第2話 魔王城は“生活”に向いていない
異世界に転移し、建築士団を“魔族寄り”という意味不明な理由で追放されたユータ。
そんな彼を拾ったのは──まさかの魔王様!?
今回は、彼が暮らす《漆黒の城》の実態調査に着手します。
通気ゼロ、動線無視、採光も壊滅。
果ては「トイレ爆発」まで!?
現代建築士のスキルと知識で、欠陥だらけの魔王城をリノベしてやる!
「……こりゃ、ひどいな」
俺は思わず口に出していた。
魔王ルシアス=アークレイドに案内され、《漆黒の城》の内部を歩き始めて数分。壁に走るひび、意味不明な階段の配置、そして──息がこもってる。
「……空気、悪いな。設計の時点で通気をまったく考慮してない」
「やはり、そう感じますか」
横から声がして振り向くと、長身で眼鏡の悪魔がすっと現れた。
「私はセリア=グレイ。城の管財を担当しています。以後、お見知りおきを」
「あ、ども。……いや、初対面でこの空気の悪さ指摘するの、気まずいな」
セリアはくすっと笑っただけだった。
「まず、この通気の悪さ。風の流れが完全に死んでる。建材のせいか? いや、違う。設計段階で空気の通りを考慮してないな」
「ふむ……言われてみれば、夏はやたら蒸すな」
ルシアスは顎に手を添え、うんうんと頷いている。
「で、あの天井の高さも……無駄に高すぎる。見栄えはいいけど、冷暖房効率悪すぎ。ていうか、暖房設備どこ?」
「暖炉があるぞ。だが、燃やす薪を上まで運ぶのが手間でな」
「運搬効率ゼロじゃねぇか!」
「ふはは、だが荘厳だろう?」
「そりゃ確かに“魔王城”感はあるけども……生活拠点としては致命的ですよ!!」
俺のツッコミに、ルシアスは何故か楽しそうに笑った。
「おまえ、本当に小うるさいな。だが、不快じゃない。不思議と心地よいぞ」
「褒めてるのか貶してるのかどっちですか……」
どの部屋にも採光がまるで考慮されていない。窓の配置がデザイン重視すぎて、日中でもロウソク必須。魔族は暗闇に強いとはいえ、健康に悪そうだ。
さらに階段の動線。塔の上に洗濯場、寝室の真下に厨房、しかも魔導炉から出る排熱が隣の部屋に直撃。
「これ、“住む”設計じゃなくて、“籠城用”の発想でしょ。使い手の生活が見えてこない」
「籠城用だ。築五百年だしな」
「時代遅れにも程があるわ!」
「……あの、建築図面ってあります?」
「図面?」
「えっと、設計の記録というか……建てた時の資料みたいな」
「あるわけないだろ。建てた魔導建築師が初代魔王に仕えていた時代の話だ。記録なんて、燃えたか喰われたかだな」
「喰われた!?」
思わず変な声が出た。
「──では、俺が実測していきます。まずは平面図から」
「すべての部屋を測るのか?」
「当然です。まずは現状把握。建築の基本です」
俺は腰の道具袋から、《魔導計測定規》を取り出した。転移時に巻き込まれた建築資料のひとつが、スキルと融合した形で使えるようになったものだ。
「スキル:簡易空間計測、発動」
手の中で定規が光を放ち、俺の視界に簡易なホログラムが浮かび上がる。角度、面積、高さ、空間容積──数秒でその場の寸法が自動表示される。
「な、なんだそれは……!」
隣でルシアスが驚きの声を漏らした。
そのさらに後ろで、眼鏡の悪魔──管財官のセリアが低く声を漏らす。
「……空間を瞬時に測定……これは、“スキル融合型の魔術道具”ですか?」
「まあそんなところです。日本の技術と、こっちの魔素がいい感じにミックスされてて」
「ふふ……なるほど。君は見れば見るほど、予想を裏切ってくれるな」
計測が終わると、俺はその場で図面アプリに記録を転写した。手元の魔導ペンで走り書きしていたラフスケッチに、空間データを統合していく。
「これで大体、ここの階層の平面は拾えました。あとはこの調子で、一部屋ずつ拾っていけば……」
* * *
「……で、実はな。問題はまだある」
「問題?」
「トイレが詰まる」
「……詰まる?」
「いや、頻繁にだ。流れが悪く、たまに爆発する」
「爆発!?」
「魔素過多による逆流らしい。三階の東塔が特にひどい」
「聞けば聞くほどヤバいな!」
俺は深く息をつき、手帳に赤で“最優先案件”と書いた。
「これはもう、構造そのものがダメです。でも、原因はわかりました。明日からさっそくやります」
「おお……!」
ルシアスの目が輝いた。
「期待してるぞ、我が建築士」
「おう。絶対、世界一快適な魔王城にしてやるからな!」
──つづく。
ご覧いただきありがとうございます!
2話は「建築士としての第一歩」として、ユータの能力と視点が輝く回でした。
魔王ルシアスの素直で豪快な一面も、じわじわと滲み出てきましたね。
次回は、いよいよ“リノベ第一弾”に取りかかります。
初回のターゲットはもちろん……あの“爆発するトイレ”です(笑)
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