5話 高杉君との邂逅
木曜日:地球
本日は綺麗になった庭にてガーデニングである。アイテムボックスから取り出しましたるはこれ!
[聖域の土:聖なる力が宿った栄養豊富な土。植物の成長を助ける]
家の庭の一角を聖域の石で囲み、その内側を耕し聖域の土を混ぜていく。ハーブティーで使わなかった部分、薬草と魔力草の茎と根を株分けしつつ等間隔に植えていった。
これで増えてくれると良いな。
期待して鑑定すると、なんと聖域の石で囲んだ所が結界になっていたので慌てて石を収納し、土魔法で柵を作った。
何個も作っていると上手くなる筈が、何故か魔法が発動しづらくなって来た。ステータスを確認してみたら、異世界の聖域ではいくらでも魔法が使えたのにこちらではMPが減るらしい。
ちなみに土魔法は土魔法でしかなく、特別な名前が付いているわけではない。しかも作るものによってMPの減り方はアバウトらしいのだ。
私は急いでキッチンに戻り、氷をいっぱいに入れた水筒に魔力草ハーブティーを濃い目に淹れて、それを飲みながら作業する事にした。
「ん-!冷やしても美味しい!」
魔力草だけのハーブティーだと体の疲れまでは取れないけれど、何だか気分は落ち着く。やはりブレンドした方が良い様な気がする。
いつかあの子達が異世界に行けなくなった時のために薬草も魔力草も家でたくさん増やしておきたい……!庭いじりが済んだら、薬草と魔力草をブレンドして、ヤカンに沸かして冷ました。後でいつでも飲めるように冷蔵庫とアイテムボックスの両方にストックしよう。
私は声高らかに宣言した。
「キッチンの掃除に着手する!」
コンロも浄化!レンジフードも浄化!シンクも床も浄化!!
浄化、浄化、浄化の連発だ。スキルはMPが減らない!この地球でも使い放題だ。
引き出しの中のホコリも浄化!
「汚物は消毒よぉ!」
モヒカンの気持ちの一端を知った。私はオーブンも戸棚も冷蔵庫の中も狂った様に浄化した。
「主婦が浄化覚えたら絶対こうなると思うわ!」
リビングのグレーのソファを浄化しようとして手を止める。
いけない。ソファが新品になったら怪しまれてしまう!
私はアイテムボックスに、全ての物を埃ごと収納した。
そしてあるべき場所に戻す!
「思った通りだわ!!」
埃がないだけでソファもカーペットも一段明るくなった気がする!
サッシの埃を浄化しようとして踏みとどまった。
きょ、今日はここまで。明日からは毎日一か所必ず浄化をルールにする。
空き部屋も物置も気になるところだけれど……まずは、あそこね。
一番やっつけたかった息子の部屋。私はその攻略法をやっと手に入れた。
物はなるべく触らないように、アイテムボックスを使ってゴミだけを回収!
年頃の男子は親、とりわけ母親がうっかり物の配置を変えようものなら烈火の如く怒るから。
私だって触られたくなかったら自分で掃除しろなんて正論をガミガミ言いたくは無い。だけど見てしまったらこの部屋をこのままにする訳にはいかない。
もし万が一黒いアイツがやって来たらどうする?!アイツは埃さえ餌としてどこでも生きられてどこでも増えられる。触られたく無ければ、せめて常に掃除機をかけられる状態にして欲しいものだ。
私は家事の中では掃除は大嫌いだ。何故なら、たとえ家族であれ人の物を触ったり捨てたり置き場を変えたりしたくないのだ。自分の物を勝手に触られるなんて私が一番して欲しくない事だから、なるべくなら本人にやってもらいたい。それなのに使用者が部屋の掃除をしないから仕方なく代わりにやっている。それで案の定疎まれてなんて理不尽なのだろうか。
でも!そんな悩みも今日まで。これからは掃除機をかけなくて良いから、配置を変えずに掃除ができて、掃除をしたのに怒られるという煩わしい思いをせずに済む。
そんなこんなで1日は過ぎ、
「掃除を頑張ったんだね!!」
夫は目を丸くして綺麗になりすぎたキッチンを見回した。
息子は変な顔をして首を傾げた。
これは……完全にバレている。考えてみたら床もテーブルも明らかに綺麗になっているのに部屋の物の配置が全く動いてないのはある意味怖いかも知れない。
——
異世界。
本当は土魔法の可能性を確かめるべくインターネットで土の成分を調べる予定だったのだが、次々に新たな魔法やスキルを習得するので土魔法だけに構っていられなくなった。
「それに……」
薬草と魔力草にすっかりハマってしまった私は、聖域に着くとすぐに敷地内の魔力草と薬草を全部収納した。地球で一番必要なものは魔力の回復手段である。
私は異世界に来てからわずか3日で薬草が無い生活はもう考えられなくなっていた。家ではまだ薬草が増やせるかどうかが分からない。もしかしたらここでも貴重なものかも知れない。
パッと見では柵の外にもある。もっともっと摘まなくては。ついでにこの辺に何があるか探索もしておこうと少し歩く事にする。
街とかあったらどうしようか。地球の物で商売でもする?砂糖とかコショウを持ってくれば良かったのかも知れない。
その時カサッと遠くの草が動いた気がした。
私が息を呑んで草むらを見ていると、草をかき分けて出てきたのはばかでかいイノシシだった。
でかい……牛ぐらいある……!
大丈夫、焦るな、野生動物にあった時は背を向けない。私は心の中で唱えながら、猪から目を離さずにそろりそろりと後退りする。
すると猪は頭を下げて唸りながら土を前足でかきはじめた。
「うっそマジか!殺意高すぎ高杉君か!」
私に向かって恐らく突進しようとしているらしい猪の頭の上に、咄嗟に先日アイテムボックスに収納してあった大岩を落とした。
猪は一度動きを止めたもののよろよろと追いかけてくる。
「マジか!あれで生きてるとか!」
私はダッシュで聖域を目指す。息が切れる。猪がスピードをだんだん上げて来て、あわや追いつかれるという所で聖域に滑り込んだ。
「ひえっ!」
追いかけて来た猪が私のすぐ後ろで結界に激突して倒れた。
ドキドキと自分の鼓動が耳につく。
「しゅ、収納」
だが猪は収納されない。
チラッと鑑定して見る。
[グレートファングボア:瀕死。非常に美味しい]
非常に美味しい……食べられる?これが?
でかい。近くでよく見るとさっきより大きく見える。もしかしたら牛よりも大きいかも知れない。
敵さんのレベルやステータスは詳しく出ない様だが、鑑定を信じるならばどうやら瀕死らしい。私はいつ起きるのかもとビクビクしながら猪にちょんと指一本で触れ声に出して言った。
「か、解体……」
何も起こらない。
アイテムボックスも解体も生きた動物には使えないスキルの様だ。
私は覚悟を決めてグレートファングボアの鼻と口を水魔法で塞いだ。




