繰りかえす影法師
あれは、日差しが肌を焼く夏のこと。
最近大学で知り合った彼女との待ち合わせ場所に向かう途中、近所の公園に通りかかった。
待ち合わせまで時間がなく走っていた俺は、足元に転がってきたボールに反応することができず蹴り飛ばした。
すぐさま後ろの方から「あっ!」と高い声がした。
少し面倒に思いつつも蹴ったボールを追い、手に取り声がした方に振り返る。
その瞬間、自分でも自分の心臓がドクンと跳ねるのがわかった。
ボールを追いかけたこどもが、どうしても幼少期の自分に重なる。服装、背丈、声……すべてが当時の自分を想起させる。
そんなはずはないと思いながらも、どうしても自分の思い過ごしだと思えなかった。
まるで不審者だと、そう思っても気づけばボールを手渡しながら話しかけていた。
「何をして遊んでいたの?」
質問をされたことに驚いたのか、きょとんとした少年と目があった。
しまった……と思ったものの、少年は快活に答えた。
「サッカー! シュートの練習してんの。」
振り返った先には、中性的な外見のこどもがこちらの様子を伺っていた。こどものころの幽かな記憶に、よく近所の女の子と遊んでいた記憶があった。女と遊んでいると、当時はよく他の仲のいい男に馬鹿にされていた。
じとりと、暑さ以外の原因で自分が汗をかいているのがわかった。
少女の姿が、今の自分の彼女に見せてもらった当時の写真にそっくりだった。
もう何が何だかわからず、暑さで頭がどうかしたのかと本気で疑った。
しばらく無言でいると、心配した少年に声をかけられた。
「……なあ、大丈夫? すっごい汗だし、びょーいん行った方がいいんじゃない?」
「……いや、大丈夫。それよりも……。」
俺は、何を聞こうとしているのか。これを聞いたら、決定的な何かが崩れる気がして躊躇っていた。
しかし、好奇心には勝てず言葉をつづけた。
「二人の、名前を……。」
教えて欲しい、と続くはずだった言葉は突如流れた最近流行のラブソングに遮られた。
携帯をみると、彼女から数件のメールと着信が入っているのに気が付く。
慌てて少し遅れることに対する謝罪と、今電車の中にいて電話ができない旨をメールで送る。
結局何を言ったらいいのかわからなくなって、質問を続ける気分でもなくなってしまった。
「遊びの邪魔をしてごめんね、ちょっと急いでたのを思い出した。」
「……友達は大切にね。」
そんな当たり障りのない言葉しか出てこなかった。
既に大分不審者じみていると自覚はあるものの、それだけを伝えて手を振り背を向ける。
後ろから、「にいちゃんもな、早くびょーいんいけよ!」と声が聞こえた。
苦笑いを浮かべつつ、駅へ向けて走り出そうとしたとき。
「…やっぱり、そのくらいの時が一番かっこいいね。」
そう、少女の声で聞こえた。
ゾクリとして振り返ればそこに二人の姿はなく、夏の日差しで遊具が影を作るのみだった。




