21話 地味と派手の二重生活
日曜日:地球
転移魔法を覚えたけれど、異世界へは全く行ける気がしない。それどころか、地球では目の前に見えている場所ですら行けない。
MPや、空気中の魔力が足りないのかも知れない。
それから、闇魔法って何だろう。スキルにあるのに使い方が全く理解できない。レンガを並べただけのスタイリッシュのかけらもないあのダサい家で建築のスキルを覚えたのも全くもって納得できない。
スマホの時計を確認し、そろりと起き上がり身支度をする。
今日は日曜。雨は小降りではあるもののこう続くと憂鬱だ。連日眠っている時まで頭を働かせているのだから、今日ぐらいは頭を休めないと……そうは思うけれど。
私はクローゼットから夫に買ってもらったワンピースと薄手のストールを出す。
いつも使っていたA4のトートから、白い縦長のショルダーに変える。
アイテムボックスの偽装に大きなバッグを持つなんてナンセンスだし、それに今日は、久しぶりに大型ショッピングモールでデートなのだ。
着こなしで無駄な押し売りを回避できる。
お盆に着るちょっとマシな服を自分で作りたい。最近の服をお店で勉強して、試着だけしてこよう。バッグもアクセもついでに見たい。
「どっちがいいかしら」
二つのハンガーを持って夫を振り返った。
ベージュとライトグレーのワンピース。
答えはいつも同じだから知っている。
「君は何を着ても素敵だよ。遠慮せず両方買うといい」
人によっては満点の答えなのかも知れないけれど、私にとってはそうではない。どちらかを答えてくれたら、次からそれに近い物を選ぶ事ができるのに。
彼はファッションには疎い。興味が無いのは分かってる。
私には、自分の正解を夫に当ててほしいなどという可愛い女心は無い。
だけど、詳しくないからこそ、無意識に好きだと思うものはある気がするのだ。
「そうだ、その服に合う靴もバッグも揃えると良い」
私は「選んでくれる?」と言いかけてやめる。夫のセンスで全て揃えて凄い格好になっても困る。トータルコーディネートは夫にはとても難易度が高い。
店員が満面の笑みでこちらに歩いてくるのが見えた。
私はハンガーを元の場所に戻す。
「やっぱりやめておくわ」
本当は割と奇抜な色やファッションが好きなのに、私のクローゼットは無難な色ばかりだ。私によく似合うらしい赤はとても派手で目立つ。
白黒グレーは使い勝手が良くて、毎日悩む必要もなく、適当に選んでもまとまる。
その他大勢に紛れ込めるという絶対の安心感は、楽と言えば確かに楽だ。
鏡に映った自分の顔。
私にとって目立たない事は、必要なルールだった。
誰も私が派手好きだとは知らない。
「君は本当に物欲が無いね」
夫は苦笑した。
私ほど物欲のある人間は居ない。人から貰ったという付加価値が付くと、これはこの人と出かける時に着なくてはいけない服になる。古くなって捨てる時にいちいち罪悪感を感じなくてはいけなくなる。
私の日常にそういう煩わしさはいらない。ファッションが分からないこの人にとっては全くの無意味だし、お互いにとって何の得にもならない。
夜はピザ。
「雨なのに窯焼きピザ?」
息子が鋭いツッコミをしてくる。
「冷凍してあったのをオーブンで焼き直したの」
「へぇ。劣化しないものだね」
夫は、何の疑いもせずにピザをかじった。
——
異世界。
寝ている時こっちに来ているならば地球はどうなってるのかふと気になった。
地球への転移を考えただけで、ちらっと眠っている自分が一瞬見えた。
じゃあ今ここにいる私は何なのか。意識だけ来ているのか。
私は頭を振って切り替えた。
聖域の小屋の中。
改装したいなあ。気に入らない。
確か今の流行りは明るく開放感のある落ち着いた空間……対してここは、閉塞感がすごい。しかも土間。
天井か、足元か……
「仕方ない。やれることからやろう」
フローリングにしたら木のストックが無くなった。
今度家を作る時は基礎を調べよう。
「雨ってやだな。なんにもできない」
仕方ないから両手にレンガを持ってスクワットをしてみたけれど、それもすぐに飽きた。
身体能力が低いのは努力が足りないからだ。だって楽しくないんだもん。
リクエストのあったドールのウィッグを作った。
ちょっと閃いたので、ファンタジー風和服をウィッグ付で作った。
肩の大きく開いた着物風のトップスにミニスカート。前には大きなリボン。パーツごと取り外しても服として成立する。鍛治と錬金で模造刀とそれからおふだも作った。昨日アクセを散々見たら頭の中に何となくレシピがあったから、模造刀の装飾は頑張った。
衣装は白ベースの青と黒ベースの赤で2種類。柄は青は天の川をイメージして星屑を散りばめ、赤は金糸で蝶々を刺繍した。ウィッグは銀髪と金髪の2種。
それから、巫女服と花魁も作った。一応普通の訪問着も。
要らないガラスとステンレスでとんぼ玉のかんざしも作った。
「ドールはいいよね。何でも似合うからさ」
今風の服よりファンタジーの方が妄想が捗って作るのが楽しすぎる。私の派手好きを刺激するのだ。
そのせいで自分がお盆に着る服は作り忘れた……。




