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半ヴァンパイアは愚痴を言う

 「ただいま」

 

 夜遅くになっちゃったけど、私たち4人は報酬をもらって宿に帰ってきた。

 

 「おかえりなさい。どうでした?」

 

 「土木作業だった。疲れたよ」

 

 「お疲れ様です」

 

 マーシャさんは私を労いながら、椅子に座って裁縫をしてる。

 

 「何してるの?」

 

 「エリーのシャツが少しくたびれていたので補修してます」

 

 ―そっか。マーシャさんお針子だし、裁縫できるもんね。

 

 「ありがと、マーシャさん」

 

 「どういたしまして」

 

 ふう、と息をついて、武器を外したり雑嚢を置く。ふと、今日のアーノックがちょっと変だったことを思い出す。

 

 「マーシャさん、聞いてくれる?」

 

 「ん? いいですよ」

 

 「今日、アーノックがおかしいんだよ。この依頼の報酬が仕事の内容に対して高すぎる、必ず裏があるって決めつけててね。それで今日の仕事が終わっても報酬はもらえずに、別の仕事をさせられるだろうって言いだしたの」

 

 ―たぶんこんな感じの話だったはず。

 

 「え、報酬もらえなかったんですか?」

 

 「貰えたよ。アーノックが変に深読みして、一人で深刻に考えてただけだったの」

 

 「そうですか」

 

 「アーノックはほんと、悪いことと人を疑うことばっかり考えてるんだよ」

 

 「まぁちゃんと報酬貰えたなら良いじゃないですか。というか、報酬貰ったってことは依頼達成ってことですよね? もうピュラの町に帰れるってことですか?」

 

 「う~んと、そうなんだけど、えっと、もう一つお仕事をすることになっちゃってて、まだ帰れない、かな」

 

 「何かあったんですか?」

 

 「えぇっとね……」

 

 

 

 

 

 

 「報酬が高すぎる? 気にする必要ないと思うぞ」

 

 疑り深いアーノックがあっさりと報酬をもらえたことを疑問に思っていて、依頼を受けさっき報酬をもらった倉庫を出たすぐのところで、セバスターやユーアさんに相談し始めた。

 

 ―無駄に疑って、嫌いな私にあんなに真剣に相談したのに何事もなくて、収まりがつかなくなっちゃったんだね。

 

 私は黙ってアーノックを憐れみの目で見ることにした。

 

 「なんでですか? 破壊された門を完全に建て直すまでやって金貨15枚なら納得できますが、今日一日の内容で金貨15枚ですよ? おかしくないですか?」

 

 「俺ら冒険者からしたら高すぎるかもしれんが、貴族の立場ならおかしい話じゃない」

 

 「なんでですか!?」

 

 セバスターは”報酬もらえたんだから良いじゃねぇか、めんどくせぇ”とだけ言って考えるのを放棄してる。今はユーアさんとアーノックが話してるのを私が見てる感じ。

 

 「貴族なら何だって言うんですか?」

 

 ユーアさんは早く理由を言えと迫るアーノックをあしらいつつ、タバコを取り出して吸い始める。切り取った吸い口をポイ捨てするのはちょっとやめてほしい。

 

 「王都の復興のために、自分はこれだけの金を使ってこれだけのことをした。そういう実績がトレヴァー伯爵の目的だろう。だから冒険者を大量に雇って、高い報酬を払う。雇った相手と払った金を帳簿につけておけば、あとでこれだけの金とこれだけの冒険者を雇っていたと言い張る材料になる」

 

 ふぅっと煙を吐きだして、アーノックを見ながら続ける。

 

 「一日だけ雇って次の日は別の冒険者を雇うようにすれば、雇った人数も増える。だからまだ門が直ってなくても一日で俺たちの仕事は終わり……という感じだと思うぞ」

 

 「なんでわかんだよ?」

 

 「相手の立場に立って考えてみただけだ。証拠はない。あと、人を疑うときは、相手の立場で考えて証拠を探す癖をつけたほうがいいぞ」

 

 「グ……気に入らねえ。お前もトレヴァーとかいう腐れ貴族も、あとついでにエリーも!」

 

 「なんで?!」

 

 「うっせえクソアマ!」

 

 ―黙って見てただけなのに、ついでで気に入らないとか……

 

 そんなふうに話してるとふいに血の匂いを感じて、匂いの方向を見た。包帯で体と頭を巻いた人が、左右から支えられながらさっきの倉庫に入るのが見えた。巻いた包帯に血が滲んでて、大けがしたのが目に見えてわかる。

 

 「どうかしたか?」

 

 セバスターがなれなれしく私の肩を掴んで聞いてくる。距離感を考えてほしい。

 

 「大けがした人が倉庫に入ってった。怪我するような仕事あった?」

 

 「あん? 覚えてねえよ」

 

 「僕らと同じように依頼を受けた冒険者でしょうね。王都内であんな風に怪我をするのはちょっと気になります」

 

 ―確かにちょっと気になる。血が出るってことは切り傷とかでしょ? 他の冒険者と喧嘩でもしたんだったら関わりたくないけど。

 

 一応みんな気になるということで、4人で倉庫に戻ってさっきの怪我した人を探してみる。まぁ探すまでもなく見つけられたのだけど。

 

 「下水道に何かいた。異臭の原因が魔物なんて聞いてないぞ」

 

 依頼を紹介してた人に、怪我をした人が文句を言ってる。彼らは下水道の異臭の原因を調べる依頼を受けたらしい。

 

 「どうする?」

 

 ユーアさんが小声で聞いてくる。かかわるか、かかわらないか、ユーアさんはどっちもでもいいってことかな。

 

 「さっきの話だが、トレヴァーは高い報酬を出すんだろ? だったら決まってんだろ」

 

 ―なんでそういうところだけは聞いてるんだろう。

 

 セバスターがそう言って、一人で話しかけに行っちゃった。アーノックが止める暇もなくスタスタ歩いて行っちゃって、アーノックが頭を抱えてる。

 

 「僕は臭いの苦手なんですけど」

 

 ―私だって嫌だよ。相棒ならちゃんと止めてよ。

 

 と、思うだけにしておいた。

 

 「代わりに俺が何とかしてやるよ。異臭の原因突き止めて、ついでにそこの雑魚を襲った魔物ぶっ殺せばいいんだろ? 任せとけ。 ああん? 報酬は金貨15枚? 魔物に関しちゃ別件だろうが! 倍出せ倍、金貨30枚! 文句あんのか? ああ?」

 

 酷い交渉が聞こえてきて、私は他人のふりをした。

 

 「お前ら、依頼受けてきたぜ! 明日の朝出発な!」

 

 ダメだった。

  

 「よぅし! 明日もがっぽり稼いでやるぜ!」 

 

 

 

 

 

 

 「ということがあって、明日下水道に行くことになったの」

 

 「セバスターは勝手というか、子供っぽいですね」

 

 「私もそう思う」

 

 マーシャさんとそろってため息をついて、とりあえずすっきりした。


 「そういうわけで、もう少し王都にいていい?」

 

 「もちろんいいですよ。でも、たまに一緒に買い物に行ったりしたいです」

 

 「うん。時間作るね」

 

 この後は王都のどこに行きたいかとか、何を買いたいかなんかを話した。愚痴を聞いてもらうより、こういう話をした方が楽しい。

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