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半ヴァンパイアは店に行く

 魔女の入れ墨亭に向かうというセバスターとアーノックの会話を聞いて、私は2人についていくことにした。

 

 「なんでついてくんだよ」

 

 「魔女の入れ墨亭に行きたいからだよ」

 

 セバスターは事あるごとに私の方を振り返ってなんだかんだと文句を言ってくる。めんどくさい。

 

 「なんで俺らがお前を案内しなきゃいけねえんだ。ついてくんな」

 

 「案内しなくてもいいよ。勝手についていくから」

 

 ―私だってほんとは嫌だよ。他に魔女の入れ墨亭への道がわかるならわざわざこの2人について行ったりしないよ。

 

 「エリーは知らないかもしれませんけど、あの店は初見さんお断りですよ」

 

 アーノックまで何か言ってきた。そう言えばコルワさんも言ってたね。でも入るための金属の棒……これなんて言うんだろうね? 手形とは少し違うだろうし。

 

 「あっそ」

 

 説明するのもめんどくさいから、適当に返す。

 

 「僕としては、エリーが店に来てもいいと思うんです。ただ、その店に入るには店の人とつながりを持つか、貴族か、僕らみたい既にに店に出入りしている冒険者の紹介がないとダメなんですよねぇ」

 

 アーノックが糸目の奥をギラギラさせながら私を見る。一体何を考えてるのかな。絶対ろくなこと考えてないだろうけど。

 

 「僕が紹介してあげてもいいですよ? 店に入りたいんでしょう?」

 

 ―絶対裏があるね。紹介してもらわなくてもこの棒があれば入れるはずだし、そんな話には乗らないよ。

 

 「必要ない」

 

 「店に入れなくてもいいんですか? まぁ僕らがタダでエリーに親切にするわけないってわかってるでしょう。裏があると疑ってるようですが、もちろん、タダじゃないですよ」

 

 必要ないって言ってるのに、なんで勝手に紹介してもらう方向で話進めてるのかな。セバスターまで私の方をみてニヤニヤしてるし、ほんとに感じ悪い。

 

 「金貨20枚でどうです?」

 

 「ブハハハハッ、アーノック、お前」

 

 どう考えても高すぎる金額だね。セバスターが噴き出すってことは、相当吹っ掛(ふっか)けてるってことでしょ?

 

 「そんなお金払うわけないじゃん」

 

 ―実は払えなくはないけどね。気が付いたら私小金持ちになってた。でも絶対この2人には払わない。

 

 「それじゃあ代わりに……」

 

 「代わりに、何?」

 

 私がいやいやながら話の続きを聞くと、セバスターとアーノックは、待ってましたと言わんばかりに身を乗り出して

 

 「一発ヤらせろ」

 

 と、下品な顔しながら要求してきた。普通にしてればイケメンなセバスターも酷い悪人面になってる。アーノックなんか糸目をおっきく見開いちゃって、充血した白目がばっちり見えてる。2人のこういう一面を知らない人が見たらびっくりするだろうね。

 

 「最っ低」

 

 嫌悪感たっぷりの顔と声音で拒否しておく。

 

 「へへへ」

 

 「ヒヒヒ」

 

 ―あれ? てっきり逆上して怒鳴るか、最悪襲ってくるまであると思ってたのに、なんで嬉しそうに笑ってるの?

 

 

 

 

 私と悪人2人はいくつかの通りを抜けて、薄暗い路地裏にやってきた。路地裏なのに扉が一つあって、その扉のそばに男の人が立っている。セバスターとアーノックはその男の人に軽い挨拶をし始めた。

 

 「やぁチャグノフの旦那。今日も飲みに来たぜ」

 

 「こんばんわチャグノフさん。お邪魔します」

 

 私に向ける悪人面や悪そうな声はどこにやったのか、セバスターもアーノックも”善良な冒険者ですよ”みたいな笑顔で声をかけた。外面だけはいいのも相変わらずだね。イケメンスマイルにさわやかボイスだとは思うけど、全然キュンと来ないのは、私が2人の本性を知ってるからかな。

 

