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第5話 カイの伴侶に立候補!?顔3つの婚約者と精霊の試練

北の魔王国に招かれたユータは、貴族たちに囲まれ場違いな晩餐会へ。

だが、まさかそれが“婚約承認の儀式”だったなんて……!?

精霊が見守る中、ユータの想いがあふれ出す──!

北の魔王国、ファルメイア邸──


そこは広大な屋敷というより、もはや城のような威容を誇っていた。

正面ゲートをくぐった瞬間、ユータは思わず足を止める。


(お、お城……? 一応カイさんに言われて正装してきたけど……)


緊張で喉が渇く。

しかも案内された晩餐の間には、クラヴィスや他の魔族貴族が勢揃いしており、人間はユータ一人だった。


一瞬の静寂。


次の瞬間──


「……人間、だと?」


「なぜこの場に、下位種族が?」


「まさか、食材ではあるまいな……」


小声のつもりかもしれないが、はっきりとした蔑意を含む声がいくつも飛ぶ。

ユータは一歩後ずさりそうになるのを必死に堪えた。


(……あ、ああ……やっぱり、“人間”って、ここでは……)


そのとき──


「静まれ」


低く、凛とした声が場の空気を切り裂いた。


クラヴィスが一歩前に出て、全員を見回す。


「彼は、私が我が国へ迎えた者だ」


声には圧がありながら、揺るぎない信頼がにじんでいる。


「ユータは異世界より来た建築士。あらゆる常識を打ち破り、魔王城の基盤を変え、民の暮らしを救った──我が王国にとって、もはや必要不可欠な存在だ」


ざわっ……と空気が変わる。


「クラヴィス陛下の……ご推薦……?」


「人間でありながら、異才……?」


先ほどまでの冷ややかな視線が、驚きと興味に変わっていくのを、ユータは感じた。


(クラヴィスさん……ありがとうございます)


その言葉を飲み込んで、ユータは頭を下げた。

ユータの隣のカイはいつもと変わらぬ無表情だが、その肩から緊張がすっと抜けたのがわかった。


──そんな二人に、不意に割り込むようにして、ひらひらとした衣装をまとったエクレオが近づいてきた。


「やだもう〜、ふたりして緊張しすぎぃ♡」


軽やかな声に、ユータは思わず吹き出しそうになったが、なんとか堪える。


「でもでも、ユータちゃんもちゃんと正装してるじゃない? うん、可愛い可愛い! さすが私の見る目に狂いはなかったわ〜♡」


「べ、別にエクレオさんのために着たわけじゃ……」


「照れてる照れてる〜♡ カイさん、見ました? この初々しさ!」


「……勝手に騒ぐな」


ぴしゃりと言い放つカイだが、その耳がわずかに赤い。


──そこへ。


重厚な気配が近づいてくる。黒と銀を基調とした正装に身を包み、堂々と歩いてきたのは魔王クラヴィスだった。


「お前たち、無事で安心した」


「クラヴィスさん……」


「ユータ。ここでは多くの者が、お前に好意的とは限らない。だが、私の名のもとにある限り、不当な扱いはさせん。安心するといい」


その言葉に、ユータは胸が温かくなるのを感じた。


「……ありがとうございます」


クラヴィスは小さく頷くと、すっと目線をカイへと移す。


「カイ。ファルメイアの娘……ミラ。あれは侮るな。美しさの裏には、執着が潜んでいる」


「……心得ています」


「今夜は“客人”としての顔で現れるだろうが、それがすべてではない。」


そしてそのとき──


「いらっしゃい。ようこそ、我が家へ!」


高らかな声とともに、会場の奥から現れたのは──

三つの顔を持つ、長身の美女だった。


中央の理知的な顔が本体と思しき彼女が微笑む。


「私がミラ=ファルメイア。カイの……フィアンセよ」

その言葉にユータだけでなく、クラヴィスもカイも一瞬、目を細めた。

(えっ、えっ!? 顔、三つある!? ……え、てことは……話す顔、三倍!?)


ユータは混乱しつつもなんとか会釈する。


右の顔、セーラが「キャー!ユータってば意外とカワイイ~♡」とキャピり、

左の顔、グランマが「ふん、骨はあるか見ものだね」と唸る。


(クセ強すぎる!! 顔だけじゃなくキャラも三倍なんかい!!)


