62話 ワニと牛と斜め上の配信者
火曜日:地球
主婦ユメカとは、唯芽と唯花から取ったらしいのだけども、名前が本名似すぎている。
今までの動画を見たら、
ウッドデッキ
スチームパンク ドール服、
懐中時計作ってみた
弾き語りモノマネ
と結構な数が上がっていた。
唯花からの候補は、ショート動画ダンクシュート決めてみた、バク宙してみた。二重跳び連続チャレンジと運動系が多かった……。
「私はやっぱり料理動画撮りたいな。パイとか、生パスタ作りとか、パンとか」
料理動画は結構よくある。コスパや手順を簡略化して誰でも作れる様にアレンジした物と、逆に誰にもできない職人技を見せつける様なものはよく再生されている気がする。前者ならすぐにでも撮れる。
「それも良いんですが、ジビエはどうですか?熊の大和煮作ってみたウッドデッキで牡丹鍋してみた、羊を七輪で焼いてひたすら食べる動画、鹿肉ロースト作ってみた……あとは、鹿の皮なめしてみたも面白いかも」
「ジビエはともかく皮は絶対無理だよ。狩猟免許持ってないからなめし前の皮とか出所疑われる。……って鹿?!」
「はい。鹿肉ありますよ?」
えーー。あるんだー。
「では、主婦が狩猟免許取得に向けて頑張る動画はいかがでしょうか」
「いや無理だから」
バズる動画を考えるのは難しい。自分がやりたい事じゃなくて、人の立場になって何が面白いかを考えるのが私には難しい。とりあえず近所の公園でダンクシュート決めてこようと思ったけれど公園だと撮影者が居ない。
ためしに庭でバク宙してみたら一発成功。
でもたった今まで動画を撮っていたはずの唯花が居ない。
「は?母さん家の中で変装とか何!」
おっふまた息子に見られたっ!
——
異世界にて。
「ちなみに主婦が素手でワニと戦う動画とかどうです?」
やるわけ無いし。悪ノリがすぎる。
「は?!ワニ?!」
「普通にいますよ?」
普通って何だ。
ドール服の製作をやめたら一気に暇ができてやる事が無い。
だがとにかくワニは却下だ。
とりあえず面白いものがあるかも知れないから唯花のアイテムボックスの中の物を整理する事にした。
「牛があるじゃん……。なんで?どこで??」
「牛はあまり購入されないので、好きではないのかと思っていました」
いや高いからに決まっているでしょ。
聞けば西の方でたまたま群れに出会ったらしく結構沢山狩ったという。
牛もワニもココがかなり食べたらしい。
「ええ……」
「だ、大丈夫ですよマスター。牛はまだまだあります。たくさん食べましょう。今からステーキ焼きますか?焼き肉がいいですか?」
唯花が焦って取り繕う。私はなんでここまで怖がられているのか。
「とにかく一頭まるごと分けてよ。解体してみたい」
「そうですね!そうしましょう」
何故か唯花は七輪とレモンを出した。
「ええ……しないよ。焼肉。皮が欲しいの」
ちなみに、とある地方ではサメのことをワニというらしいけれど、ココが食べたのはクロコダイルの方のワニである。
ワニ、鹿、牛とゲットしたので皮の加工をする。ワニ革の財布なら、あの手作り懐中時計に価値で勝てるけど、どこで買ったとかいくらしたとか聞かれたら困る。
3月の誕生日までじっくり考えるしかないか。
「ところで、ダチョウとか蛇はいたー?」
「残念ながら」
私は個人的にオーストリッチが好きなのに。
皮は使い所が難しい。輸出入禁止のものなどは、下手をすれば密輸を疑われる。密輸では無い証明は無理だ。
だけど肉はまだまだある。なんせ異世界、サイズが桁違いなのだ。
現実逃避しているけれど、実は明日初ちゃんが来る……。緊張する。私の返答によっては、また他の人の様に私から離れていく。私はやっぱり人と仲良くなりすぎてはいけないのだ。
