第1話 追放建築士、魔王に拾われる
⚒️ブラック建築士人生の果ては──まさかの魔王城リノベ⁉
一級建築士の資格を持ちながら、“魔族寄りの思想”という謎の理由で異世界王国を追放された主人公ユータ。
放浪の果てに拾ってくれたのは、豪快かつちょっと生活感ある魔王様で……?
魔王の依頼で、“漆黒の城”を快適空間にリノベせよ──!
追放×建築×ちょいBLな異世界リノベファンタジー、はじまります
「ユータ=ミナト、貴殿を王国建築士団より除名する。理由は──“建築思想が魔族寄り”と見なされたためだ」
「は??」
俺は思わず聞き返した。いやいや、何言ってんのこの人。
「“斜面地を活かした換気型階層構造”のどこが魔族寄りなんだよ!? 耐震、通気、災害対応まで全部考慮して──」
「だがその構造は、昨年魔族領で発見された砦と酷似している。我が王国の価値観とは相容れぬ」
「価値観って……城って快適に住むもんじゃねぇのかよ!?」
──そう言い返したところで、どうにもならなかった。
「ユータ=ミナト、追放処分。機密保持のため、国外退去を命ずる」
おまけにテンプレートみたいな追い打ちまでついてきた。
「クソが……俺は、住む人のことだけを考えて設計しただけだぞ……」
残されたのは、建築士資格を失った俺と、荷車一台の私物だけ。
誰もいない街道を、ひとり黙って歩く。
白紙になった人生設計を引きずって。
思えば、現実世界で事故に巻き込まれて、目を覚ましたらここだった。
「転移って、そういうノリなのか……」と呆れたのが最初だった。
──いや、現実世界でも同じだった。
一級建築士の資格を取るまで、俺は人並み以上に努力した。
ブラックな施工現場。深夜の製図。理不尽な怒号。休日ゼロ。
それでも、「誰かの暮らしのために」と思って、耐えて、踏ん張ってきた。
……それなのに、このザマだ。
「はは、異世界でもブラック人生かよ……笑えねぇな……」
そのとき、風鈴のような音が、カランと耳を打った。
ふと振り返ると、黒衣の青年が、森の陰に立っていた。
紅玉のような目が、静かに俺を見ている。
「君が……ユータ=ミナト、だな」
「え? ああ、俺だけど……誰?」
「我が主──魔王陛下が、君をお呼びだ」
「……魔王?」
* * *
漆黒の尖塔と、うねるような回廊。
玉座の間に一歩足を踏み入れた瞬間、その空気に、俺は息をのんだ。
薄闇の中、玉座にふんぞり返るように座る男。
肩まで流れる金髪が、燭台の光に揺れてきらめく。その顔は若々しいが、笑っていない時でもどこか楽しげな雰囲気をまとっている。
だが、その双眸――琥珀色の瞳には、万物を見下ろす王の風格が宿っていた。
煌びやかな黒金の軍装に、片方だけ羽織ったマント。王というより、“将”のような、戦場に立つ支配者の姿。
「ようこそ、“漆黒の城”へ。俺がこの城の主、魔王──ルシアス=アークレイドだ」
その声は朗々と響き、玉座の間の空気ごと揺らした。
「貴様が……人間の建築士か」
その声音は低く、よく通る。だが、冷たくはなかった。
「……あ、はい。ユータ=ミナトです。あの……呼ばれた理由って……?」
男は立ち上がり、ゆっくりと階段を下りてくる。
背が高い。威圧感はあるのに、なぜか視線が柔らかい。
「この《漆黒の城》は、今、我ら魔族の拠点だ。だが──住みづらい」
「は……?」
「階段は多く、通気も悪く、冬は冷える。トイレもよく詰まる。洗濯場は塔の最上階、遠すぎる」
「……生活感がすごすぎる!!」
男──魔王は、ほんの少しだけ微笑んだように見えた。
「我が名は、ルシアス=アークレイド。魔王として、君に依頼する」
「依頼……?」
「この“城”を、“住まい”に変えてほしい。戦う砦であり、癒しの拠点としての、本当の居場所に」
ドクン、と胸が鳴った。
──この人、本気だ。
誰も俺の図面に耳を貸してくれなかったのに。
この魔王は、真剣な目で、俺の“思想”に向き合おうとしている。
「……魔王陛下。こんな俺で、本当にいいんですか?」
「君を選んだのは、私だ。“住む人を想う建築士”──君にしかできぬことがあると、思っている」
そう言って、まっすぐに見つめられた。
何かを試すような、あるいは……期待するような眼差しで。
「……なら、やらせてください。この魔王城を、世界一快適な住まいにしてみせます」
そう宣言したときの魔王の表情が──少しだけ、柔らかくほどけた気がした。
こうして、“追放された人間の建築士”と“孤高の魔王”の、奇妙なリノベ生活が幕を開けた。
お読みいただきありがとうございました!
異世界に行ってまで追放されるというハードスタートですが、ここから“建築士”という知識と情熱で、ユータが魔王城をどう変えていくのか。
魔王ルシアスとの関係も、“仕事相手”から“それ以上”になる……かも?
次回は、早速問題だらけの魔王城の内部に潜入!
「設計士あるある」と「魔族の生活事情」が交差する、奇妙な共同生活の始まりです。
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