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第14話 北の魔王、建築家にときめく

浴槽事件から数日。ユータは、ついに“北の魔王”クラヴィスとの正式な対面を果たす。

魔王の厳しい質問攻めに、ユータは自然体で応じ──その姿に、クラヴィスは予想外のときめきを覚えてしまう。

そのころカイは……全力でモヤっていた。

浴槽事件から少しの時間が経ったあと──

 ユータとクラヴィスは、改めて正式に対面していた。


場所は、魔王城の応接室──重厚な石壁と魔力を遮断する結界に囲まれた、格式ある空間だった。

魔王ルシアスの「おまえら、ちゃんと座って話せ!」という明るい圧によって、半ば強制的に整えられた場である。


 テーブルを挟んで向き合うふたり。ユータはやや緊張気味だった。


「……君が、“例の空間”を設計したと聞いている」


 クラヴィスの視線は鋭い。それでいて、どこか品がある。

 同時に、彼の言葉には、目の前の人物を“正しく評価したい”という熱意が滲んでいた。


「はい。設計と施工の全体を監修しました。僕は元の世界で“建築士”をしていて──」


「構造解析は魔力干渉値で行ったのか?」


 突然の質問に、ユータはぱちくりと瞬きした。


「……いえ、主には素材ごとの熱伝導と魔力拡散のバランスを最適化することで。

建材には“高反射率系”と“魔力循環型”を併用してます。この魔王城って空気が篭もりやすいので……」


「ほう……。では、“七渦式重層陣”は知っていたか?」


「名前は知らなかったけど、設計中に自然とその配置になってました。

何層かずらすと、来場者の導線が渋滞しにくくて……」


「……っ」

クラヴィスの口元がわずかに緩む。


セリアが口元に微笑を浮かべ、静かに言葉を添えた。

 「構造理論に“言語化される前の感覚”がある……ユータは職人として、本物です」


 ユータは少し照れたように笑った。

 「……建築のことになると、つい夢中になっちゃって」


 クラヴィスは黙って、静かに頷いた。


 クラヴィスは、数秒沈黙し──ふっと息をついた。


「……認めよう。君の建築思想は、私の理解を超えていた。

建築家として、君の発想と構築力は、魔界でも通じる“技術”だ」


「……っ、ありがとうございます!」


 ユータは、思わず背筋を正した。

 その横顔を、クラヴィスは無言で見つめていた。


(……華奢な身体。だが目は、まっすぐで、ぶれない)


(あの図面を描いた手だ。無駄がない。けれど、やわらかい)


(────なんだこの感覚は)


 脳内のどこかがチリ、と熱を帯びる。

 かつて戦場を駆けたときに感じた“昂揚”とはまるで違う。

 この異世界人は──危険だ。


(可愛らしいのに、妙に……男っぽい。言葉の芯がある)


(まさか、惹かれている……?)


(いや、落ち着け。私はクラヴィス=ゼル=ノルド。魔王だ)


 だが、理性で心の動きを抑え込むには、すでに少しだけ──遅かった。


 一方そのころ──


(なんだあのクラヴィス様の目……)


 別室にいたカイは、扉のすき間からふたりのやりとりを盗み見ながら、脳内で絶賛モヤり中だった。


(設計に感動してたのはわかる。でも……なんか、目が、目が違った)


(ユータを見る“建築フェチ”の顔じゃなかったぞ、あれは……!)


(……いや、別に構わない。任務なんだし、感情を交えるなど論外だ)


(でも、でも……)


「俺の……任務、なんですけど」


 誰にも聞かれていない言葉を、そっと零す。


 その声音は、なぜかほんの少しだけ拗ねていた。


 魔王城・会議室。


「では、私はもう少し滞在させてもらうぞ。ルシアス、部屋を頼む」


「おうよ、好きにしてけ。」


 ひらりとマントを翻し、クラヴィスは去っていった。


 その背を見送りながら、セリアは眉をひそめる。


「……あの態度、明らかに“企んでいる顔”でしたね」


「クラヴィス様が、ですか?」とユータが首を傾げると、セリアは肩を竦めてみせた。


「建築に対する情熱は本物です。でも、“それだけ”なら、あんな顔はしません」


「まさか──」と呟くユータに、ルシアスが呑気に笑った。


「はっはっは、まあ仲良くやってくれ!」


 ──そのころ。


 北の魔王・クラヴィスの私室。


 カーテンの閉められた静かな空間に、ひとりの男が跪いていた。


「カイ=ヴァレンティア、参上しました」


「よく来た」


 椅子に座るクラヴィスは、卓上の魔導地図を指でなぞりながら、ふと顔を上げた。


「──ユータを、我が城に迎えたい」


「………………えっ?」


 一瞬、沈黙。


「いえ……それはつまり……魔王城の……“建築家として”、でしょうか……?」


「もちろんだ。北の城は古く、再設計の余地がある。

そして、彼にはその価値がある。

……ちょうど、私の寝室の隣の部屋が空いておってな。

特別ゲストとして、そこに滞在してもらおうと思っている」


「な、な、な、なにをおっしゃいますかクラヴィス様ァアア!?」


 カイが素っ頓狂な声をあげた。


(ぜっっったい“偶然”じゃないから!!

よりによって寝室の隣って何!? 何その配置ミスという名の確信犯!?

壁、薄かったらどうするの!?

夜中に「眠れん」とか言ってクラヴィス様がバスローブ姿でノックしてきて──

『隣がうるさくて寝られん』とか言いながらそのまま侵入してきて──

って、わあああああああああ!!!)


 クラヴィスは無表情のまま続ける。


「ちなみに、建築家の安全は万全に確保したい。執務エリアからも近いし、私が常に様子を──」


「お、おやめくださいっ!!」


 ズザッと膝を滑らせてにじり寄るカイ。


「ユータ殿は、現在《東の魔王領》にて非常に繊細な文化的観察と心理的ケアを要する環境にありまして……! 

 それをいきなり、隣室に招くなど、建築以前に社会的距離がゼロに──!」


「……何を言っている」


(言ってる自分でも意味がわからない!!)


 カイは額に汗をにじませ、クラヴィスの表情を伺った。


 ──が、冷徹な瞳は一切の揺らぎを見せない。


(まずい、クラヴィス様が本気だ……!)


(あの人……建築を口実に、確実にユータ殿を自分の“私有物”にしようとしている……!)


 心の中で鐘が鳴る。


 ──カイ=ヴァレンティア最大のピンチ、到来。


 つづく。

クラヴィス様、寝室の隣はあかんて。

本気なのか計算なのか……どっちにしてもユータの“安全”は守らねばならぬ(by カイ)

次回、カイ=ヴァレンティア最大の奮闘回をお楽しみに。

いやほんとにがんばれカイくん。


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