107話 磯の匂いの香水
「昨日は徹夜だったのかい?」
お弁当を作っていたら夫が後ろにいた。
「遅くなったから起こしちゃ悪いと思って作業部屋で寝たの。コーヒー淹れるね」
私はコーヒーフィルターを出そうとして
「俺ハーブティー」
息子が食い気味に横入りしてくる。
「僕が淹れるよ。」
と夫がポットを戸棚から出してハーブティーを3人分淹れた。私コーヒーのつもりだったんだけども。コーヒーでも薬草成分入れられるから実は効果は同じだ。
「昨日はごめんよ。今回は無理だけど、また村瀬くんには頼んでおくよ。」
うーん、ちょっと吹っ切れたから釣りはもう良いかなと思う。網漁の方が絶対によく獲れるし。地球でそれをやったら密漁だ。
「もう良いよ。昨日はわがままごめんね。男同士の付き合いも大事でしょう?明日は沢山釣ってきてね。」
異世界には海が無いので!
結局私は釣りたいんじゃなくて作りたいんだ。
初ちゃんにちょっと愚痴ったら
「あー、確かに唯芽さんと釣りは行きたく無いねー。全部取られて自分が釣れなさそう。」
とか言われた。実は私は釣りが下手である。何でもイメージで言わないでいただきたい。
「男なんて好きな事させといた方が楽だよ。今まで休みの日は殆ど家に居たんでしょ?やっと趣味持ってくれたなら最高じゃない。亮君も釣りするけど釣りって長時間だから出掛けてくれたらその日はフリーダムだよ。日曜の夜に魚を大量に捌くのだけはイヤだけどそんな事は滅多にないし。」
初ちゃんとこは昼間の釣りなんだね。
「そんなにはたくさん釣れないものなの?」
「当たり前だよ。そんなに釣れたら魚屋はいらないよ。」
そうなんだ……。世の中そんなに甘くないという事か。
「初ちゃん…けっこうガチめな磯の匂いの香水とか男性に凄く売れそうだよね。」
と言ったら初ちゃんは吹き出した。
「それは主婦が売っちゃダメなやつ。うちはまだ大丈夫だけど、唯芽さんとこは大丈夫なんだよね?」
「うちは浮気はまだないし、しても多分わかるよ。釣った魚と買った魚は見て触れば鑑定しなくてもわかる。」
釣り以外も母が色んな手口を教えてくれたから大丈夫。私は母みたいにただ待つつもりもない。私は、転がして悦に浸って単純な男があしらいやすくて可愛いなんて思うタイプじゃないんだ。
「意外。唯芽さんでも嫉妬とかするの?」
「嫉妬はしないよ。でもきちんと見て相手を正しく判断しないと。」
そうしないと同じだけ信頼して同じ誠意を返せない。
「唯芽さん男の人のそういうの分からないタイプだと思ってた。でも良いタイミングだったね。明日は絶対お店の事説得するから。安心して私に任せて。」
「私はそういうつもりじゃ無かったんだけど…。でも絶対お茶淹れてる間は時間稼いでね。夫かなり手強いから、ちゃんと2人揃ってから話そうね。」
「分かった。頑張る。」
初ちゃんを1人で戦わせたりしないから。
「魚、暇な時ならいつでも捌きに来るから大漁なら言ってね。」
そしてお土産をください。
商業ギルド
「これは釣りの餌の代わりです。虫とかの餌を触れない人でも釣りが楽しめます。」
エリザさんはどうもピンとこない様だ。
「餌が無くても釣れますよ?」
反応が悪い。釣果微増が付いて一応魔道具なのに。
エリザさんが釣りをしないからか。新しいものだからなのか……。
仕方ない。持って帰ろう。
孤児院に行くと、中学年の子達とクルト達が魚の取り合いで揉めたらしいと院長先生が3人から取り上げたらしいルアーを私に返してきた。
院長先生に了承を取ってルアーを全部子供達にあげる事に。もちろん針は外してある。
「ですがこの様な貴重なものを…」
「貴重じゃないです。ある材料で作ったものなので。」
院長先生はまた困った顔をした。
「困りましたね。どんどん借りばかり増えてしまいます。」
そうして話していると1人がちびっ子だけ遊んでいてズルいとぐずぐず泣いたので、休養日に遊ぶ約束をした。魚に興味がない女の子達にはまた違うものを作ろうと約束をする。
「お騒がせしてすみません。小さい子達だけ贔屓する結果になってしまって考えが足りませんでした。」
私が頭を下げると院長先生は
「とんでもない!あんな安い依頼料で子供達に特別な訓練をさせてくれている様で、申し訳なく思っています。」
と慌てて立ち上がって頭を下げた。
「遊びを通じて子供達の能力が上がれば良いなと思って色々試させてもらってるだけで、訓練では無いんですよ。」
こっちは実験の一環なのでむしろ勝手にやって申し訳ない。
今日は院長先生と話していて子供達と遊べなかったので依頼は失敗扱いにしてもらおうとすると固辞され、結局次の休養日を無償奉仕する事で、今日の依頼は成功扱いにしてくれた。
子供1人を育てた経験はあるけど、大勢となるとバランスが難しい。ママ友や他の子供達と一緒に遊んで来なかったツケが来ているのだ。私はダメだ。




