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9話 鶏むね肉の失敗と柔軟な思考

日曜:地球

はー、朝です。朝日ですよ奥さん!

やっっと晴れましたよ。夫が起きる前にいそいそと早朝の庭へ。


「薬草達葉っぱが出てきてる!」

株分け成功っしゃあ!雨で水はたっぷりだ。今日は水やりはおやすみである。

だがしかーし!

乾燥させようと端にかためてあった雑草がバラッバラに流れて散らばっていた。水魔法で一カ所に集めて水分を抜いて収納。


さて今日は日曜日、しっかり主婦を全うしないと。

私は目を閉じて大きく息を吸い、ゆっくり息を吐く。

腕を体の横にストンと降ろす。真横よりほんのすこし後ろ。

私は口角を上げた。


ジャージを洗濯籠に入れ、白いブラウスと、ベージュのロングスカートを履いた。髪をねじってクリップで留める。髪をつまんで引き出して、これでよし。

化粧水の使用感を確かめ、洗面所を出たところに居た和樹は、私の頭から足元までを見て言った。

「おはよう。母さん」

「ええ。おはよう。和樹」


昼食は鶏胸肉でオムライス。

2キロ鶏肉を小分け保存し節約する動画をインターネットで見て、流行っていると聞いたのだ。流行=普通、まずは多数派の生活を真似る所からだ。2日連続猪だったので今日は鶏。私は脂っこいもも肉よりムネの方が断然好きだ。

私は普通を目指すよりもカースト上位を演じる方が良いのではないかと時々迷う。だが能力以上の事をルールに決めるのはとても危険。


たまにならセレブに憧れるのもまた普通の主婦。

今日は異世界チートを授かった事による変更を最適化。ルールの抜け道と優先順位を考える修行。私は自分さえ我慢をすれば疑似的に柔軟な思考ができる。欠陥品がこの理不尽な世の中に順応する為の自分という役割作りをするのだ。


「唯芽、今日もご飯ありがとうね」

夫はいつもの様に笑うが、美味しいとは言わなかった。

「胸肉かー。俺ももの方が好き」と息子。

「ごめんなさい。私は胸肉の方があっさりして好きなんだけれど、次からはももを買う様にするわ」

不評である。次はもも肉を買うとしよう。

「二人には胸肉の方がヘルシーで良いかもな。俺は関係ねえけど」

息子がむかつくドヤ顔をしてきた。

煽りに乗る気分じゃない。だって夫も不味いと思っているもの。反省はしないと。

すると、息子は珍しく普通の顔で言った。


「まあでも、わざわざ安いの買わなくていんじゃね?処理とか手間だろ」

「えっ!あなたもしかして分かるの?」


息子の味覚が強いのなら、冷凍鶏肉は可哀想だったかも知れない。母なら完璧に処理できるのだけど、私はまだまだみたいだ。

「あ、いや、好みよ。俺はジューシーな方が好きかな」


「主婦は節約するのが普通だと聞いたから頑張っていたのだけれど。あなたの好みは理解したわ」


「唯芽、君はとても料理が上手だからどんな安い物でも美味しくしてしまうけど、無理して節約しなくて良いんだよ。収入によって普通の基準は違うんだ」


「ごめんなさい。そうね。私なら完璧に処理できると思ったのは驕りだったわ。身の程を弁えないと」

「いやそういう意味じゃないんだけどな。手順を減らして時間をやりくりするのも主婦っていうか……」

パサつきを抑える為にソミュール液に重曹を加えるか、いや苦味が出るか。オイル多めで炒めるか、いやでもそれだと太るか。胸肉は副菜で使おう。メインはもも肉に変更しないと。

「だめだ、もう聞いてねえ」

「はは。多分今下処理の事を考えているね。クレームから入ったのはミスだよ和樹」

「負担減らしてやりたかったんだけどなあ」


昼は夫と録画したバラエティを見てのんびりする。

スパイを探すバラエティが最近のお気に入り。

クイズ番組は見ない。私も夫も答えが分かってしまうからだ。昔、息子と見ていた時、反射的に答えてしまい怒られた。以来、私達の中で見ないルールになった。

バラエティは夫の勧めである。

芸人さんは頭の回転が早く話すのがうまい。参考になる事も多い。

つまり、テレビも勉強なのである。


夕食はお好み焼き。豚玉もとい猪玉だ。

もう豚肉と言って良いような気がさえしてきた。


——


さて、今日の異世界!

