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魔術師たちは復活する

時系列的には2章の終わりごろの話になります。


 クレイド王国が建国される以前、当たり前のように人の町に存在していた魔術師たちの長、シュナイゼルは、暗闇の中で目を覚ました。

 ここはどこで、今はいつなのか、一切の光の無いその場所ではわからない。

 

 だが、そんなシュナイゼルにも一つだけわかることがあった。

 

 ―今、地上にあるだろうクレイド王国の王都は、死人であふれかえっている。

 

 自分が目覚めたということは、そういうことだった。死霊術の奥義の一つ、”仮死化”を同胞と自らに用い、目覚める瞬間を、”地上で人が大量に死んだとき”と設定したことを覚えていた。

 

 シュナイゼルの周囲で、もぞもぞと人が起き上がる際の布ずれの音がする。同胞たちも続々と目を覚ましているのがわかった。

 

 この場に居るのは、シュナイゼル含め死霊術士4名、錬金術師5名、呪術師2名、占術士1名の計12名。すくなくともシュナイゼルが仮死化の術をかけたのはこの12名だったはずだ。真っ暗闇の中で人数を数えることは難しい。一旦もぞもぞという音がある程度収まるのを待って、シュナイゼルは全員に聞こえるよう声を出した。

 

 「ぇ゛ん゛ぃ、っはかぁ?」

 

 声を出したが、言葉にはならなかった。乾ききっている体を潤す水分が必要だった。

 

 そのことに気づいた12名の魔術師たちの行動は早かった。壁まで進み、壁に手をついて扉が無いか探し、探し当てた扉を開け、薄暗い光と鼻をつまみたくなるような匂いを手に入れた。

 

 同時に水の流れる音も聞こえ、匂いなど気にせず我先にと階段を上り、そこに出た。

 

 円筒形の天井と、壁に沿うように走る細い足場、そして足場と足場の間の溝を流れる汚濁した水。

 

 ―下水道か。

 

 それを目にした全員は、すぐさまこの空間が何なのか理解した。そして、汚濁した水を飲むことができないこともわかっている。どれだけ喉が渇いていようと、彼らは理性的かつ冷静に行動する。

 

 シュナイゼル含む死霊術士、そして呪術師に占術士たちは、羽織っていたグレーのローブをひるがえし、姿勢を低くする、そして

 

 「ぉ゛え゛ぁぃい゛ばふ!」

 

 錬金術師たちに頭を下げた。

 

 

 

 

 

 錬金術師たちによって蒸留とろ過をくりかえし、汚濁した水は飲める水へと変貌した。こういった分野において、錬金術師を除く魔術師たちはどうしようもない。どうしようもない方の彼らは水を受け取り、一気に飲み干し、4杯ほどお代わりしたのちに、はっきりとお礼を言うこととなった。言うまでもなく、彼らの長であるシュナイゼルも水を受け取りお礼を言う方の魔術師だった。

 

 

 

 

 

 

 日の光の届かない下水道の中を照らしていたのは、各所に取り付けられたランタンだった。シュナイゼルはそのうちの一つを拝借し、11名の魔術師たちとともに目覚めた部屋に戻って来た。水を飲む際にシュナイゼル含め12人全員居ることを確認していたので、とりあえず点呼は飛ばして次に話し合うべきことを切り出す。

 

 「我らが目覚めたということは、地上はそういうことになっている。だがここははやる気持ちを抑え、記憶の補完とやるべきことの共有といこう」

 

 最後に覚えていること、それはおそらく12名それぞれ違う可能性があった。仮死化の術は、術を行った時の記憶がある場合と無い場合があるためだ。そこで、なぜ仮死化の術を行ったのかを覚えている範囲で話し合うことになる。

 

 一番手はやはりシュナイゼルだ。長であり、この12名の中で最も強い動機をもって仮死化を行ったのだから。

 

 シュナイゼルは思い出す。かつてのクレイド王国で、彼の師匠たる人物が突然殺害され、それを機に魔術をよこしまなモノ、魔術師をそれだけで悪人とし迫害を始めた、あの頃のことを。

 

 「我が師匠ホグダが、王家によって殺された。そのすぐ後、王国は我ら魔術師を悪として迫害し始めた。それまで普通に国民として扱っておきながら、突然手のひらを返したかのように我らを殺すことを是とした。当時の我らは各所に散っており、反撃する余裕などなかった。だから生き残っていた全員であつまり、王国が弱る日までは地下で眠り、その時が来たら王国を我らの力で滅ぼす。そのために、我らは仮死化を行った……と記憶している」

 

 シュナイゼルの言葉に、11名の魔術師たちは頷く。その後、それぞれの記憶や動機を話し、記憶の補完を終えた。

 

 「次はやるべきことの共有だ。我らの目的は、クレイド王国の滅亡である。これに異論はないな?」

 

 全員が、こっくりと頷く。

 

 「だがいきなり地上にでて暴れまわるようなことはしない。というか無理だ。我ら死霊術士は死体が無ければ大した攻撃などできはしない。錬金術師も、操鉄(そうてつ)を錬成せねば戦闘など無理だ。呪術師など呪う相手がわからねば無力。占術士は戦うことなどまず向いていない」

 

 魔術は直接戦闘に向いていない。そんなことはこの場にいる全員が理解している。彼らが自らの非力さを嘆くことはない。

 

 「故に、まずは情報を集める。占術によって地上への出口を探し出し、2人から3人に分けて地上に出て情報を集める。我らが眠っていた期間、クレイド王国の現状の把握。そして食料の確保だ」

 

 彼らは最期にもう一度頷くと、即座に行動を始める。同じ志を持つからか、彼らの集団行動は常に規律が乱れることはない。

 

 シュナイゼルと占術士を除く10名は、即座に2人組と3人組2つずつのグループになった。

 

 「あ~、待て。言い方が悪かった。地上への出口が占えるまでは待機でいい」

 

 さっさと出ていこうとする4つのグループを諫めとするシュナイゼルのローブが、クイクイと引かれた。そっちに視線を向けると、ローブの端を掴んだ占術士がシュナイゼルの顔を見上げていた。

 

 「出口を占うより歩いて探したほうが早いよ」

 

 「あ、うん」

 

 シュナイゼルは微妙な顔になった。

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