56話 ノームさんの心を刺激したもの
水曜日:地球
今日は空き部屋で作業をする。
部屋全体に浄化をかけて、作ってきた座卓と座椅子を置いたらフリマアプリチェックである。マネキンは売り物ですかとのコメント多数。
残念ながら売り物じゃないんですよー。
石鹸の売れ行きが怪しいくらいに良い。連休明けに出して即完売である。今回は少なめだったのだけれど、買い占めがあった様だ。売れるのは有難いのだけれど、雑貨であり、消耗する物ではない。確実に使っている。もし問題が出ると困るなあ…。
息子が出かけたらウッドデッキの続きをする。唯花に撮られながら手作業で床板を張っていく。
手すりは明日に回す。
というかこれ、撮る必要あるのだろうか。
炭焼き小屋を建てられるノームさんなら、普通にやり方を知っていると思うのだが。
そして、かまどの上に網を乗せ鰻を蒲焼きにした。まだ炭はできていないので市販の炭を使う。前回作った焼き鳥のタレを流用して美味しくできました。
夕食は鰻重!!!!最近贅沢が過ぎるねー。
——
やってきた異世界でまたもびっくり事件が。
家が2棟建っていました。まじかー。
家の前に小さな祠があって、見た事のない神様の象が祀られてあった。
「マスターの家の中に神棚があったので、ここに住む誰もがお祈りできるようにこの場所にうつしました。像は創造神様です」
唯花よ、あなたは私と一緒に地球に居たのに随分とこの家に詳しそうだね。
案内されるままに、茶色い屋根の白い家に入ると2部屋ある。
片方はアンティーク調の白を基調とした部屋で暖炉と戸棚、本棚にはダミーの本?が並んでいる。
ローテーブルと革のソファがあった。もう一部屋は青と白の部屋、クローゼットと戸棚とデスク、ベッドがあった。
これ私が作ったドールハウスやーん。
しかも窓ガラスがある。いつの間にガラスが作れる様になったのか。
もう一棟は赤煉瓦の倉庫風の家。正面から入ると、かなりの広さの倉庫兼作業部屋だった。天井から吊り下げられたガラスの球体には見覚えがある。奥の壁に設置された大きなエンジンや飾られた船の模型、ラジオや蓄音機まであった。この部屋が一番の気合の入りようである。
あの機械工房が、どうやらノームさんの制作意欲を刺激してしまったらしい。
とはいえあの機械工房ほども雑多に物は置かれてはおらず、綺麗に整理された大きな作業台には、この家の間取り図と、足踏みミシンらしき設計図があった。天井は高くレトロな換気扇も取り付けられており、ロフトがあった。
戸棚には小瓶に入った聖水がずらりと並べられてある。
色々と、突っ込みどころ満載である。
もう一つの部屋はキッチンで、足元はタイルだ。
竈門、パン焼き窯、テーブルと椅子があり、裏口があったので外に出たら、燻製器があった。
「キッチン……使ってもいい?」
「もちろんです」
唯花のドヤ顔がめちゃくちゃ可愛い。
大量に仕込んでアイテムボックスに入れてあったロールパンの生地を取り出す。
なんでこんな大量に作ったのか自分でもよくわからない。
けどきっとこれは、この時のために作ったのだ。
家から持ってきたレモンと収穫したりんごでりんごジャムを作る。瓶は浄化して詰めたら熱湯に入れて空気抜き。
風魔法でも錬金術でもアイテムボックスでも脱気はできる。だが私はこういう作業が好きなのだ。
ドライアドさんがしっかり種を回収しにきました。あ、また植えるのね。
木曜日:地球
「おはよう。裏庭が凄いことになってるね」
朝から夫がカーテンの外を見て言う。
「あっ。言わずに勝手に作り始めてごめんなさい」
失敗した。人の家を勝手に作り替えてしまった。元に戻した方が良いのかも知れない。魔法ですぐ戻せるけど、1日で撤去したら不自然だろうか。
夫は私の髪をふわりと梳いて微笑んだ。
「構わないよ。完成が楽しみだ」
怒ってない。良かった。
息子に鰻とジャムを持たせてバイトに送り出したら、通販で頼んであったらしい大納言小豆が届く。植えたらきっと芽が出ると唯花が言うので、インターネットで買ってみたのだ。きっと預けておけばドライアドさんが育ててくれると思う。
ウッドデッキに柵と階段をつけて完成だ。
「完成おめでとうございますマスター!」
完全手作業でできて建築にも多少の自信がついた。
そして作業部屋へ行くと、例の重い石造りの城砦を撮影用テーブルに飾った。
ここからは趣味全開でいく。
まず女の子には姫騎士の衣装だ。スカート丈は私の好みでロング一択である。鎧はレジンで作る。対して男の子は騎士では無く皇帝にした。
作業部屋には内鍵も付けてある。安心して自重無しの錬金術を使える。作り終えたらマネキンに着せて、写真を撮ってフリマアプリに見本を上げた。
最近売れ行きがかなり上がっているから、錬金術でないと追いつかないのである。
——
異世界に来た。
唯花に聞くところによると、ノームさんは鍛治ができるとのことで、材料もインゴットにして保管してあるとか。
買った金属類の残りを預けてあったのだけれど、それを返してもらいに来た。
懐中時計の中の小さいパーツに真鍮かチタンを使いたいのだ。
取りに行くと、チタンはさすがに苦戦していたけれど、ステンレスと真鍮は増えていた。
テーブルの上を見ると、日本語でプリントアウトした大まかなチタンの製法があった。え、ちょ。文字おんなじなんですか。
え、唯花が翻訳してもうみんな読める?
スゴイネ……。
さて、工房の大きなテーブルで初作業しようか。
「本当は律樹さんの誕生日に作ってあげるつもりだったんだけどねー。仕方ない。あんなに欲しがってたからなー。律樹さんには別のを考えるか」
安物の手巻き時計をまずは鑑定、錬金術で構造を確認して、分解してもう一度自力で組み立てた。
よし、作れる。
文字盤中央の一部をスケルトンにして歯車がチラッと見える様にデザイン画を描く。
真鍮で作ったら味わい深くなる。各パーツを錬金術で作っていき、手作業で組み立てる。ムーブメントの軸受けは全て魔石を削って宝石風に。
まず風防やスケルトン部分は全て透明魔石を極薄に伸ばそう。耐久性向上だ。
ダストカバーもスケルトンで中がよく見える様に、息子はこういう機械仕掛けのものが好きらしいからだ。表蓋中央にも窓を付けて、真鍮部分は槌目模様にした。裏蓋は内側に息子の名前、和樹とドイツ文字で彫った。チェーンを付けて、息子を守ってくださいとお祈りしながら、厄除け開運の付与をして一息つく。
「んー。できたー」
これを息子にあげると、夫のプレゼントのハードルめちゃくちゃ上がるなあ……。
革の箱を作り、側面に左側にパイプを少し覗くように貼り付ける。正面右奥にピストンを右手前に温度湿度計を付けてパイプで繋げた。中心に大きな木の歯車、左下に向かって大小様々な歯車をバランス良く貼り付けていく。
アイテムボックスに入っていたコピー用紙と、いつの間にか大量に作ってあったインクを取り出すと、錬金術と文書作成スキルで取り扱い説明書を作った。
「何でもストックしとくと便利だよね。アイテムボックス様様だよ」
出来上がった箱をそっと開けて、文書作成スキルで作った取説と、懐中時計とを一緒に箱に入れた。




