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薄闇
夕闇の中、鞠はビルの間にひっそりと建つ木造アパートを振り返った。
「……案外、頑固者だったわね」
「ま、いいんじゃないの? 本人、あんなに嫌がってるわけだし」
「――スペクスト。彼をあなどってはいけないわ」
スペクスト、と呼ばれた青髪の男は巨剣を肩に担いでさっさと歩き始める。
「ただの吸血鬼なんだろ?」
「鞠の言うとおりだ。彼を軽く見てはならない」
一番後ろを歩いていたバイザーの男が神妙に口を開く。
「私たちがミヤコの捕獲に手間取っている間、彼は始終、陰からこちらの様子を見ていた。だが、私たちはそれに全く気がつかなかった」
「師範も教授も買いかぶり過ぎだっての。第一、それだけの技量しかなかったら、役に立たねぇだろ?」
スペクストは大きく伸びをする。
「危ない」
ずっと黙っていた少女、ミヤコがぽつりと漏らした。
「危ない……? 誰が?」
隣りを歩く鞠が尋ねると、ミヤコは漆黒の瞳を木造アパートに向ける。
「あそこ、危ない。悪いモノ、集まってくる」
四人は足を止め、古びた建物を静かに眺めた。