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企画参加の短編

Bottle Letter From ISEKAI ~中世フランス伝承の妖精が建築系と呼ばれた理由~

作者: 小澤ゆめみ



 秋の歴史2022「手紙」参加作品。







 ビンに入った手紙が湖で見つかったのは先日のことだ。俺は中々それを読む気にはなれなかった。



 31年前に叔父がその湖から失踪した。そして去年突然戻って来た叔父は、母をその湖に連れ出して溺死させた。


 その1年後である先日、再び戻った叔父は何も弁解することなく、線香をあげて家を出た。そして湖のほとりに遺書を残して3度目の失踪をしたのだった。


 遺体は見つかっていないが、代わりに紙の入ったビンが見つかった。警察によると、不思議なことに中身は母から俺に宛てた手紙だったそうだ。


 散々迷ったが妻の後押しもあり、意を決して目を通すことにした。





∝ ∝ ∝ ∝ ∝ ∝ ∝ ∝ ∝





息子へ


 お嫁ちゃんと孫ちゃんは元気ですか? 母ちゃんは元気です。一度そちらで死にましたが、異世界で生まれ変わって元気にしています。


 弟を誑かした例の乙姫の娘として、母ちゃんは鯉に生まれ変わりました。成長して人魚になり、超進化して龍になりました。意味が分からないだろうけど、母ちゃんにも分からないので大丈夫でです。


 それから、弟は当初乙姫って呼んでいたけど、本当はヴィヴィアンとかいうエクスカリバーを管理する水の精だったり、ネヴァンとかいう水辺で死を予言するケルトの三女神の一柱だったりするらしいの。自称だけどね。ごちゃまぜな名前を名乗ってるから分かるわけないよね。



 あぁ、異世界で再会した弟から聞いたけど、あんた母ちゃんに再婚して欲しかったんだって? でも安心してください。父ちゃんみたいな優しくて頼れる人と結婚しました。人間です。母ちゃんも半分は人間なので、色々大丈夫です。


 そういえば、その夫と結ばれる前に一緒に働いていた城……えんじゅ? 厨子王だっけ? そんな名前の城のお姫さんは、5回も政略結婚して意気揚々と色々牛耳ってるみたい。


 あんたは結婚は一度で十分だから、お嫁ちゃんに捨てられないように気をつけなよ!


 母ちゃんが振った兄弟も、兄さんはヤリ手の領主だし、弟くんは司教様だってさ。やっぱ中身も若い子とくっついた方が幸せってものよね。


 孫ちゃんには今は兄弟がいるのかな? なんにしても成長を見られなかった母ちゃんのためにも元気に育ててよね!



 今母ちゃんが住んでいる場所は、そっちの中世の……フランス? フランク? に似たところで、夫がそこに土地をもらったので、母ちゃんが腕によりをかけて城を造りました。


 もちろんあんたがお腹にいる時に頑張って学んだ知識と、実家の土建屋で長年費やした技術と、それから魔法も駆使したから構造計算も万全で、龍が乗っても大丈夫!


 みんなが喜ぶので、あっちこっちに作ってます。そろそろ和風にも手を出しちゃおうかな……



 当初第一村人に自己紹介したんだけど、やっぱり真鈴魚島は言いにくいみたいで、恥を忍んでマリンでいいって言ったんだけど……結局メリーとかジーヌって呼ばれてるよ。


 そういえば今は魚島じゃなくて……ちょっと覚えにくいんだけど、リュウジャナイ? みたいな苗字です。



 子供も10人産みました。あんたの兄弟はちょっと変わってるけど、みんな良い子よ。おイタの気配を察知したら、未遂でも龍尾パンチだから従順よ。


 多少人と違う異形部位があっても、母が普段から半龍だから誰も気にしません。キプロスとアルメニアって所の王様になった子もいるのよ。地球にもそんな所あったよね?


 

 母ちゃんは元人魚の進化系で半龍だし、その血を浴びた夫も長生きです。八百比丘尼くらい生きるかもね。何の血かは聞かないように!


 つまり夫婦で幸せだし、長生きだし、親孝行もされてます。だからあんたは母ちゃんのことを気に病まずに、今の家族を大切にするように!



 あんたの叔父さんは、女神に見染められてエラい目にあったみたいだけど、きっとこの手紙はあんたが生きているうちに手元に届けてくれると信じています。


 それじゃあ社長、会社と社員もよろしくね! 元気で長生きしてください。



追伸:今の夫はあんたの父ちゃんに強いところがそっくりよ。見た目は正反対の、渋いイケメンだけどね!





∝ ∝ ∝ ∝ ∝ ∝ ∝ ∝ ∝





「異世界でも変わんねぇな、母ちゃん……。幸せにな。」


 俺は心配していた妻にも、この手紙を読ませるために部屋を出た。あいつは母ちゃんの豪快なところを慕っていたから、これを読めば涙を流して喜ぶだろう。


 ……一つ心配なのは、この手紙を捜査のために先に読んだ警察が、何度も水難事故や失踪を起こした我が家をどう思っているか、だった。


「ま、いいかっ!」


 楽天家の母に従って、俺も成り行きに任せることにした。





おしまい




2022.10.17 初稿





 この企画参加のために、1年温めた連載を今月一気に完結させました。この短編が実質エピローグのようになっています。


 豪快な母の異世界生活が読みたいと思ってくださった方は、『呪われ転生人魚の愛され計画は水の泡』をどうぞよろしくお願いします。


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