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20 主役同士

 準備期間が始まって、改めて、運が悪かったと思い知った。


 林檎姫、覚えなきゃいけない台詞が多すぎる。

 加えて、絡む相手も多すぎる。

 ほぼ全員の役者と会話があるのだ。

 さすがに、『自然』との会話はないけれど。


「あなたみたいな薄汚い娘は、この家に似つかわしくないわ!」

 継母役のクラスメイトの男子が、裏声でわたしを叱りつける。

 わたしは床に座り込んで泣き真似。


「そんな、お母様……!」

「この家から、出ていきなさい!」

「…………っ!」

 継母の台詞を受けて、わたしは立ち上がり、教室の端へと走って行く。


「……はい、オッケーです」

 スケジュール管理及び監督役の男子生徒が、シーンを区切る。

 配役が決まった翌日の放課後。

 役者になってしまった生徒たちは、各々台本を読み込んできて、早速対面での練習となった。

 裏方のみんなは教室の隅で作業をしている。


「じゃあ次、家から追い出された林檎姫が王子と出会うシーン」

 ずっと教室の隅っこで膝を抱えていたマークが、台本片手に立ち上がった。

 わたしもその向かい側に移動する。

「はい、スタート!」

 監督役の生徒の掛け声を合図に、わたしたちは教室の真ん中にお互い歩いて行って、正面からぶつかる。


「きゃっ」

「あ、大丈夫ですか」

 お忍びで城から出かけていた王子様と、家から追い出された林檎姫がぶつかり、運命的な出会いを果たす。

 そこで、林檎姫はハンカチを落とすのだ。


「だ、大丈夫です、すみません、失礼しました」

 林檎姫がその場から立ち去った後、王子様はハンカチが落ちていることに気づく。

 それを拾い上げ、林檎姫が去った方向を見つめ、

「あの人は……いったい……」

 林檎姫に一目惚れをしたような、そんな色っぽいため息を漏らすのだ。


「……はい、オッケーです。じゃあ、次、森の場面に移って、鳥たちの会話」

 これでわたしの出番はしばらく来ない。

 ふぅ、と胸を撫で下ろした。


「マーク、演技上手いのね。最後のセリフ、本当に恋をしているみたいだったわ」

「別に、アンタが下手なだけでしょ」

 ……一言余計なのよね。

 主役同士、仲良くなろうと話しかけてみたものの、パーソナルスペースが広そうだ。

 ……まぁ、いっか。無理に会話しなくても。

 ちゃんと演技してくれるんだから、それで。


 わたしはマークに背を向け、背景を担当しているコリンの元へ駆け寄った。

「コリンー、どう? 順調?」

「あ、アンさん!」

 コリンは床に座り込み、大きな板の上半分に空の絵を描いていた。

 下書きの線をはみ出さないように、水色の染料をひたすら塗っている。


「……なんだか、地味な作業ね」

「まぁ、順調と言えば順調です。特にアクシデントもありませんし」

「何か手伝えることある?」


「え、そんな! アンさんのお手を煩わせるわけには……!」

「そういうのいいから。今、出番じゃなくて、暇なのよ。何か手伝わせて。クラスメイトでしょ?」

 両手を胸の前でブンブンと振って拒絶するコリンに圧をかける。


「うぇ……うーん……」

 コリンはしばらく目を瞑って悩んでから、


「じゃ、じゃあ、あの棚にある黄色の染料を取ってきてもらってもいいですか?」

「分かったわ!」


 任務をもらえて、鼻歌を歌いながら、教室の隅にある棚を目指す。

 コリンが指定したのは、棚の上から二段目。

「これは……ちょっと、届かないかも」


 わたしは近くの椅子を引っ張ってきて、その上に乗る。

 それでも届くかギリギリだ。

 椅子の上で背伸びをして、腕を最大限まで伸ばす。

 あと少しで手が届きそう……!


「ねえ!!」

「ぇうわっ!?」


 後ろから大声を浴びせられ、びっくりしてバランスを崩した。

「きゃあ!?」

 頭から落ち──る、すんでのところで、誰かの腕の中に収まった。


「鈍臭いなぁ、声かけられたくらいで驚かないでよ」

 至近距離に、苦虫を潰したような顔をしたマークがいた。

 大声の犯人で、受け止めてくれた恩人の両面を持つマークにわたしは尋ねる。


「いや、あんな大声出されたら、誰でもびっくりするわよ……。一体何なの?」

 キャッチしてくれたマークの腕から脱出する。


 意図を掴めないわたしに、

「何っていうか……、アンタさぁ……、はぁ……」

 マークは呆れを隠さずに、大きく息を吐いた。


 ……は?

 わたしはその態度にカチンときた。

 こっちは何もしてないのに、お子ちゃまに呆れられる筋合いはないんだけど?


 しかし、わたしの怒りがマークに伝わることはなく、なぜか手首を掴まれる。

「ちょっと来い」

「えっ、あっ、なに? なに?」


 ずるずると引きずられるわたし。

「アンさんをどこに連れて行くんですか!」

 コリンが割って入ろうとしてくれたが、

「心配性だなぁ、ちょっと話すだけだから」

「でも……」

「は、な、す、だ、け」

 マークはコリンを説得して、わたしを教室の外に連れ出してしまった。

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