第五条 卍解
卍
「門倉翼の絵が一番上手くね?」
チンポウの切り出しに、案山子は
「堀越耕平は?」
「幼稚。口デカすぎ。てか長田悠幸の画法モロパクリじゃん」
「芥見下々は?」
「粗い。言うほどオリジナリティがない。鼻が潰れて蛙みたいになってる」
「鳥山明は?」
「幼稚。メカが上手いだけ。悟空をムキムキにしてからアンバランス」
「尾田栄一郎は?」
「幼稚。色彩センスが良いだけ」
「荒木飛呂彦は?」
「気持ち悪い。アニメ化で受けただけ」
「小畑健は?」
「魚顔になりやすい。デスノートがピーク」
「久保帯人は?」
この案山子の質問で、少し空気が変わる。
「そう、この議論でネックになるのは、久保帯人の存在。久保帯人はセンスあるしキャラも豊富。背景が白いのも週刊連載という観点ではマイナスに成り得ない」
「つまり、久保帯人さんは門倉翼より上なんですか?」
「いや、そう簡単には言えないさ。ただ、絵の上手さで見比べるなら、門倉翼の対抗馬は久保帯人だろう」
「つまり、同種の上手さを持っていると?」
「まあ、そうだな。門倉翼はそこまでキャラが豊富ではない。しかし、久保帯人ほどのっぺりしていないというか、トーンなども多用し見やすくなっている。文字の配置なども門倉のが上手いかもな」
「成る程」
チンポウの答えに、案山子は考え込む。一長一短と言ってしまえば簡単だが、それは思考放棄とも取れる。物事には全て理由があるのだから、それを引き出さないと真理へ到達できない。
「門倉一位、久保二位で良いかもな。成長性や原作力などから見ても、門倉の方に軍配が上がるだろう。ブリーチは凄かったが、それっきりだったからな久保は」
「成る程、確かにそうですね」
「門倉の絵は下手と思われがちだが、それは描きやすいからだ。というより、門倉が描きやすいように最適化している。そうした方が漫画家として長生きできるからな。それは久保の描き方にも同様に言える。無駄の省き方、最適化の仕方がこの二人は似ているんだ」
「描きやすいイコール下手ではないですよね、勘違いしがちですが」
「ああ、特に漫画になるとやたら手間が掛かるため、労力を削ぐという考え方は至極真っ当なんだ。鳥山明や冨樫義博もよくやるだろう」
「冨樫義博は?」
「トーン使わない。線がぐちゃぐちゃしていて読みづらい、かな」
「やはり門倉一位、久保二位ですね」
「ああ、絵に限って言うとな」
漫画の絵など話を進めるに支障がないレベルなら合格だ。描いている内にいくらでも上手くなれるのだから。
解