第16話 カプセルホテル建築、始動! ~勇者も泊まる魔王城の宿~
フードコートの完成で、ますます賑わいを見せる魔王城。
だがその陰で、老朽化した“宿泊施設”が悲鳴を上げていた……。
クラヴィスの突然の帰還。残された謎の言葉。
そして、再会する勇者パーティーと、巻き起こる新たな建築ラッシュ。
「快適さとは、安心とプライバシーだ!」
今度のテーマは──魔界式カプセルホテル!?
東の魔王城・転移ゲート前。
「……では、私はこれより北の地へ戻る。滞在の許可に、礼を言おうルシアスよ。」
クラヴィス=ゼル=ノルドは、相変わらず凛とした姿勢のまま、黒きマントを翻した。
「……唐突だな」
ルシアスが眉をひそめ、呆れたように吐き捨てる。
「しばし、政務があるのでな。」
クラヴィスの視線が、ほんの一瞬だけユータをかすめ──
「……お前の建築には、極めて深い興味を抱いている。いずれ、改めて語る機会を設けよう……今度は、私の城で」
その様子を見たカイは、背後でビリッと空気が揺れた気がして思わず魔力制御を強めた。
──だが、クラヴィスはカイの方へと近づき、すれ違いざまに低く囁いた。
「……いつからだ。完璧なはずの“制御”に、綻びが生まれたのは」
「……!?」
「ふふ、ではな」
それだけ言い残し、クラヴィスは黒き転移陣に足を踏み入れ、音もなく姿を消した。
(……今のは……俺への問いかけか?)
(……まさか、クラヴィス様に──気づかれている……!?)
カイはぐらつく心を必死で抑え込みながら、じっと転移陣の消えた跡を見つめていた。
***
「……というわけで、宿泊施設が限界なんです」
応接室で資料をめくるセリアの声は、いつになく真剣だった。
「ダンジョンが盛況になるのはいいけど、そのぶん外部からの来訪者も増えていて……現在の“魔宿ノ間”では、もう対応しきれません」
「魔宿ノ間……あの、壁にヒビ入ってるとこですか?」
「そう。魔王直轄施設のはずなのに、今や“魔カビノ間”と陰で呼ばれている有様です」
「なるほど、緊急案件ですね……見に行ってみます」
***
魔宿ノ間──
そこは、“宿泊施設”というより“監獄の空き部屋”のような空間だった。
石壁の隙間から草が生え、窓も小さく、空気がこもっている。天井は低く、ベッドも藁敷き。
「……これは確かに、もう寿命ですね」
ユータが図面片手に周囲を見渡していると、後方から元気な声が響く。
「おおっ、ユータじゃん!」
「また会ったねー♪」
「やっほー!」
振り返ると、そこには例の勇者パーティー──リーダーのリオを先頭に、剣士ジン、魔法使いノア、僧侶のメイリィが、ラフな格好で立っていた。どうやらダンジョン帰りのようで、装備も砂埃にまみれている。
「おおっ、ユータじゃん!」
リオが嬉しそうに手を振ってきた。
「また会ったねー♪」
「やっほー!」
それぞれが親しげに声をかけてくる。ユータは少し驚きつつも、笑顔を返した。
「みなさんも、ここの宿に?」
「いや〜、できれば泊まりたくないんだけどさ! フードコートが便利すぎて、拠点にしたいって意見が多数でさ!」
ジンが肩をすくめながら苦笑する。
「でも部屋、ボロすぎるのよね……」
メイリィが眉をしかめて溜息をつく。「湿気がすごいし、虫も出るし。化粧品も置けないわ」
「光と風の流れが悪い。結界の密度も甘い。……睡眠効率が著しく低下する」
ノアはなぜか冷静に統計資料のように語った。
ユータは苦笑しつつ、彼らの話に耳を傾けながら、手元のメモに走り書きしていく。
「でも、こうして利用してくれてるのはすごく嬉しいです。……何か改善できるか考えてみますね」
そう言って微笑んだユータに、リオが目を輝かせて近づいた。
「やっぱすげぇよ、ユータって! おれたちに“宿”まで作ってくれるのか!?」
「えっ、いや、まだ決まったわけじゃ──」
「天才だな!やっぱユータは“隠された賢者”なんじゃ……!」
「賢者じゃないです。建築士です……」
振り回されつつも、どこか楽しげにユータが返すと、ノア(※勇者パーティーの魔法工学担当)が古びた建物を一瞥して、ボソリと呟いた。
「……この建物、部屋が無駄に横長だな。壁の断熱も甘いし、通気も悪い。これ以上収容数を増やすなら、縦に使うしかない」
「縦に……?」
ユータは、ふとその言葉に引っかかった。
(なるほど……たしかにこの構造、壁と天井の空間がほとんど“死んでる”……しかも廊下がやたら広いせいで、ベッド数も少ない)
宿泊棟の構造を脳内でスキャンするように思い描く。
(もし、ひとつひとつの寝室スペースを“部屋”じゃなくて“ユニット”にしたら……)
「……カプセル、みたいにすればいいんだ……!」
ぽつりと漏らしたその言葉に、自分でも驚いた。
(それなら狭い敷地でも倍以上収容できる。しかも清潔で、女性にも安心して使ってもらえるような構造にすれば……!)
ユータの視線が、老朽化した宿泊棟の方へと向かう。
──新たな建築のイメージが、静かに立ち上がりはじめていた。
* * *
ユータが勇者たちと熱心に会話している。
「なるほど! 女性でも安心して泊まれる個室構造……それ、絶対ニーズありますね!」
「でしょー!? シャワーつきがいい!」
「音漏れしない壁もほしい!」
アイデアをポンポン交わす一同。ユータは楽しそうに、勇者パーティーの女子たちとスケッチを描き始めていた。
──魔王城・旧宿泊棟の屋根の上。
尖塔の影に身を潜め、視界を遮る瓦の起伏を背にして、カイ=ヴァレンティアはひとり気配を殺していた。完全な隠密状態。魔力を遮断し、自身を風の精霊に同化させていた。
(それにしても……あいつ、女子に囲まれてご機嫌じゃないか)
呆れと嫉妬の入り混じった視線を向けていた、その時。
「──カイさーん! 屋根の上ですよねー!? ちょっと来てくださーい!」
広場の下から、ユータの声が響き渡った。
「……っ!?」
カイは瞬時に跳ね起き、瓦を踏み抜きそうになる足を必死に止めた。
(な、なぜバレた……!?)
彼の瞳が、真下のユータとばっちり目が合う。
ユータは笑顔で手を振っている。
「なんとなく……絶対どこかで見てると思って!」
その一言に、カイの思考が一瞬停止した。
(……なんとなく、だと?)
(そんな感覚的なことで、どうして──)
……心拍数が、跳ね上がる。
(やめろ……そういうところが……)
胸の奥で何かが爆発しそうになりながらも、カイはそっとマントを翻し、屋根から降りる準備を始めた。
つづく
ご覧いただきありがとうございました!
クラヴィス編は一旦区切りとなり、物語は再びユータの建築奮闘モードへ。
勇者パーティーとの絡みもどんどん賑やかになってきました。
次回はいよいよ“魔界カプセルホテル”プロジェクトが本格始動!
あの人が設計に口を出したり、カイの乙女心がまたも爆発したり……?
お楽しみに!




