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16 守ってあげる

 ノアと約束の日。

 私服を着て、寮から待ち合わせ場所の噴水広場を目指す。


 学院近くにある街は、学生が賑わう立地なだけあり、高価なお店は多くない。

 相手の金銭感覚が分からないけれど、男の子は買い物があまり得意ではないらしいから、高価なものを買ったりはしないだろうと予想。

 頭を悩ませた結果、良いレストランで三食奢れるだけのお金を持ってきた。

 これなら、ノアが何を買おうとしてもたぶん大丈夫。


 レンガ調の街を闊歩しているうちに、白い噴水が見えてきた。

 待ち合わせスポットのそこは、誰かを待っているような人で溢れている。

 正午の鐘が鳴り、噴水の水がいっそう高く舞い上がった。


 待ち合わせ時間ぴったり。

 わたしは噴水の周りにいる人たちの中からノアの姿を探す。

 キョロキョロしながら歩き回るが、一向にノアを見つけられない。


 変だな、ノアは遅刻をするような子に思えないんだけど……。


「だから、お金は持ち合わせてないってば」

 どこからかノアの声がした。


「ノア?」

 一瞬の声を手がかりに、広場から外れた小道を覗く。

 二人組の男たちに、ノアが囲まれていた。

 二人組は見た感じ、まだ十代。

 男っていうより、少年と言う方がしっくりくる二人組だったが、ノアが小柄なせいで気圧されているように見える。


「ノア!?」


 わたしの呼びかけにノアが振り返る。

 彼は一瞬ほっとした表情をしたと思ったら、すぐに険しくなった。


「アンちゃん、ごめん。ちょっと待ってて」


 ノアの静止を聞かず、わたしはズカズカと三人に詰め寄る。


 ノアに絡んでいた二人は、わたしを舐めるようにジロジロと全身を見てきた。

「何? こいつの彼女? こいつがぶつかってきたのに、謝ってくんねーんだけど、代わりにアンタが謝ってくれんの?」

「女なら、金じゃなくてもいーぜ」

 ギャハハ、と下品に笑う二人。


 おおかた、偶然ぶつかったノアにいちゃもんをつけて、金を巻き上げようとしているんだろう。

「アンちゃんは関係ないだろ! ぶつかったのはボクだ!」

 ノアがわたしを庇うように、一歩前に出た。

 中性的な見た目とは裏腹に、かっこいいことをしてくれるじゃない。


 でもね、ノア。

 子どもを守るのは、大人の役目なのよ。


「あんたたち、ダサいことしてんのね。カッコ悪いわ」

「あぁ!?」


 この年代の男の子って、「ダサい」とか「カッコ悪い」って言葉が、本当に嫌いよね。


 使用人にも、幼い頃はそうやって親と言い合いしていた子がいたし、とわたしは幼かったコリンの兄、カリンを思い出す。


「テメェ、言わせておけば……!」

 額に青筋を浮かべた少年たちが、わたしに殴りかかろうとしてきた。

 こんな奴ら、魔法で簡単に吹き飛ばして……。

「アンちゃん!」

 ガッ!


「ノア!?」

 わたしが呪文を唱えるより先に、ノアがわたしの前に躍り出て、拳をモロに顔面で受け止めた。

「いったぁ……」

 口の中が切れたのか、血が少し垂れてきた。


「ノア! 何してるの!」

「だって、守るのはお兄ちゃんの役目だから……」

 なんなのよ、その『お兄ちゃん』って!


「あーあ、弱いのに言うこと聞かねーから」

 殴った少年は、手をぶらぶらとわざとらしく揺らしてみせた。

 わたしはニヤつく二人を睨みつけ、手をかざし、唱える。


「【スコール】」


 風属性魔法【スコール】。

 彼らに向かって突風が容赦なく吹き荒れる。

「うわ!? なんだ!?」

 二人は抵抗する術もなく、足を風に取られ、そのまま吹き飛ばされた。

「うわあああああ!!」


 ドンッ!

 ちょっと遠くで鈍い音がした。どうやら落ちたらしい。

 様子を見に行くと、少年たちは、レンガの地面に頭をぶつけて目を回していた。

 たんこぶくらいで済んでよかったと思って欲しいわ。


「行きましょう、ノア」

「う、うん……」

 ノアの手を引いて、わたしたちはその場を後にした。

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