表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/304

半ヴァンパイアは手配書を見る

 「ユ、ユーアさん! 手配書みたい! お店近くにある?!」

 

 「エ、エリ―? どうしたんですか?」

 

 思わず大きな声になっちゃったけど、さすがに確認しないわけにもいかない。

 

 戸惑うマーシャさんとフードのせいで表情が読めないユーアさんを引っ張って、教えてくれた近くの冒険者のお店に駆けこむ。

 

 「お邪魔します!」

 

 焦って、お店の入口で言う必要のない挨拶をしつつ、カウンターで強引に指名手配書を見せてもらった。茶色の紙に赤い大きな文字で”クレイド王国指名手配”と書かれたそれを、目を凝らして読む。

 

 ―ホグダ・バートリー

 女性

 魔術師/死霊術士

 東門から弟アランとともに王都に侵入し、北西区の民の死体を用いて大量のゾンビを生み出し王国の転覆(てんぷく)を図った極悪人。王城から王家の秘宝を奪い逃亡した。またスケルトンの上位種を配下に持っており、2度王都を襲撃した”海賊船長ギド”を名乗る高位スケルトンを従えている。薄緑のワンピースを着ていた。

 王家は、生死は問わず金貨4000枚でこの者の首を買い取る―

 

 ―なにこれ?! ご主人様はゾンビだけどゾンビなんか作ってないよ! それはサイバが、ストリゴイとかいうあいつらがやったんだ。ご主人様じゃない! それに王家の秘宝ってギルバートのことでしょ?! もとはと言えばクレイド王国が無理やり自分のものにしたのを、取り返しただけなのに!

 

 確かにギドと一緒に王城で暴れたけど、いわれのないことまで私たちのせいにされていることが嫌だった。あと、いつまでもホグダのことを”ご主人様”なんて呼んでる私は、結局いろいろ思い出した今でも、心の中ではご主人様やギドの味方なのかな、なんていうこともちょっとだけ思った。

 

 ―アラン・バートリー

 男性

 ハーフヴァンパイア

 姉ホグダとともに王都に侵入し、北西区の民を大量虐殺しゾンビを生む出す準備を行った。また王城内で王弟ジークルード殿下に大けがを負わせ、姉とともに王家の秘宝を奪い去った。また現在王弟殿下が罹患されている病の原因もアランにあると考えられる。紺色のジャケットを着て、茶髪を後ろでまとめていた。

 王家は、このものを生きて捉えた者に金貨7000枚、首は金貨5000枚で買い取る―

 

 ―ご主人様の方にも書いてあったけど、私殺してない。あの時、私は誰も殺してなんかないよ。大量虐殺なんて言いがかりだよ!

 

 あの時、たくさんの死者が出た。それは間違いない。私たちにも原因はもちろんある。それはもちろんわかってる。

 

 だけど

 

 死者のほとんどはサイバが原因のはず

 

 私たちの目的はギルバートだけだったはず

 

 でも

 

 



 

  

 ポン、とユーアさんに肩に手を置かれて、周りを見た。

 

 ―あ。

 

 ここは初めて入った冒険者のお店。突然入ってきた私が指名手配書をじっと見ていれば、当然目立つ。実際お店にいたいろんな人が私と、私のすぐ近くにいるマーシャさんやユーアさんを見てる。

 

 「出よっか」

 

 「そうした方がいいだろうな」

 

 お礼を言って、手配書を返してさっさと店を出る。お店にいた人たちは絶対私のこと変な奴だって思っただろうなぁ。

 

 「とにかく宿に行くぞ。残念だがセバスターやアーノックと同じ宿だ」

 

 ユーアさんは私の行動にとやかく言わず、話題を変えてくれた。”何か知ってるのか?”とか”あの事件が気になるのか?”とか、聞いてきそうなものだけど。

 

 「えっと、なんで? 別の宿がいいよ」

 

 「トレヴァー伯爵は俺たちだけを雇うわけじゃない。いろんな町の冒険者が王都に向かっていると、リリアンが言っていただろ? だから今王都にはよその町の冒険者がわらわらいて、宿はたいてい満室だ。無理を言って2部屋確保しておいたから、お前ら女組みは俺らとは別の部屋に泊まれ」

 

 ―なるほど、それじゃあしょうがないね。

 

 「ありがと」

 

 「ああ。俺だけじゃなくてセバスターにも言ってやれ。あいつも俺と同じ理由で、同じ宿に泊まるように言ったんだと思うぞ」

 

 ―それはないと思うよ?

 

 

 

 

 

 ユーアさんは南東の区画にあるちょっとお高めな宿に案内してくれた。セバスターとアーノックは広い受付に備え付けられたソファーに座って私たちを待っていたみたいで、話しかけてくる。足を組んで腕を背もたれに乗せたすごい偉そうな感じで。

 

 「結局ここにしたのかよ。俺が言った通り、同じ宿にした方がいいってわかったろ?」

 

 「せっかくセバスターが厚意で、こ、う、い、で同じ宿に泊まるよう言ったというのに断っておいて、結局ここに来るんですね」

 

 ―なんでこう、この2人はこういう性格なんだろうね。

 

 「はいはい」

 

 私は2人の物言いにちょっとげんなりして、適当に手を振って流すことにする。

 

 「はいはいじゃねぇよ」

 

 「ごめんごめん」

 

 「そうじゃないですよね?」

 

 ―どうしろっていうのかな。めんどくさいよもう……

 

 「”ありがとうございます”だろ?」

 

 「”ありがとうございます”ですよね?」

 

 2人で声をそろえてお礼を言うように言ってくる。余計にお礼を言いたくなくなってくるよほんと。まぁでも実際厚意で言ってくれたみたいだし、言うだけ言っておくことにする。

 

 「……ありがとうございます」

 

 嫌そうな声になっちゃったのは、言うまでもない。

 

 「お礼をしたいってんなら、なぁ?」

  

 「ねぇ?」

 

 またもセバスターがフィグサインをチラ見せしてくる。お礼を言わせといて、”礼なら体で払え”と言うことかな。お礼をしたいなんて言ってないのに……というかアーノックは関係なくない? そもそも2部屋確保してくれたのはユーアさんじゃないのかな。この2人にお礼言う必要、ある?

 

 「そっちが言えって言ったんでしょ? それに昨日、その、すっきりしてきたんじゃないの?」

 

 「男はいつでもムラムラしてんだよ」

 

 「僕はむしろ焼け石に水でしたね。まだまだヤれますよ?」

 

 「最低」

 

 指名手配書を見て機嫌が悪い時にこの2人の相手をしたのは間違いだったみたいで、無性にイライラして仕方がない。

 

 「エリー、もういきましょう?」

 

 「うん」

 

 マーシャさんに促されて、私とマーシャさんはさっさとお部屋に行くことにした。ユーアさんはともかく、あの2人と話すのは嫌だし。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