこぶる悪かった。

【リカバリー】でも誤魔化せないくらいに。


 発熱や咳の症状があるわけではないが、体が鉛のように重くてだるい。

 歩くどころか、立っているだけで精一杯だ。


 それでも気合いで女子寮から教室まで登校した。

 役者は着替えたり、裏方は小道具を揃えたり、それぞれ事前準備があるから、お世話係はお休みだ。

 それが救いだった。

「大丈夫か?」なんて聞かれたら、「大丈夫じゃない」と泣いてしまいそうで。


 教室に辿り着くと、ノアとコリンが小道具の詰まった箱を持って歩いている、後ろ姿が見えた。

 恐らくホールへ運んでいるんだろう。

 演劇祭は、入学式が行われた大ホールで開催される。

 わたしたち一年生は午前の部だから、演劇で使用する物を朝から移動させなければならない。


「アン、おはよう」

「マーク、早いわね」


 教室の出入り口の近くに、既に王子様の衣装に着替え終わったマークが立っていた。

 アクアブルーの髪に、青い衣装が似合っている。


「林檎姫の衣装はあそこから、女子更衣室で着替えて来なよ」

「わかったわ」

 マークが窓際の席を指す。

 ドレスが机の上に寝かされていた。


 わたしはマークにお礼を言って、赤が基調のドレスを手に取る。

 女子更衣室で着替えて。

 教室に戻ってきたら。

 みんなとホールに移動して。

 それから。


「あっ」

「えっ」


 トン、と通りかかったクラスメイトと軽く肩がぶつかった。

 足がもつれる。

 今のわたしに踏ん張る力はなく、そのまま床に座り込んでしまった。


「ご、ごめん! 大丈夫?」

「全然、平気よ……」


 ぶつかったクラスメイトが、へたり込んだわたしに、焦って手を伸ばす。

 わたしはその手を取ろうとしたが。

 腕が上がらない。


 頭が、ぼーっとする……。


「アン? どうした?」

 マークが、手を差し伸べてくれているクラスメイトの横から顔を出した。


 何か言わなきゃ。

 笑わなきゃ。

 大丈夫だよって。

 

 動かない体。

 働かない頭。

 出てきた言葉は。


「【リカバリー】」


「え? アンタ、風魔法使いでしょ」


 風魔法使いとしてクラスに周知されているのも忘れ、わたしは必死で水属性魔法を唱えていた。


「【リカバリー】! 【リカバリー】!」


 何度、回復魔法を唱えてみても、体は強い倦怠感から逃れられない。

 クラスメイトたちは、使えないはずの属性の魔法を一心不乱に唱えるわたしにざわつき始めた。


「……アンタ、体調悪いのか?」

 一人冷静なマークの言葉に、わたしの肩がびくりと震える。


「ま、まさか! わたしは大丈夫よ! できるわ! いま、今、着替えてくるから……!」

 立って、わたし!

 立って……!


 女子寮からここまで気合いで歩けたじゃない!

 後は着替えて、演技したら、いくらでもぶっ倒れられるんだから……!


「…………アン」

「お、おかしいわね、今、立つから。ほ、本当に大丈夫なのよ、何ともないんだから」

「【スリープ】」

「え……」

 マークが唱えたのは、水属性魔法【スリープ】。

 相手を眠らせる魔法。

 

 なんで、それを、わたしに……。

 

 効果を打ち消す魔法も知ってはいたが、不意打ちでかけられた魔法を咄嗟に打ち消す余力なんてものはなく、わたしは呆気なく意識を手放した。

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