80話 【配信回】息子よ、それは計算法じゃない
今日は祝日だけれど、夫をパチンコに追い出して初ちゃんを家に呼んだ。
初ちゃんにお守りとマジック収納カードを渡した。在庫全部は入らなかったけれど、ドール部屋に置いてもらう魔石も渡した。ドール部屋は絶対に旦那さんは入らないというので。
転移は聖域外では殆ど使ってこなかったから、全然性能が分かっていないし、全く上達もしていない。条件によって一律では無いことだけは分かっている。一応地球から地球の転移で魔石は割れなかったので、私が常にMPをMAXに保つ事で魔石が割れる事は回避できそうだ。
息子には撮影をするからくれぐれもしばらくリビングには来ないでねと言っておく。映り込んでは大変だし、息子の見ている前で別人になりきって撮影など恥ずかしくてできる気がしない。私はバイト先に別人になりきって潜入して最初からバレていた事を思い出して悶えた。
「こんにちは!主婦ユメカです!今日も前回に引き続きメイク動画ですよ!」
:え、誰
:別人
「え?顔が違う?そうです、今日は男の子メイクをやっていこうと思います!是非皆さんも練習して男の子になりましょう!」
私はサクサクメイクしていく。
そしてウィッグの男の子カットも披露して男の子っぽい喋りで
「っし!完成っと!見てこれ完璧!」
:声が
:少年ボイス
:多彩だな
:すごい
「最後にお知らせとお詫びがあります。実は知り合いの飲食店をお手伝いをする事になりまして主婦ユメカが主婦じゃないユメカになります」
:ユメカなら納得
:プロになるんだねユメカたん
:がんばれ
:配信どうなる?
「みんなありがとう。実は新しいバイトさんが見つかるまではしばらくの間生配信をできなくなりそうなんです。まだ始めたばかりなのに応援して下さった方、楽しみに待って下さっていた方、ご期待に添えなくてごめんなさい。しばらく生配信のお休みをいただきます。制作動画、ショート動画はまた上げていきますので、皆様これからも応援よろしくお願い致します!」
会いに行きます、店教えてなんていうコメントも沢山あったがお店に詰め掛けたら大変なのでもちろん場所を公開する事なく、言いたい事を言って撮影を切り上げた。批判が出たらどうしよう。うう。こわいよう。
初ちゃんがコメントを出してくれている間に、メイクを落としにいこうとドアを開けたら、息子が聞き耳たてていた……。
「立ち聞きとか!」
「ちげえ!腹が減ったんだよ!」
最近息子の言葉がきついよう。
腹が減ったとうるさいので、初ちゃんも交えてお茶する事になった。男の子はよくお腹空くらしいからね。
「何なのメイク動画とか彫刻とかさー。神がかってねぇ?何気に視聴者数すごいしさー」
もう4個目くらいのフィナンシェを自分のお皿へトングでうつし、フィルムをめくりながら言う。
そんな小さなフィナンシェではカロリーばかりでお腹は膨れないよ。
それは女子用なのだよ。
「イケメンの和樹君が配信に出てくれたらもっと視聴者増えそうだよね」と初ちゃん
「ダメダメ、和樹はただでさえファンが多いんだから騒ぎになるよ。バイト先が長蛇の列なんだから。明日から私が出勤で乙女の落胆を思うと気が重いわー」
女子達に私が逆恨みされたらどうしよう。めっちゃ怖いんですけど。ちょっと胃がキリキリする。
「あんな奴らほっとけほっとけ。まあ婆ちゃん店持ち直したって言うし良かったじゃん。てか母さん絶対客に思わせぶりすんなよ。女にもだぞ?あとくれぐれも目立つなよ」
「えぇ、私は大丈夫だよー。こんなに地味に生きてて目立つ要素ないもの」
「唯芽さん天然だよねえ」
息子がうんうん頷いている。そんなに天然かなあ?
初ちゃんが帰ってから洗い物をしようとキッチンに行くと、息子がカップラーメンにお湯を注いでいた。
「ええ!今おやつ食べたとこじゃん!ご飯前でしょ!!」
「げっ!バレた!」
もうお湯入れちゃったし。許すしかないし。
「足りねーんだよ。仕方ないだろ。父さん母さんは歳かもだけど、俺は消費カロリーが多いの」
とスマホで二十代男性の運動量多い人の代謝量を見せてきた。
でも息子は確かインドアだったはず。
「言っとくけど、基礎代謝だけじゃ足りねーから。これプラス動いた分のエネルギーも必要だかんな」
でもラーメンのカロリーは高かったはず……!さっきのフィナンシェも高かったはず!
私は頭の中で計算しようとして訳がわからなくなって眉間をぐりぐり揉んだ。
そうだ。子供のご飯が足りないのは良くないことだった。
「ご飯足りなくてごめんなさい」
「ちょちょちょ、ほんとに土下座やめろって。飯前に食ってごめんって。夕飯も絶対残さず食うから。ほんと顔上げてくれ」
私は言われた通り顔を上げて息子を見た。
「なあ、母さん、最近痩せ気味だからちゃんと食えよ?母さん最近コメ食わねえだろ。肉と野菜だけじゃダメなんだ。な、せめて俺の半分は食え。な」
「でも食べすぎちゃいけないって。アラフォーだから気にしないとって皆言うから」
「腹が減るってのは、体が必要としてんの。な、母さん最近動きすぎだから。動いた分のカロリーは取れ。そのうち倒れるぞ」
「計算苦手なの」
「母さん動きすぎだし歳より肉体年齢多分若いからなあ。三十代くらいで計算してまた渡すわ」
「自分でできないと、いちいち料理のたびに聞きにいけないの」
「それもそうか。あのな、どんぶり勘定っつう計算法があって、下1桁を省くと多分母さんも計算できるから。電卓はスマホに入ってるだろ?母さんきっちりしすぎだから覚えろ。少しくらい多くても良いし、気になるなら繰り上げろ。昼飯も食えよ?」
「分かった。そうする」
でもどんぶり勘定って計算法じゃなかった様な気がする。
異世界。
さて、再び商業ギルドに来た。エリザさん、ライルさんは一瞬で私を転移者と見抜いた。使徒については否定したけれど。
「商業ギルドはユメ様の後ろ盾となり、一切の見返りを求める事なく国や貴族との防波堤となる事をお約束します」という言質と、同様の文言が書かれた文書をいただいた。
この破格の対応、使徒扱いされている臭い。
もしくは私が強すぎて暴れたら怖いなと思ってるのかも知れない。
慎重に言葉は選んでいたけれど、バロア大森林に住む時点でちょっと頭おかしいっぽい。
えー?バロア大森林でも強い敵はたまーにしか居ないよ?