インターネットでよく見る縦型の簡単な構造のボックス型燻製器を作ろうと思う。先日作った屋根とは別の場所に一段上げて設置。木で作るのが一般的だろうけど、慣れた土魔法で据え置き型にした。


高さをつけて一番上の段で冷燻も出来るように。一番下にはスモークウッドを置いて燃やした時に火が消えない様、空気穴も開けた。

扉は観音開き。金網や蝶番はさすがにホームセンターで購入した。でもやっぱり土魔法で金属加工できないかなとちょっとだけ思った。


今度ホームセンターに行った時には色んな部品の構造を実際に見て勉強しようと思う。

知らなきゃ作れないもんね!

私なんかただの普通の主婦だから日本に戻れてなかったら生きていける気がしない。もっと色んな勉強しなくちゃね。


——

月曜:地球

最近とても目覚めが良い。今日は2人が起きる前にお弁当を作る事ができた。

「おはよう唯芽。早いね」

「おはよう父さん、母さん」

「おはよう。今日からは一緒に食べましょう」

2人と一緒に朝ご飯を食べる時間ができたから、明日も早起きしよう。これを本日から私のルールに設定する。でもあまり厳しくすると無理が出るから、ゆるく、ゆるーく設定だ。

色々な手際もかなり良くなった気がする。


今日は猪カレーを煮込む。

贅沢にサイコロに切って炒めてから一度取り出しその油で玉ねぎを炒めていく。飴色になったらバターと小麦粉を入れて炒め、赤い缶のカレー粉を入れて更に炒め、お肉を戻して水を入れて煮込む。


煮込んでいる間にナン作り。

いつもは丸い形だけど、今日はあの長い形に成型してみたら上手くできた。形一つで本格的に見える。

二次発酵が終わったらフライパンで焼き上げ収納した。

同じ生地を丸くしてピザ台も大量に作って、こちらはは焼く前の状態で収納した。


ナンとカレー、家族大絶賛である。

「今日も手が込んでるね!唯芽。」

「スゲェな!母さんもうカレー屋とかやればいいんじゃね?」

何故だかは分からないが、同じレシピでも丸いナンよりあの長い形の方がテンションが上がるのだ。


スキルが無いのに料理に磨きがかかってきた気がする。器用さのせいか。

まあスキル化するなら普通にできる料理より普通の主婦は決して習得する機会のないジビエの解体の方が確実にレアだし、これからの異世界生活で再び大物を倒した際には必要になる気がする。こちらの実生活でも魚の一発解体は素晴らしい。今考えても解体で良かったと思う。


そして、夜お風呂上がりに夫の髪の毛のケアをしてあげた。

夫は突然の提案に驚いていたけれど、今は私の前に座ってされるがままだ。


浄化して、あの化粧水で。

髪は長ーい友達だから、薄くなる前に普段から大事にしないと。

私が髪に触れるなんて珍しいから警戒されると思ったけれど、夫は普通にされるがままだった。

治癒魔法はあるみたいだけれど、うっかり光ったりしなくて良かったと後から思った。


——

さて!異世界の聖域にて!

家で塩漬け、塩抜きしてきた猪バラ肉を軽く魔法で風乾燥させ、念の為もう一度浄化してから金網に乗せた。浄化はMPが必要ないからしつこくやる癖がついてしまった。

スモークウッドの上にピートを大さじ1振りかけて燻製器にセット。火魔法バーナーでイグニッション!

煙が出て来たのを確認。これで扉を閉めて放置したら燻製が出来上がる予定。浄化があるから食中毒対策もバッチリの安心安全。


今までは家のコンロでフライパンとスモークチップを使って作っていたから、燻製した日は家の中が煙臭くなる。熱の入り方で出来栄えにムラはあるし、一度に少ししかできないし、高さのある物は燻せなくて不便だったから、縦型の燻製器は念願だった。

「出来上がりがめっちゃ楽しみ〜」


そしてその間にピザ窯を作る。

インターネットで検索してプリントアウトしたピザ窯の作り方を参考にする。錬金術で土の成分をいじってレンガを作る。ピザ窯に最適なレンガをと念じながら、赤い色の可愛いレンガを作ってしっかり固め、風魔法で乾燥させて、火魔法で焼いていく。大量に作ってたらいつの間にか夢中になっていて、気付いたら朝でした。

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