その後、晩餐は順調に進んだ。

豪華な料理が並び、クラヴィスや他の貴族たちとの会話にも慣れ始めたころ。


突然──ファンファーレが鳴り響いた。


「皆さま──本日の晩餐会には、もう一つ重要な意味がございます」


ミラが立ち上がり、場を静めると、荘厳な箱を取り出した。


「これは《魂の灯珠たましいのとうじゅ》──我が家が魔王クラヴィス様より賜り、代々大切に受け継いできた聖なる宝具です」


「魂の灯珠たましいのとうじゅ……?」


クラヴィスが、低く落ち着いた声でそっと語る。

「……あれは、“魂誓のソウルライト・セレモニー”を行う為の道具。

魔界における貴族の婚姻では、儀式により先祖の霊たちの承認を得ることで、その絆が正式に認められる。」


「なっ……!」


クラヴィスの説明を受けて、カイが珍しく声を荒げた。


「そんなの、時期尚早だ。俺は──そのつもりで今日ここに来たわけじゃない!」


静かに激昂を押し殺すような声音だったが、誰よりも強く、その儀式の意味を理解しているからこその反応だった。


だが、ミラは動じることなく微笑んで、カイを見つめた。


「つまりこの場で──私とカイの絆を、先祖に認めていただくのです」


そう言って、彼女は胸元に手を添え、淡く光を帯びた珠を高々と掲げる。


「精霊よ──カイ様の伴侶には、私が相応しいとお認めくださいますね?」


──その瞬間、珠がふわりと宙に浮き、まるで心臓のように光を脈打ち始めた。


部屋の空気が張り詰め、すべての視線がその珠に注がれる。


そして──


「……問おう。我が血を引く者、ミラ=ファルメイアよ。

汝は、真にカイ=シェリダンを伴侶と望むか?」


重厚で、性別すら感じさせない、荘厳な声が響いた。

珠の内部に揺らめく光が、まるで“意志”を宿したかのように波打っている。


ミラは嬉しそうに微笑み、真っ直ぐに答える。


「はい。心から、カイ様と生涯を共にしたいと望んでおります」


「──よかろう。ならば、今より、我が承認の炎の儀に入る」


(ま、待って……それって、つまり……)


(カイさんが、ミラと結婚する、ってこと──?)


ユータの鼓動が、耳の奥で大きく響いた。


心のどこかで「まだ大丈夫」だと思っていたのかもしれない。


でも今──この場で、儀式が進み、承認されようとしている。


(ダメだ……このままじゃ、本当に、決まってしまう……!)


そのとき──

ユータの中で何かが弾けた。


「……ちょっと待ってください!!」


声が、勝手に出ていた。


ミラも、カイも、クラヴィスも、全員がこちらを向く。


「ぼ、僕も……っ! 立候補します! カイさんの伴侶に!」


その一言が、晩餐の間を凍りつかせた。


ざわ……と衣擦れの音が響くほど、全員が静止している。


誰もが、ユータの言葉を正しく理解できずにいた。


「……ええっ!? ユータ、やるじゃ〜ん!? ヒュ〜ッ、そう来るとは思わなかったよ〜!」


空気を破ったのは、エクレオの甲高い歓声だった。

ぱちぱちと場違いに拍手まで始めて、場の誰よりも楽しそうな顔をしている。


「これは面白くなってきたぁ〜! ねぇクラヴィス様、どうしますぅ? 人間の逆転劇ってやつぅ?」


すると、クラヴィスが肩をすくめるようにして、ふっと笑った。


「──やはり、そう出るか。ユータ」


どこか嬉しそうに目を細めて、金属製の器から魔界産の蒸留酒をひと口。


その横で、カイはというと──


(──え、まって、今なんて!?)


(ユータが、俺の……伴侶に……!?)


「………………」


目が点になる。


(うそだろ……? ユータが……“カイさんの伴侶に”って、今……俺のこと……俺のこと……)


一瞬で顔が真っ赤になる。


(え、無理、聞いてない、でもうれしい、やばい、なにこれ、うれしすぎて無理、今なら死んでもいい)


カイ=シェリダン、理性完全崩壊。


脳内はもはや薔薇の花園がフル咲き状態だった。


──つづく。


ご覧いただきありがとうございました!

まさかの「俺も立候補します!」が飛び出した晩餐会編、いかがでしたか?

カイの頭の中が薔薇まみれになったところで、次回は“魂誓の試練”に突入です。

顔が3つある婚約者 vs ユータ、恋の(建築的な?)バトル開幕──!

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