第11話 冥帝からの贈り物――新たなる国づくりの幕開け
朝、目を覚ますと隣には変わらぬ寝顔のカイ――そして、なぜか切ったはずの爪が復活!?
笑い混じりのやり取りの後、クラヴィスの城で「魔王ユータ」として領地選びを迫られるユータ。
しかしその場に、魔王を束ねる存在・冥帝の使者が現れ……。
今回は、笑いと荘厳が入り混じる、新章の開幕です。
――チュンチュン。
小鳥の鳴き声が、まだ薄明るい寝室に響いていた。
目を覚ましたユータは、ぼんやりと天井を見上げ、次いでゆっくりと視線を横に向ける。
そこには、静かに眠るカイの横顔があった。規則正しい呼吸と、わずかに動く胸。
無意識に胸の奥がじんわり温かくなり、ほっと息をつく。
(……夢じゃなかった)
昨夜の出来事を思い出し、少しだけ頬が熱くなる。
それでも「カイが隣にいる」という事実が、何よりの安心感だった。
――と、その時。
ふとカイの手元に目をやったユータは、思わず固まる。
「……は?」
切ったはずの爪が、見事にシャキーンと鋭く伸びていたのだ。
寝起きの頭が一瞬で覚醒する。
ごそ、とカイが身じろぎして、ゆっくりと目を開けた。
「……ん……おはよう、ユータ」
低く掠れた声が妙に心臓に悪い。
「お、おはようじゃなくて! カイさん、これ!」
ユータが指さすと、カイは自分の爪をちらりと見下ろし、平然と呟いた。
「ああ……再生したな」
「……そんな日常みたいに言わないでよ!」
ユータの抗議に、カイは片眉を上げ、口の端をわずかに緩めた。
⸻
昼過ぎ、クラヴィスの城。
磨き込まれた大理石の廊下を案内され、ユータとカイは大広間奥の円卓の間へ通された。
重厚な円卓には、すでに数人が座っている。
クラヴィスとルシアスが並び、セリアはその隣で書類を整理。
向かいにはエクレオが、相変わらず陽気な笑顔を浮かべて手を振ってきた。
「おー、来た来た〜! お二人さん〜!」
「……お前はいつも騒がしいな」カイがぼそりと呟く。
用意された席に促されたユータは、思わず固まった。
クラヴィスとルシアスの間、背もたれに豪華な装飾が施された椅子。
「え……これ、僕の席ですか?」
「当然だ」クラヴィスが淡々と答える。
「いやいや、魔王とか、やっぱ冗談ですよね……?」
苦笑いするユータに、クラヴィスは微動だにせず言い放つ。
「試練の結果は覆らない」
⸻
「さて、領地の件だが」
クラヴィスが指を組み、軽く顎を上げた。
「私の領地の一部を分ける。そこに城を築き、国を作ればいい」
「おい、抜け駆けは困るな」ルシアスが眉をひそめる。
「どうせ自分の得になることを考えての提案だろう」
「何を言う。互いに利益があるのは当然だ」クラヴィスは涼しい顔だ。
「実際、ユータの国と接すれば、その利益は計り知れません」
セリアが淡々と補足する。
「交通、交易、建築……あらゆる面で、優位になりますから」
「ならば、我の領土をやる」ルシアスが口元に笑みを浮かべる。
「我が国の北部に広大な森がある。そこを任せよう」
そのやり取りを黙って聞いていたカイが、ふと口を開いた。
「……他に選択肢はないのか?」
待ってましたと言わんばかりに、エクレオが立ち上がる。
「ありますよ〜! はいこれ、地図〜!」
大きな地図を円卓の中央に広げ、軽快な調子で説明を始めた。
「新しい魔王はですね〜、①既存の魔王から領土を譲られる、②空いてる中立地帯にゼロから国を作る、この二つが選べます〜!」
⸻
ユータは地図を見つめながら、しばし考え込む。
譲られる土地は魅力的だが、制約や恩義がついて回る。
中立地帯は未開の荒野だが、自由度は無限大だ。
やがて、顔を上げたユータは、はっきりと口にした。
「……僕は、まったく知らない土地で、一からカイと一緒にやりたいです」
ルシアスもクラヴィスも、すぐに笑みを浮かべた。
「やはりそう来たか」
「まったく、お前らしい」
⸻
「ルシアス様、今まで旅費をいただいて旅をしてきましたけど……」
ユータは少し申し訳なさそうに頭を下げる。
「ここで旅を中断して、自分の国づくりを始めたいんです」
「構わん」ルシアスが即答した。
「おまえは我が国にも多くの施設を作ってくれた。利益の一部を還元するのは当然だ」
「ありがとうございます……でも、国や城を作るには、正直これじゃ全然足りませんよね〜」
苦笑するユータに、円卓の空気が少し和んだ――その瞬間だった。
⸻
空間が、ひときわ重い気配に包まれた。
天井から影が降り、床に黒い紋様が広がっていく。
「……使い魔だ」カイが小声で呟く。
黒い靄から姿を現したのは、全身を黒銀の鎧で覆った巨躯の影。
その胸元には、魔王を束ねる存在――冥帝の紋章が輝いている。
低く響く声が、大広間を満たした。
「新たな魔王、ユータ=ミナトに告ぐ。冥帝陛下より祝福を授ける」
影は恭しく頭を垂れ、三つの物を差し出した。
一つ――魔城礎石。
置くだけで魔城の土台を形成し、結界を展開する黒曜の石。
二つ――覇王の指輪。
身に着けた者は王の威を示し、臣下の忠誠を強めると伝えられる。
三つ――黒曜の錫杖。
魔王の象徴たる杖で、国の象徴として戴冠の儀にも用いられる。
⸻
「……こんなの、本当に僕が?」
ユータは思わずカイの顔を見た。カイは黙って頷く。
「陛下のお言葉を伝える。『国を築け。その形は汝が決めよ』――以上だ」
使い魔は深く一礼すると、黒い靄となって消え去った。
静寂が訪れた円卓で、ユータはしばし言葉を失っていた。
やがて、小さく息を吸い込み、前を向く。
(……やるしかない)
その決意を秘めた瞳を見て、カイはわずかに口元を緩めた。
──つづく。
今回はギャグから始まり、会議シーン、そして冥帝の登場と、一気にスケールが広がる回でした。
ついに国づくり編のスタートラインに立ったユータ。
贈られた三つの道具が、今後の展開にどう活かされるのか――そして「中立地帯」での挑戦は吉と出るのか凶と出るのか。
次回、ついに建国計画が動き出します。お楽しみに。




