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2 魔法学院に入学しろ!

 身長も態度もでかい男と出会う前日──つまり、入学式の前日のこと。

「魔法学院に行け……ですか」

 真っ昼間。屋敷の執務室にこもって仕事をしていたわたしは、お父様の部屋まで呼び出された。

 魔法学院──魔法使いを職業にする者はほとんど、ここを卒業している。魔法学園と魔法学院、両方を卒業していることが、就職において有利になるのだ。


「それは、講演会の依頼ですか?」

 魔法学院という言葉を聞いて、真っ先に思い浮かんだのは仕事の依頼。

 これまでに何度か学院で講演会を行ったことがあるからだ。


 わたしの職業は研究職兼ライター。それも、魔法について。

 色々な雑誌にコラムや記事を書いてお金を稼いでいる。

 本来、伯爵令嬢のわたしが働く必要はないのだけれど、魔法を知りたいという知的好奇心が高じて仕事になってしまったのだ。

 お金になるし、何より、楽しい。


 しかし、父の話はわたしの予想をはるかに上回っていた。

「いや、生徒として入学する」


 せ、生徒!?

「……お前が幼い頃、持病の『成長止め』の発作のせいで、本来なら通うべき魔法学園に通わせてやれないまま、三十歳になってしまった」

 魔法学園は、十代が通う魔法使いのための教育機関だ。

 一方、私が入れと言われている魔法学院は二十三歳から入学するところ。名前が似ていてややこしい。

 

「だから、家庭教師を雇って勉強して、今では元気になって、職にも就いているじゃないですか」

「違う。お前が学んでいないのは社会性だ。友達もいない。表面上の喋り方こそ覚えたが、自己中心的すぎる……『子ども大人』に育ってしまった」

「『子ども大人』って……」

 なんだ、その不名誉すぎるあだ名は。


「これでは、嫁の貰い手がつかん!!」

 お父様は頭を抱えて天を仰ぐ。

 そんなこと言われても……。

 確かに、貴族に生まれた女性は、他の貴族の男性に嫁ぐのが普通ですけれども……。

 そもそも、三十歳の時点で行き遅れているじゃないですか。


 天を仰いでいたお父様は、仕切り直すようにわたしと目を合わせる。

「学院の理事長には話をつけてある。入学式は明日だ」

「ちょっと、急すぎではありませんか!?」

 わたしの都合など、お父様は聞く耳を持たない。

「外の人間に触れてこい。学院は寮生活だ」

「そんな……!」

 寮生活!?

 いきなりこの暮らしから追い出されるの!?


「社会性なんて、曖昧なものどうやって証明すればいいのですか!?」

「そうだな……」

 お父様は、顎をつまんで「ふむ」とつぶやいた。


「三人だ」

 指を三本立てて、わたしに突きつける。


「家に三人『友人』を呼びなさい。そして、私に『友人であるかどうか』を証明しなさい」

「さ、三人も……!?」

「そうしたら、魔法学院は卒業を待たずに、退学手続きを行うと約束しよう、いいな」

 驚くわたしを置いてきぼりに、お父様は言い放った。


「嫌ですよ!!」


 わたしは叫んだ。

 しかし、お父様の態度は変わらない。


「お前に拒否権なぞない。だいたい、使用人からも、お前のワガママっぷりに苦情が出ていて……」

「三十歳のわたしが、二十三歳に混ざって学院に通うなんて……ましてや友達になるなんて、絶対に無理です!」

 わたしはお父様の部屋を飛び出した。


「あだっ!?」

「きゃあっ!?」


 前をよく見ないで走り出したせいで、誰かと思いっきりぶつかった。

 頭をぶつけた衝撃にわたしの体幹は耐えられず、後ろに倒れてしまう。


「お嬢様!? 大丈夫ですか!? お嬢様!!」

 執事のコリンの声がする。


 あぁ……コリンとぶつかったのか……。


 わたしはそのまま、意識を手放した。

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