44話 友達の距離はくすぐったい
木曜日:地球
今日は息子は夕食は要らないと言っておしゃれをして出かけた。バイトの後は香原さんとデートなのだろう。
今日は初ちゃんがうちの庭で撮影する為に来る。朝から庭の一角にミニチュアサイズのパン窯と、鉄板にパン、小さなガーデンセットと、テラコッタの床、ティーセットを作って設置した。
初ちゃんがやってきて一言。
「わー、メイク可愛い!ナチュラルあざとメイク」
ナチュラルでも当たり前にバレる。
「私は詐欺メイクも好きだけど夫がそういうの苦手でね。でもナチュラルでも普通に時間かかるよねー」
「ねー」
うっ。初ちゃんが可愛い。
でもそうか、ナチュラルはあざといのか。それは私も知らなかった。
「ネイルも結構凄いね!」
初ちゃんがいきなり私の手を取ってまじまじと見る。びっくりした。触る前に言ってくれたら心の準備ができたのに。
「夕方には外すけどね。ネイル始めたら楽しくて」
平静を装う。けれど落ち着こうとしすぎてうまく声に楽しい感情が乗らない。これが女子同士の距離感なのだ。私はここは喜ばなくちゃいけない。初ちゃんはこれからも会う機会が増えるから慣れなければ。
「あっ、ごめんね。ネイルが凄すぎて思わず触っちゃった」
初ちゃんが手を離した。
失敗してしまった。
私は予告無しに突然触られるのは苦手なんだ。でも私から手を出して触れさせるのは今はもう大丈夫だ。今度からメイクの話題が出たら「ネイルも見て」と言って自慢するフリして自分から手を出して見せようと学習した。
話しながら二人で庭に移動する。裏庭へは玄関を通らなくても家の横を通れば行ける。
「うわー!わざわざセット組んでくれたんだ!!ヤバい!凄いよ!」
撮影セットを見て初ちゃんが目を見開き駆け寄った。汚名返上である。努力が功を成した。
「へへ。木工得意だからむしろこっちがメインていうか。デザインしてくれたら何でも作るよ?」
褒められ慣れていないのでちょっとだけくすぐったい気持ちになる。
「まじか、撮影スタジオで商売できそうだよ」
確かにそういう需要もありそうだが。
「んー。夫の家だからここでは無理だねー。これは撮影終わったら撤収するけど、初ちゃんならいつでも貸すよー」
頼まれたのでネイルシールをいくつか初ちゃんに売った。あげると言ったが固辞されたのだ。
「唯芽さん、人が良いから心配だよ。こういう事はちゃんとしないとね。あんまり気前よくしすぎたら利用されるよ?」
「そ、そうなの?ごめんね。気を遣ってもらって」
「謝らないでよ。唯芽さんの作品に対する正しい評価だよ?また新しいのできたら売ってね」
初ちゃんはいい子だ。
それから、ドール用ネイルを作る約束をして撮影は終了した。ドールのネイルデザインは初ちゃんに考えてもらう事になった。パーツが小さいので細かい作業になる。だが細かいのは得意だ。今から作るのが楽しみだ。
「うわー。家の中ピカピカだねぇ。主婦の鑑だよ」
初ちゃんが感動しながらあちこち見回す。そんなに見られると恥ずかしい。リビングに案内して私はいそいそとキッチンへ。
氷をたっぷり入れたグラスにアイスティーを注ぎ、ポーションを一滴垂らす。料理スキルのお陰でアイスにしても透き通った絶妙な濃さの紅茶を淹れられた。昨日作ったプリンアラモードと一緒にリビングに運ぶ。
「すっご!!え!実はパティシエなの?!」
初ちゃんのリアクションはいつもサービス精神たっぷりである。こういう所が人に好かれるのだろう。
デザートを食べ終え、また電話すると約束をして解散した。私は弾むような足取りでキッチンに向かう。
食器を洗いながら先ほどまでの事を思い出して少し嬉しくなった。なんかこれってちょっと友達関係みたいだ。
変人の私がこんな事を思っては初ちゃんは迷惑かも知れないけれど、私一人でこっそり楽しむ分には良いだろう。
「今日は楽しかったな」
——
異世界。
ココのレベルが大幅に上がって、ちょっと安心感が出て来た。水魔法があるし川なら安全に餌を取りに行けるかなとは思う。
そういう訳で、ココにマジック収納を作ってあげようと思う。構造上別にカバンの形にする必要も無いなと思ったので、ココが狩った熊の魔石をクリアバングルにして空間魔法を付与し、反対側の足に付けた。
収納の使い方を何度かやってみて教えて、時間経過はするみたいなので食べる分だけにしないと腐ると言い聞かせた。
私が万が一来られなかったら、1人で狩りに行っても良いけれど、熊とか猪には喧嘩売らない様に、見たら必ず逃げる様にと何度も言い聞かせた。川の危険についても教えた。
何かあったら1人で生きていけなくちゃダメだから、相手の強さや自然の危険は見極めようね。
それから、拠点の家を作り直したくて図面を書いたりした。
建築作業に慣れたら庭ににウッドデッキやガゼボを作りたいと思う。錬金ではなくて手作業で。
レンガばかりも芸が無いから、乱形石を作った。これで小道でも作ったらオシャレだろう。
やりたい事が多すぎる。
知り合いがドールを持っていてその存在を知りました。知ってしまって欲しくなったけれど、私は唯芽と違って凝り性なのに飽き性という厄介な性格な上、実はとんでもなく不器用でお裁縫が超絶苦手なのです。叶うなら制作活動できる人間に生まれたかった。でも欲しいけどできないは物語で叶うのが良いですね。




