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第3話 地獄トイレ、施工召喚で完全リノベ!

魔王城のトイレが爆発寸前──というわけで、ユータ初の大工事スタート!

ブラック施工現場を生き抜いた元一級建築士の知恵と、異世界スキル【施工召喚】がついに本領発揮!

個性派ゴーレムと共に挑むのは、魔素逆流と悪臭にまみれた“地獄便所”!?

褒められるって、こんなに嬉しかったんだ──ユータの心に火が灯る第3話!

 ──魔王城のトイレ問題、それは深刻だった。


「完全に“水回りの地獄”ですね、これは……」


 翌朝、俺は三階東塔の該当トイレに立っていた。タイルは割れ、床は傾き、配管の傾斜は逆勾配。つまり、水が“流れない”という致命的設計ミスだ。

「……この匂いの元、排水トラップがないせいだな」

「トラップ?」

「排水管の途中に、水が溜まる“くびれ”をつけるんだよ。あれがないと、下から匂いやら虫やらが全部逆流してくる」


 現場監督時代のブラックな記憶が蘇る。最悪な現場は、だいたい水回りから崩壊するんだ。


「で、どうするんだ?」


魔王・ルシアスが腕を組んで聞いてきた。

「どうだ、ユータ。この便所──いや、“魔王城の衛生設備”は」


ユータは少し顔をしかめ、即答した。

「残念ながら、全部やり直しです。配管の勾配が死んでるし、封水もない。換気もゼロ。詰まるのは当然です」


「ほう……つまり?」


「このトイレ、構造そのものが“臭気逆流&爆発”仕様です。全部ぶっ壊して、一から作り直す必要があります」


ルシアスが豪快に笑った。

「よかろう! 全部やれ!」


しかしその横で、管財官のセリアが冷静に声を挟んだ。

「……ですが、それを一から施工するとなると、いったい何人の職人を動員するつもりです? 部材調達、人件費、搬入ルートの確保……とても現実的とは──」


ユータはにやりと笑い、工具袋から何かを取り出した。

──それは、魔導石を組み込んだ金属杭。スキル発動用の“グラウンドアンカー”だった。

「──俺のスキル、見せます」


 俺は深呼吸して、両手を組んだ。


「発動:【施工召喚】!」


 バチッ、と空気がはじける音と共に、床の魔方陣から光が噴き出す。


 現れたのは──


「押忍ッス! ゴーレム職人・ムク、今日も元気に施工ッス!」


「初期設計図との誤差、2.3ミリ確認。再スキャン完了。どうも、カクです」


 出た! 俺の相棒たち!


 ムクは筋骨隆々な巨体にツノ付きヘルメット、カクは細身で分厚いゴーグルをかけて、手に設計タブレットを持ってる。


「こ、こやつら……ゴーレムか?」


「スキルと工具が融合した“自律施工型ゴーレム”です。魔力使いますけど、こいつらがいれば一人でフルリノベも可能です」


 ムクは早速工具箱を取り出し、カクは既存配管の傾きや素材をスキャン。


「ユータさん、この床レベル完全にバグってますね。勾配ゼロどころかマイナス傾斜ッス!」


「魔素流量測定完了。流し込み配管は“逆流する構造”そのものです。誰が設計したんですかこれ」


「知らんけど多分、初代の趣味だ」


 魔王、苦笑。


 施工開始。俺とゴーレム二体で床を解体し、配管を引き直す。日本の建築基準に則った“封水機構付き魔導排水”を採用。


「カク、排水角度の再設定! ムク、魔導シール材!」


「了解ッス!」


「……なにあれ、規格外すぎる。こんな精度のゴーレム制御、あり得ませんよ……」と、セリアがぽつり。だがその声はどこか呆れながらも、尊敬がにじんでいた。


 そして数時間後──


「……完成、です!」


改修された魔王城のトイレは、まるで別世界だった。


天井には小型の換気魔導具を2基設置。窓がない空間でも常に新鮮な空気が循環するように調整されている。

床の傾斜と配管勾配は完璧に調整され、魔導水は流れるように排水溝へ。臭気は完全にシャットアウトされていた。


さらに。


「この壁の魔導盤は……?」


「魔素を感知して、使用後に自動で水と風を起動します。言ってみれば、“異世界版・全自動トイレ”ですね」


ユータが胸を張る。

その横では、セリアがぽかんと口を開けた。


「……これは、まるで宮廷の水回りだな……いや、それ以上かもしれません」


ルシアスも唸るように呟いた。

「信じられん。ここが、あの“地獄便所”だったとは……! 魔素逆流で爆発してたあの空間が、今や神域に……!」


「あと、便座の素材を替えてます。熱伝導率の高い“魔導樹脂”を使ってるんで、冬でも冷たくないです」

さらにユータは、壁に設置された魔導盤を指さして付け加えた。

「で、ここの魔導制御盤……実は“ウォシュレット機能”付きです」


「……ウォシュ……レット?」

セリアがわずかに眉をひそめる。


「温水と風で洗浄・乾燥までできる設備です。衛生的で快適、つまりは革命ですね」


「ふむ……なるほど」

ルシアスは腕を組んだまま、何やら考え込むようにうなった。


(……たぶん、ふたりともあんまり理解してないな)


ユータは少しだけ肩をすくめたが、それでも笑顔で胸を張る。


「まあ……真価は後日わかると思いますよ。体験したら絶対驚きますから」


ルシアスとセリアは顔を見合わせ、小さく苦笑した。


──真の快適さが判明するのは、魔王かセリアが“使ってみた”ときなのだった。


だが、そこに至る前に──


「それにしても……これほどまでとはな……!」


ルシアスがぽつりと呟いた。


「構造、設計、動線、仕上がり……まるで“未来の施設”だ。おまえ天才か!? これは革命だぞ、ユータ!」


「ま、俺の信じる“建築”ってのは、こういうことですから」


嬉しそうに微笑むユータに、セリアがぽつりと呟いた。

「……現実離れしているが、完璧だ……見た目だけでも、これだけ信頼できる施工は初めて見た」


ルシアスは豪快に笑いながら、ユータの肩を叩く。


「おい、次は風呂だ! 俺の湯がぬるいんだ! おまえなら、きっと熱々で快適にできるだろう!!」


「ええー……トイレ終わったばっかなんだけど!?」

そう口では文句を言いながらも──

ユータの頬は、ほんのりと赤く染まっていた。


褒められ慣れていない。認められた経験も少ない。

でも今、目の前で本気で喜んでくれている人たちがいる。

すごい、すごいと素直に言ってくれる。


「……へへ。まあ、そう言ってもらえるなら、次も頑張ってみようかな……」


ついこぼれた独り言を、誰も聞いていないふりをしてくれていた。

――つづく。

最後までお読みいただきありがとうございます!

建築×異世界、3話にして早くも“水回り”を解決してしまいました(笑)

今回は「封水」「逆勾配」「魔素排水」など、現代知識と異世界魔法のハイブリッド工事がテーマ。

今後もユータが“異世界の住宅事情”をガンガン快適にしていく予定ですので、

引き続きよろしくお願いします!


※次回は「お風呂編」の予定です♨️

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