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15 デートとは呼ばない

「ねぇ、アンちゃん。今度の休み、ボクとデートしない?」

「ゲホッ! ゲホッ!」

 食べていたサンドウィッチが気管に入った。


 昼休みの食堂は賑わっていた。


 白を基調にしたオシャレな長机と椅子が、等間隔で置かれている。

 生徒たちは学食で注文した食事をトレーに載せて受け取り、好きな席へと座り、今の時間帯はほぼ満席状態。


 さすが全寮制。学食のメニューは豊富だし、栄養バランスも整っている。

 手軽に食べられる食べ物を買って、別の場所で食事する生徒もいるにはいるが、ほぼ全校生徒がここで昼食を摂る。

 ノアに誘われて、わたしたちはランチをしていた。


「はぁ!? 何言ってんだよ、お前!」

 声を荒げたのはデリックだった。

 マークはどこ吹く風で、コリンはわたしの隣で口をパクパクさせている。

 ノアが声をかけてきたのはわたしだけだったが、当然コリンは付いてくるし、なぜかデリックまで付いてきて、デリックをライバル視してるマークも追加となったのだ。


「アンさん、お水です……!」

「あ、ありが……っ」

 コリンが水の入ったコップを渡してくれる。

 わたしはそれをありがたく受け取って、喉に流し込んだ。


 ……で、なんだって?

 二十三歳と、デート?


「そうそう。今度、試験休みで連休があるでしょ? 二人きりでお出かけしない?」


 ……それは、デートじゃなくて、子守りではないだろうか。


 せめて三十歳を超えてから、デートと言って欲しい。

 エスコートも期待できないし、何より、二十三歳にお金を出させるわけにはいかないのだから。


 少なくとも、お父様からは、そう教わって生きてきた。

 年下や自分より身分の低い者には、お金を出させるものではない、と。


「えーっと……」

「だめ〜?」


「ダメに決まってんだろ」

 デリックがノアにピシャリと言う。

 それをいさめたのはマークだった。

「なんでお前が答えるんだよ、今はノアが誘ってるでしょ」

「マークは黙ってろ」

「ふん」

 デリックとマークが火花を散らし始める。

 二人はなんで付いてきたんだろう……?


 わたし自身も、ノアの誘いは断ろうと思った。

 休みの日はいつも、一日中寝るか、趣味の魔法研究に没頭するかの二択だ。

 何より、ただでさえ、学院で若い子に囲まれて居心地の悪さを感じているのに、休みの日まで相手をするのは面倒だ。


「や、休みの日は……」

「えー? ボク、アンちゃんともっと仲良くなりたいな〜」


 …………ん?

 ……もっと、仲良く?


 それは、わたしにとって、最重要ワード。

 さっさと友達を三人作って、ここを退学すること。


 記憶を辿れば、ノアは初対面からわたしに対して好意的な態度をとってくれていた気がする。

 ……もしかしたら、友達第一号になってくれるかも!?


 わたしは考えを改めた。

「……いいわよ、お出かけしましょう」

「ほんとに? やった、デートだ」


 無邪気にノアが笑う。

 柔らかそうな紫色の髪が、ふわりと揺れた。


「マジかよ……」

 信じられないものを見る目をするデリックをマークがつつく。

「残念だったね、スロースターターさん?」

「お前、俺に茶々入れるために来たんだろ」

「はっ!」

 マークが大きく鼻で笑うと、デリックが舌打ちを打った。


 食堂で喧嘩はやめてほしい。

 他の生徒からの視線が痛い。


 わたしは仲間だと思われないように、ノアの話を続けた。

「じゃあ、ノアのご両親に挨拶した方がいいわよね」

「挨拶? なんて?」

 ノアがきょとんと首を傾げる。


「息子さんをお預かりしますって」

 ノアが、ぷはっと吹き出した。

「誘拐犯かよ。アンちゃんってば、面白いこと言うよね」

「あ、あはは、ウケてよかったわ……」

 ノアに笑われて、途端にわたしは恥ずかしくなる。

 年齢を意識しすぎたわ……!

 ノアの前では、わたしは三十歳じゃなくて、二十三歳の同級生なのに。


「それに、ボクの親には何も言わなくていいよ。ボクのことなんて、大して気にかけてないから」

「え?」

「ま、これでもお兄ちゃんだからね」


 一瞬見せた寂しそうな表情を打ち消すように、ノアがウインクする。

 お兄ちゃん……というのは、下に弟妹がいるということだろうか?

 勝手なイメージで末っ子だと思ってた、意外。


「それじゃ、次の休みね。正午に街の噴水広場で待ち合わせしよ」

「校門じゃなくて?」

「クラスの人に見られると、面倒だからね。逆にアンちゃんは、あの二人付き合ってるって、騒がれたい?」


 ……確かに、変な噂が立つのはごめんかも。

 理由はなんであれ、目立ちたくないのだから。


 わたしとの約束を取り付けたノアは、立ち上がる。

「ボク、図書室に用があるから、またあとでね」

「は〜い」

 トレーを片付け、図書室へ向かうノアに手を振った。


「アンさん、僕、付いていっていいですか?」

 コリンが真剣な目で訴えてくるが、

「ダメよ、あなた補習でしょ」

「うぅ、それを言われてしまうと……」

 しゅんとなるコリンを横目に、わたしはあることに気づく。


 …………ん?

 よく考えたら、家族や使用人以外の人と出かけるのって、初めてかもしれない。

 しかも相手はかなり年下…………。


 …………。

 うーん……。


「いくら持って行けばいいんだろう……?」

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