半ヴァンパイアは助けを呼ぶ
ひとりでに宙を舞う剣は、狙い通り4本とも私とユーアさんだけを狙って攻撃してきた。さっきと違って壁に備え付けられているランタンが壊されていないから、2本相手でもなんとか立ち回れている。残りの2本はユーアさんの相手をしてる。
―でも、敵はこの剣だけじゃない。防ぐだけじゃなくて、何とかして倒さないと……
剣を弾きながら、セバスターとアーノックのいる方をちらりと見てみる。
「しねぇええええええええええ!」
セバスターはスケルトンの弱点というか、倒し方を知らないみたいで、頭骨や背骨以外も構わず殴ったり蹴ったりしてる。あと転がってる骨をこん棒にして振り回したりしてる。スケルトンは任せて大丈夫だと思う。
アーノックはちょっとまずいかも。カラスがいっぱいいて、真っ黒なせいで暗闇に紛れて、狙いが定まらないっぽい。いろんなところに氷の塊飛ばしてるけど、たぶん当たってない。
―うん。とりあえずアーノックの援護に入らないとね。そのためにもこの剣をさっさと片付けないと。
私が相手をしている剣は、2本で上下左右からの波状攻撃を繰り出し続けてくる。避けたりショートソードで受け流すのはできるけど、なかなか攻撃の糸口がつかめない。
―そう言えばさっきユーアさんは、あの剣の柄を握って壁に刺してたっけ。
注意深く2本の剣の挙動を目で追いながら、ショートソードを鞘に戻しつつ隙を探してみる。
「……ほいっ」
割とあっさり掴めてしまった。そして当然というか、剣は私の手から逃れようと暴れたり、切っ先を私に向けて突っ込んでこようとしてくる。
「おおっと待って待って危ないって!」
はたから見たら、たぶん間抜けな状況だと思う。私は真面目に戦ってるつもりなんだけどね。
―この剣はかなり強い力で動いてる。片手じゃ振り回されちゃう。
ランタンをベルトに引っ掛けて左手を自由にして、両手で剣の柄を握ってみる。暴れまわろうとするけど、なんとか抑え込めた。そして私が掴んでいない方の剣が私めがけて突っ込んでくる。
「ハァっああれ?」
剣を振りかぶって突っ込んでくる剣を叩き落そうとしたんだけど、振りかぶったまま剣が固定されたように動かなくなる。剣を手放して攻撃を避けるか、握ったまま串刺しになるかの2択を迫られる。
私は両手を上にして剣を握ったまま、すごい勢いで向かってくる剣を見る。
―怖っ でも手放さないよ。
「んん゛っ」
腰をひねり、お腹に力を入れ、向かってくる剣を思いっきり蹴り飛ばす。私が普通に蹴ったくらいでは剣は折れないけど、軌道を変えて私の後ろの壁に突き刺さすことはできた。壁から抜け出す前に、振りかぶった剣を振り下ろして叩き切る。
―うまいこと2本とも折れてくれた。あとはユーアさんの方の剣を……
ユーアさんの方を振り返ってみたら、余裕な感じで2本の剣をの波状攻撃を捌いていたから、任せて大丈夫そう。私はアーノックの方に向かうことにした。
「クソ、当たらねぇ!」
―アーノックはイライラしながら氷の塊を飛ばしまくってるけど、やっぱり当たってないように見え……いや何発かはちゃんと当たってる? でも、数が減ってないどころか増えてるような……
ひとまずアーノックの側まで行って、近場のカラスを切ってみる。
「え、すり抜ける?」
当たったはず。間違いなく胴体を切った。でも、ショートソードからは何の手ごたえもなくて、切った一瞬カラスが煙みたいになったように見えた。
「これ幻か何かだよ!」
「そんなわけねぇだろ! よく見ろ!」
”よく見ろ”というアーノックを照らして見てみると、ひっかき傷やつつかれた傷が何か所も見えた。
「ランタンこっち向けんな!」
「ごめん!」
―どういうことだろう? 傷がつけられるってことは実態があるはずなのに、私たちの攻撃はすり抜ける。
私がいろいろ考えている間にも、カラスはどんどん増えていって、ユーアさんもセバスターもカラスに襲われながら剣やスケルトンと戦わざるを得なくなった。
「撤退しよう! これ以上戦うのは危ないよ!」
「どうやって逃げんだよ?! 切りがねぇぞ!」
セバスターの声が聞こえて、そっちを見た。
―スケルトンが減ってない。次々現れてる。
セバスターの足元には、足の踏み場もないほど白骨が散乱していて、すでに20体近くのスケルトンを倒しているのが一目でわかった。でもセバスターの目の前にはまだまだたくさんのスケルトンがいて、戦い続けている。
―退路はスケルトンに塞がれてる。
ユーアさんとアーノックに視線を向けてみる。
ユーアさんは2本のひとりでに宙を舞う剣を倒し終わっていて、カラスに攻撃してすり抜けることを確認してる。そしてアーノックは、細かい傷を何か所も負いながら、氷を出してカラスの攻撃を防御してる。
―逃げるなら前? でも、出口なんてわかんない。来た道を戻りたいし、カラスを無視して全員でスケルトンを倒せば、撤退できる?