 「セバスターにアーノックか。後ろの彼女は?」

 

 チャグノフって呼ばれた人が私をみる。ひげの濃い男の人で、長い黒髪を後ろでまとめてるせいで浮浪者に見えなくもない。たぶんそこの扉がここが魔女の入れ墨亭の入口で、この人はお店の前を見張る店員さんか何かなのかな。

 

 「こいつはまぁ、ついてきただけなんだけどなぁ?」

 

 「なんて説明すればいいですかねぇ?」

 

 2人は言葉を濁しながら、ふいに私の方を見る。いやらしい笑顔っていうのはこういう顔を言うんだろうね。

 

 ―ん? なに?

 

 アーノックがチャグノフさんには見えないように、私に向けて背中でハンドサインを送ってる。右手は人差し指と親指をこすってる……お金のサインかな。左手は、握った人差し指と中指の間から親指の先が飛び出してる。フィグサインってやつだね。

 

 ―紹介してほしければお金を払うか、代わりに体で払うかを選べってこと? どっちもお断りですけど。大体嫌いな私の体になんか興味ないくせに。

 

 「私はエリーと言います。コルワさんに会いたくて来ました」

 

 私はそう言って雑嚢から、コルワさんに渡されていた金属の棒を取り出して見せる。 

 

 「見せてくれ」

 

 「どうぞ」

 

 チャグノフさんが手を差し出すので、金属の棒を渡す。

 

 「はあ?」

 

 「え、なんでそれを」

 

 悪人2人が慌ててるけど、無視する。

 

 ―お店に入る直前になれば、私が焦って要求を飲むと思ってたみたいだけど、残念だったね。

 

 「確認した。コルワちゃんなら中にいる。少し前から元気がないんだ、知り合いなら会ってやってくれ」

 

 「はい、お邪魔します」

 

 唖然としてる2人を放っておいて、チャグノフさんが開けてくれた扉を通って中に入る。

 

 中は薄暗い路地裏とは別世界って感じだった。真っ白な床と壁に、丸テーブルと丸くてかわいいデザインの椅子がいくつか並んだお店。右手には2階に上がる階段もあって、奥の方にこじんまりとしたカウンターがある。

 

 「え、あ、、、」

 

 そして私が一番驚いたのは、カウンターの奥でグラスを磨いている人の外見だった。

 

 短く切りそろえられた、真っ赤な髪。

 

 丁寧に施された化粧。

 

 薄い紫色のドレス。

 

 そして、そのドレスから大胆に露出した……鉄板のような大胸筋。

 

 ドレスの肩ひもを支える、私の2倍くらいある肩幅と、浮き出た血管がここからでもくっきりと見えるほどの肩、腕の筋肉。

 

 ―え、ど、どうすれば、何をいえばいいの……?

 

 困惑する私をみたその人は、私にウインクを飛ばしてきた。バチコンッって感じで。

 

 「いらっしゃい。初めましてかしら? どうぞこちらへ」

 

 ―ま、マスターより……小人の木槌亭のマスターより声が渋い! 

 

 普通に挨拶すればよかったんだろうけど、この時はなんて言っていいかわかんなかったから何にも言えなくて、言われるままカウンター席まで行って座った。

 

 「あたしは魔女の入れ墨亭の店主、リリアンっていうの。あなたお名前は?」

 

 「あ、エリーです。初めまして」

 

 「はぁい初めまして♪」

 

 なんというか、癖の強さが半端じゃない。

 

 ―そういえば、コルワさんはお父さんと2人でお店を経営してるって言ってたっけ。店主がリリアンさん? てことは、コルワさんはリリアンさんの娘?

 

 「え、ええっと、コルワさんに会いに来たんですけど」

 

 「あら、娘のお友達? すぐ呼んでくるわね♪」

 

 そう言ってリリアンさんはカウンターの奥にある扉を開けて、お店から一旦出ていっちゃった。というかリリアンさんは本当にコルワさんのお父さん……でいいのかな。親御(おやご)さんだった。

 

 コルワさんに遺伝しなくてよかったと思っちゃうね、いろいろと。

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