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第4話 公衆浴場、地獄からの再設計。そして現れる黒衣の観察者

魔王城の風呂事情、いよいよ本格始動──!

ユータが公衆浴場の劣化に立ち向かうなか、城に現れた謎の黒衣の青年。

冷たい視線の奥に潜む“興味”とは……?

「──風呂を頼む!」


玉座の間に響く、魔王ルシアスの声。


「できれば、俺の私室の浴場をだな……最近、湯の温度がぬるい。気分が台無しだ」


「気分って……」


思わずツッコミかけた俺を制したのは、隣にいた管財官・セリア=クロードだった。整った顔立ちのイケメン悪魔が、冷静に告げる。


「陛下、その前に、南棟の“公衆浴場”の設備が限界です。昨夜も排水の逆流が発生しました。床の魔導タイルもひび割れが進行しており──」


「む……」


ルシアスが腕を組み、渋い顔になる。


「おまえ、俺の風呂よりそっちを優先しろと言うのか?」


「はい。使用頻度、被害範囲、修繕コスト、すべての面から見て優先すべきは公衆浴場です」


セリアの言葉は冷徹に見えて、魔王城全体への配慮に満ちている。

それに、俺も同意見だった。


「むう……ならば致し方ない。だが、私室の風呂も後回しにはせんからな!」


* * *


「……これは、想像以上だな」


魔王ルシアス、管財官セリア、そして俺・ユータの三人で公衆浴場を視察しているところだった。


脱衣所の天井はひび割れ、風呂場の床はところどころ沈んでる。湯船は小さすぎて回転率が悪く、湯温もバラバラ。さらに換気が悪いせいで、壁の一部にカビすら生えていた。


「たしか、ここって“最大同時使用十名”って聞いたけど……これ、三人で限界だよな」


「昔は魔族の人口も少なかったからな。設計が古いまま放置されていた」


ルシアスが腕を組んで苦々しく言う。


「そして構造が入り組みすぎていて、清掃もしづらい。作業員も長くは続かないのです」


セリアも淡々と続けた。


「とにかく、まずは図面を引き直さないと何も始まりません」


「俺、ちょっと残って作業しておきます。さすがに今のうちに基礎は把握しておきたいんで」


「一人で大丈夫か?」


「俺、現場監督でしたから。むしろ、こういうのは得意分野です」


そう言って、魔王とセリアを見送ったあと、俺は工具袋を開いた。


* * *


脱衣所の床板を剥がし、構造を確認。


「……やっぱりな。配管のルートが複雑すぎる。誰だよこんな風に設計したの……」


ゴクリ、と水筒の水を飲んで、汗をぬぐう。


浴場の中はむし暑く、空気がこもってるせいで、作業は地味にきつい。

シャツを脱ぎ、上半身裸で作業を続けていたそのときだった。

「……お前が、ユータ・ミナトか」


低く、感情の読めない声が背後から落ちてきた。


思わず工具を取り落としそうになる。


振り向くと、そこに立っていたのは――


黒衣に身を包んだ、ひとりの男だった。


黒曜石のようなミディアムヘアが、首元でさらりと揺れる。

肌は陶器のように滑らかで、彫刻めいた横顔。

琥珀色の瞳が、まるで構造物でも見るように冷静にこちらを見ていた。


その美貌は、人間離れしていた。

だが、それ以上に異質だったのは――


感情の起伏が、まるで見えない。


(なんだこの……イケメン氷像……)


口数は少なく、態度もつっけんどん。

けれど、ただの無愛想ではない。

視線も姿勢も、すべてが計算されたように整っていた。


「……はい、俺がユータですが」


そう答えながらも、なんだか体温が一段下がったような錯覚にとらわれた。


男は名乗りもせず、ただ無言でこちらを見つめ――


「噂より、普通だな」と、ぽつりと呟いた。


「いや、第一声それ!?」


思わずツッコむ俺を、男は淡々と見つめ返す。


「魔王に連れてこられた、“異世界の建築士”と聞いていたからな。もっとこう……角が生えてるとか、体から光が出てるとか……」


「どんな先入観だよ!」


男はふ、とかすかに口元を緩めた。


「そうか。……口は達者らしいな」


(こいつ、絶対ちょっと面白がってるだろ……)


「で、あんた誰? まさか通りすがりのイケメンじゃないよな」


「……カイ=ヴァレンティアだ。建築資料管理室所属。一応、おまえの仕事に“資料面”で協力するよう命じられている」


「資料面って、つまり書類持ってくる係?」


「……そういうことだ」


必要最低限。感情ゼロ。

けれど、その目だけは、じっとこちらから離れない。


「で、こんなとこにひとりで?」


「現地調査中。寸法測ったり、構造見たり……ほら」


俺は汗ばんだ手でラフ図面を見せる。

土間にしゃがみ込み、板を剥がし、木組みの状態を調べていた真っ最中だった。


作業の邪魔で脱いだシャツを腰に巻き、額からは汗が垂れていた。


「……」


「……なに?」


「いや、思ったより……色が白いな。日焼けしてない」


「ん? ああ、まあ、デスクワーク中心だったしな。って、なんでそんなこと気にする?」


カイはなぜか、少しだけ視線をそらした


「別に……ただの観察だ」


(いやそれ観察の角度じゃなくないか!?)


ふいに、背後で誰かが呼ぶ声が響く。


「ユータ! 魔王陛下から呼び出しだ!」


──つづく。


覧いただきありがとうございます!

今回は新キャラ「カイ=ヴァレンティア」が登場しました。

無口でクール、でも内心ちょっと揺れてる系男子です。

次回、カイの“裏の顔”と、ユータへの「気になる理由」が明らかに──!?

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