水曜日:地球。
初ちゃんが家にきた……。
「覚悟は決めた?」
初ちゃんが紅茶を一口飲んでこちらを見る。
「服作りやめて配信者になろうと思う」
「いや方向性が斜め上!」
初ちゃん食い気味のツッコミである。
私はそんな変なこと言ったかな。じわじわ視聴数が増えているんだけども。
「言わせてもらうとね、このまま配信者続けるなら、ドール関係はむしろやめない方が良い。スチームパンクと懐中時計動画のクオリティが高すぎて、コメントで問い合わせが殺到してるでしょ?あれを無視し続けたら、きっと不満が噴出すると思う」
そうなのだ。あれからも問い合わせが来ていて、制作の目処が立たないとお断りしている状態。私はどうしていいか分からずに黙り込む。
「ハァ……唯芽さんの発想が斜め上なのは今更だよね……。しっかり売り上げ出る様にサポートしていくから、一緒に頑張ろ。友達なんだから、1人で思い詰めずにもっと私を頼って欲しい」
知らなかった。私は初ちゃんにとっての友達になれていたのか……。
初ちゃんとドール服の販売を続ける事になった。ゆくゆくはお店を作ってブランド化した方が良いとも言われた。その時は初ちゃんも仕事やめてついてくし、一緒に夫の説得もしてくれると言ってくれた。
急になんか凄い事になった。
「非常に言いにくいんだけど、9月17日から平日昼間は母のお店を手伝う事になりまして制作頻度がだいぶ減ります」
「ナ、ナンダッテー!」
できる限り頑張りますのでこれからもよろしくお願いします。
——
異世界に来たらノームさん達が南に土地を広げていました。そんなに土地がいるのか疑問である。
今日は人気のスチームパンクを錬金術で増産して新作の制作。
本物のワニ革をお手本にエンボスレザー作りだ。ドール用だから、柔らかく加工しやすい羊革で凹凸は小さめに型押しした。この型押し風景は動画に撮った。使うかは後で決める事にして、あまり人がやらなそうな事は積極的に撮る方針だ。
この皮で防御力高めのファンタジー衣装を作る。だけど絶対魔石は使わないし付与もしないと固く念じる。
女の子のチューブトップとミニスカートは鎧風に。
コート風のトップスはグレーのエンボスレザーでスカートより長い膝丈。コートはウエストを絞って胸と足の部分は開いてスカートの前は見えてる。
ブーツは膝を覆う形で、膝当て部分が切り替えになっている。足首と膝下にベルトが2本ずつ。黒のストッキングを履かせて、ネタで大きく爪の出た狼足グローブを両手にはめた。
髪はグレーのウルフ。ドール用のもふもふ狼付け耳を作った。
男の子の方は胸の大きくあいた黒のエンボスレザーロングコート。
その中はお腹まで覆うレザーアーマー。肩当てをアーマーにベルトで固定。腰には細いベルトを斜めに3本つけて、そこにショートソードを吊った。下は皮スキニーと黒のリングブーツ。背中には身長くらいある幅広の剣を背負わせた。髪は肩甲骨まであるグレーのウルフヘアで白のインナーカラー。こちらも狼耳を付けた。
武器防具制作スキルがあっても鎧や武器を作るのは難しい。私が肉弾戦に興味が無いからだ。やっぱり魔法使いの服を作っている時ほども滾らない。
実は女の子が短いスカートで戦うのはあんま好きじゃないのだ。アニメを見ていても矛盾が気になって内容が全く頭に入って来ない。だから苦肉の策で獣人は動きやすい方が戦いやすいからミニスカートが良いみたいな理由付けをして無理やり飲み込んだ。
「だって、これはエンタメだ。ガチで戦うんじゃない。ただの衣装」
私は自分に言い聞かせる。
これからは柔軟な発想が大切だ。




