第8話 ダンジョンが儲からない!?フードコートで勝負だ!
魔王城スーパー銭湯、ついにグランドオープン!
民の癒しは整いまくり、魔王は“ジャグジー”に魂を売った──。
しかしその裏で、ダンジョン事業がまさかの苦境に……!?
今回はセリアの真顔相談から始まる、「異世界レジャー再建編」!
「湯から飯へ」──ユータの次なる改革が始まります。
魔王城スーパー銭湯、ついにグランドオープン!
朝から行列をなす魔族たちが、入場と同時に歓喜の雄叫びを上げる。
「なんじゃこの“寝湯”ってぇやつはああああ!」「ととのううう!!」「この“炭酸泉”……炭が入ってねぇのにすごい……!」
魔導風呂の仕組みに戸惑いつつも、その快適さに魔族たちは感動しまくり。
セリアは、初日から各施設を巡回していたらしく、手帳に黙々とチェックを入れていた。
「風呂とは……かくも民を癒すものか。今後の内政に活かせるかもしれません」
そこへ、全身ずぶ濡れで飛び出してくるのは我らが魔王ルシアス。
「ふははは! わが私室の“ジャグジー”も最高だぞ!」
「気に入ってくれて何よりです。」
「うむ! このぶくぶく泡のやつ、最高すぎて名前覚えたぞ! ジャグジーだッ!」
「ジャグジーって言いたいだけやろ……」俺は小声でツッコんだ。
営業開始から一段落した夕方、俺はセリアに呼び出された。
セリアの執務室。
俺は革張りの椅子に座らされ、書類だらけの机を挟んで、セリアと向かい合っていた。
「実は……ダンジョンの収益が落ちています」
「……え、ダンジョンって、収益制だったんですか」
「ええ。一応、“腕試し型アミューズメント施設”という扱いで、入場料を取っております。勇者や戦士、時には旅の商人までが、“経験値稼ぎ”や“アイテム集め”のために訪れる形式です」
セリアは手元の帳簿をペラペラとめくる。
「しかし最近では、他の魔王領のダンジョンに客足を奪われており、特に地下二階以降の入場率が急落しています」
「……ダンジョン業界って、そんな競争激しいの……?」
「現代の魔界経済は、慢性的なレジャー不足ですから」
「魔界レジャー業界、意外と成熟してるんですね……」
まさかの供給過多という現実。
「陛下にも改善提案を出しましたが……」
セリアが眼鏡を押し上げ、静かに言葉を続けた。
「『難しい話は任せる。わしは風呂で忙しい』とのことでした」
「……風呂ができてまだ数日なのに、もう逃げの口実に使われてる……」
魔王は確かにお風呂に全振りしていた。私室ジャグジー、朝晩2セット、サウナも導入済み。完全に“整う”側の魔王である。
俺は額を押さえながら、小さくため息をついた。
(とはいえ……ダンジョンの運営って、俺の専門外にもほどがある)
だけど、セリアの表情は真剣そのものだった。
(これは真面目に考える案件っぽいな……)
俺は机に肘をつき、ふと記憶をたどった。
「……ダンジョンの入口……たしか、やたら広くて天井高かったですよね」
「はい。出入りが多いため、安全確保のために通路を広く取っています」
(広い、開放感、ちょっと休めるスペース……あれ、なんか……)
どこかで見たような、あの構造と雰囲気。
(……あれ?)
頭の中で、急に日本の記憶が重なった。
(広くてちょっとガヤガヤしてて、人が自由に座れて、メシの選択肢がいっぱいある……)
「……あれだ」
小さく呟いたその言葉が、自分でも思いがけず確信に変わっていた。
「ショッピングモールの……フードコートだ!!」
セリアがきょとんとした目で見つめてくる。
「……フード?」
「コート?」
「フードってのは“飯”、つまり食事のことです。で、いろんな飲食店が集まって、自由に座って食べられる場所。……ほら、マックとかカレー屋とか中華とか、ぜんぶ隣接してるあれ!」
説明しながら、自分でもテンションが上がってきた。
「ダンジョンの入口、あのスペースを使って、“魔界風フードコート”を作るんですよ!」
「つまり……入場者が事前に腹ごしらえを?」
「そうそう! で、ついでに魔族たちの食事エリアとしても開放すれば、稼働率も上がる。入場者数も滞在時間も引き延ばせる!」
セリアの目がぱちぱちと瞬き、やがて興味深げに口を開いた。
「……なるほど。待機中の冒険者、同伴者、周辺住民……多層的な利用が見込めるというわけですね」
「そして……」
セリアと俺の視線がぴたりと合う。
「──客単価が上がるッ!!」
「正解です」
「おおっ!? なんか会議っぽくなってる!」
──と、そのタイミングで扉がノックもなく勢いよく開いた。
「ユーターッ! さっきの“ジャグジー”、もっとぶくぶくさせたい! “追い泡機能”とかいうの、つけられんか!?」
「陛下、会議中です」
セリアの冷たい一言で魔王が凍りついた。
「……すまん、またあとで来る」
ぴしゃりと閉まる扉。
俺とセリアは小さく咳払いし、元の話に戻った。
「……ということで、“ダンジョン前飯”計画、始動してみましょうか」
──つづく。
ご覧いただきありがとうございました!
第8話では、お風呂の完成に続く“次の一手”として、異世界×フードコートの可能性に触れてみました。
「魔王城で飯を食ってからダンジョンに挑む」という不思議なレジャー構想、どんな展開になるかは次回のお楽しみ。
ちなみに魔王の“ジャグジー愛”は今後も続きます。ぶくぶく万歳。
次回、第9話──カイ、ついに厨房に入る(予定は未定)!お楽しみに!