「ユーアさん、アーノック、みんなでスケルトンを」
そこまで言った時、また、あの風を切るような音がいくつも聞こえてきた。
―またあの剣が来る。一体何本あるの?
そして、ここでも壁に備え付けられていたランタンが破壊され始めた。
真っ暗な状態で大量のスケルトンとカラスを相手にし続ければ、必ずこっちが先に力尽きる。というか無尽蔵に出てくるスケルトンや攻撃がすり抜けるカラスの相手なんて、明かりがあってもしてられない。
「とにかく合流するぞ。セバスターのところまで走れ」
「うん」
セバスターはまだ元気に戦っていて、アーノックは魔力がなくなりかけててぐったりしてる。私とユーアさんは、たぶんまだ大丈夫。
「おい! こいつらは武器をもってねぇ! 掻き分けて無理やり進むぞ!」
セバスターは私たちが近づいてくるとそれだけ言って、一番先頭でスケルトンを力ずくでどかしながら撤退を始めた。スケルトンにつかまれたり抱き着かれたりしてるけど、腕力で引っぺがしてる。
「アーノックにはちょっときつい?」
「余裕ですよ」
アーノックもセバスターを真似てスケルトンをかき分けて進み始める。噛みつかれた時だけスケルトンを殴って、掴まれても無視ししている。
―私も行こう。噛みつかれるのは嫌だけど。
描き分けようと両手を伸ばすと、さっそく噛みつかれた。あと掴まれた。そのまま両手を横に開いて進むスペースを作る。下水が流れるところにスケルトンが何匹か落ちて、飛沫が舞って臭い。
―もうスケルトン全員下水に落とせばいいんじゃない?
なんて思うけど、時間がかかるだけだからやらない。とにかく無理やり進む。いろんなところを掴まれて噛みつかれるけど、あんまり力が強くないみたいで、簡単に振りほどける。
私たちが進んでいる間に、どんどん壁のランタンが壊されていく。そしてとうとう、最後のランタンが壊された。今私たちは、手に持ったりベルトにつけたりしている手持ちのランタンだけが唯一の明かりになった。
―大丈夫。右手方で進んできたんだから、ちょっと暗くても左手を壁に突いて進めばちゃんと帰れる。
スケルトンを描き分けながら、不安をぬぐうようにそう考えた。
ふいにスケルトンが手に当たらなくなった。
”フォン”って音が聞こえて、私のベルトにつけておいたランタンが、”ガシャン”って音を立てて壊れた。
「しまった」
本当にポロっとそう零れた。
そして前を見ても、セバスターやアーノックの持っていたランタンの光が見えない。後ろを見ても、ユーアさんのランタンの光は見えなかった。
真っ暗闇の中、スケルトン、カラス、剣、そして下水が流れる音だけが聞こえ、そして何も見えない。3人の仲間の所在もわからない。
私は急にどうしようもない不安と孤独感に襲われて、動けなくなった。
「うわああああ」
ガシッと肩を掴まれて、悲鳴をあげる。次々と骨だけの手が私の首を腕を、足を、胴体を掴む。
「やだ! 離して! セバスター! アーノック! ユーアさん! 助けてぇ!」
パニックに陥って、ジタバタと暴れる。私を掴んでいるのはただのスケルトンで、ちゃんと力を込めれば振りほどける。
でもいつあの剣が私を刺し貫くかわからない
カラスがどこから攻撃してくるのかわからない。
暴れたせいでどっちに進めばいいかわからない。
そういう不安が私から冷静さを奪ってしまって、どうすればいいかわからなくなってしまった。
―怖い。なんでこんなに、いっぱい、どうすれば、みんなどこに行って、大体下水道にスケルトンが、死霊術士がいるなんて……
パニックになった頭の中で、死霊術士という単語が浮かんできた。
―王都で死霊術士と言えば、ご主人様しかいない。きっとご主人様が下水道で何かしてるんだ! このスケルトンはギドの部下……じゃないみたいだけど、ご主人様かギドが作ったはず……!
私の口を塞ぐように掴む手を引き離して、叫んだ。
「ご主人様ぁ! ギドォ! 助けてえええ!」
お待たせしました。パソコン環境に戻りましたので、またいつも通りかいていきます。
特に何もありませんけど、次話で100部目ですね。