12 力不足の自覚
なんとか撒けたわね……」
「…………」
わたしとクソガキは、さっきまでわたしが身を隠していた、大きな葉が生い茂るコーナーにしゃがみ込んでいた。
ひとまず、ここで落ち着いて、作戦を練らないと。
「いい? 土ゴーレムの弱点は水。あんたの水魔法で、どうとでもなるわ」
「それくらい、知ってる……」
「じゃあ、さっさと……」
言いかけて気づく。
こいつ、さっき、後先考えずに魔力を大量消費して、苦戦を強いられていたんだった。
正直、わたしが水魔法を使って倒してもいい。
けれど、さっき風魔法を使ってしまった。
風属性も水属性も使いこなせることがバレたら、悪目立ちしてしまう。
それは避けたい……!
なんとしても、クソガキに倒してもらいたいのだ。
「……俺は絶対、勝たなきゃなんねぇんだ」
クソガキが、眉間に皺を寄せたまま、ボソリと言った。
クソガキの魔力不足にわたしが気づいたことを、彼も察したようだ。
「魔力切れで試験に落ちたなんて、醜態晒すわけにいかねぇんだよ……! 魔力がなくたって、俺がやんなきゃダメなんだ……!」
絞り出すような声は、若干震えていた。
「それぐらいやんないと、父さんに……」
そこまで言って、クソガキは口をつぐんだ。
「お父様?」
魔法学院の理事長の?
「…………」
彼は答えない。
答えなくても分かる。
生意気な態度の裏には、彼なりに背負いこんでいたものがあるくらい。
消耗しきった魔力。
それでも、決して諦めようとはしない、意地。
たとえ不器用にしか活躍できなくても、やらなきゃいけない場面で諦めるという選択肢は、絶対にない。
わたしはため息をついた。
「あんた、やっぱり馬鹿ね」
「はぁ!? 喧嘩売ってんのか!?」
勢いを取り戻したクソガキの右手を、わたしは無理矢理つかんだ。
「なんだよ、離せ……!」
「……わたしの魔力を、分けてあげる」
「え」
握手の要領で強く握りしめる。
「お、おい、ちょっ……」
「黙って」
目を瞑る。
わたしの魔力が手を通じて、クソガキの手へと伝っていく感覚がした。
半分くらい与えれば大丈夫だろう。
「…………っ」
予定した魔力量の受け渡しが終わり、わたしは目を開ける。
そこには、真っ赤な顔をして固まっているクソガキがいた。
「お前……っ」
「どう? これで魔法は使えそう?」
「えっ、あっ……」
握っていた手を離す。
自由になった右手を見つめ、握ったり広げたりするクソガキ。
復活した魔力を実感して、不思議そうな顔をしている。
「すげぇ量の魔力……」
「そう? 半分あげただけよ」
「これで半分……!? ほんとにお前、なんなんだよ……!?」
ドン!
ドン!
「もう、ここもすぐ見つかるわね」
土ゴーレムの足音が近づいてきた。
動きは遅いものの歩幅が広いので、逃げてもすぐに追いつかれてしまうだろう。
「なんでもいいわ。水魔法をあのゴーレムに食らわせてちょうだい」
わたしの言葉にクソガキが頷く。
もう「指図すんな」とは言ってこないようだ。
「!」
黒い影がわたしたちに覆い被さった。
振り返れば、土ゴーレムが、上からわたしたちを覗き込んでいる。
土で生成された拳がゆっくりと重い動作で、振り上げられた。
「【ウォーター・フォール】!!」
クソガキが唱える。
土ゴーレムの頭上に、大量の水が出現した。
バッシャアアアア──!!
土ゴーレムを水が叩きつけた。雪崩みたいだ。
土ゴーレムはドロドロとただの土に戻っていき、上から下に落ちる水はそのまま波となって、地を勢いよく這ってくる。
「【ウィンド・パージ】」
洪水に巻き込まれる前に、わたしは風属性魔法【ウィンド・パージ】を唱えて、クソガキもろとも浮遊する。
「やったか……?」
クソガキがつぶやく。
天井に頭がつかないギリギリの高さまで浮くと、土ゴーレムのいた場所に大きな土の塊ができているのが見えた。
そこを中心として円状に、水源を失った水がだんだんと失速しながら流れていく。
『──アン・デリックチーム、試験合格〜。教室に戻ってこ〜い』
試験終了のアナウンスに、ほっと胸を撫で下ろす。
クソガキを見やると、力の抜けた年相応の表情をしていた。
黙っていれば、かわいいお子ちゃまなのにね。
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