半ヴァンパイアは港町に着く
護衛二日目、何事もなかった。
コルワさんは日が昇ると馬車の荷台に戻り、サマラさんが入れ替わるように起きてきた。そのあと軽く朝食を摂って出発し、夕方には港町ルイアの西門まで着いたのだった。
門の左右に長槍をもった門番さんがいて、サマラさんは、通行手形を取り出して御者席から彼らに話しかける。
「行商人です。通っていいですか?」
「歓迎する」
「ありがとうございます」
すごくあっさり通っちゃったね。通行手形すごい。
初めて来る町はすごく新鮮な感じがする。ピュラの町の建物は木造だから大体全部茶色い色なんだけど、ルイアの建物はレンガ塀や赤い屋根とかの建物が多い。そして門をくぐったばかりなのにわずかに波の音が聞こえてくる。嗅いだことのないにおいもするね、この独特なにおいが”磯の香り”という奴なのかな。
私はキョロキョロと町を眺めている。そういえばサマラさんが町に入ってからずっと静かだ。
街の中では、横幅が狭い一頭馬車でも、通るのは大通りや馬車を想定した太い道だけ。仮に通れてもそこ以外は馬車を走らせることは禁止らしく、今は海の方に向かって大通りを走ってる。
大通りにはいろんなお店がある。屋台、露店、看板のある扉がいくつもあって
人がいない
ここにきてようやく私は、この街の異常さに気が付いた。人がいない、見えない。聞こえてくるのは、乗っている馬車の音を除けば、波の音だけ。
そもそも門をくぐってすぐに波の音が聞こえてくる時点でおかしかったんだ。普通は人のたてる雑音で、海から距離のある場所で波の音は聞こえないはず。
「サマラさん引き返そう! この街は今危険かもしれないです」
深夜ならともかく、まだ夕方なのにこの状況はおかしい。
「エリーちゃん落ち着いて?」
サマラさんはすごく冷静だった。私より先に気づいていたのかな。
「大通りにあるお店は全部閉まってるわ。突然無人になったんじゃなくて、店仕舞いしてから無人になったってことよ」
言われてみればそうだね。看板は閉店って書いているし、屋台には商品が一切置かれていない。
「つまり自分の意思でこの街の人はいなくなったかもしれないのよ。なぜそうしたのかはわからないけど」
う~ん、大通りの店の人やお客さんまでいなくなる理由? わかんないです。
「とりあえず取引先の商店に向かうわ。馬繋場があるはずだからね」
馬車の中で人が寝てるわけだし、適当なところに置いとくわけにもいかないか。それに取引先の店に人がいれば、何があって人がいなくなったのかわかるかもしれない。
大通りを海の方に進んで行く。
「あそこの店よ」
「おっきい」
サマラさんが指さしたのはかなり大きな白い壁のお店だった。横幅が広くて、普通の入口とは別に、馬車ごと店に入るための入口がある。私たちはそこからお店に入っていった。
入口を抜けるとすぐに中庭みたいなところに出た。この商店、横だけじゃなくて縦にも長い。
中庭には繋ぎ石がいくつか置かれていて、サマラさんは馬車を停めてコルワさんを起こしに行った。
ふいに視線を感じて、中庭を覗く窓に目をやると、閉まっているカーテンがわずかに揺れた。
この街が完全な無人となったわけではないらしい。残っている人が私たちの味方とは限らないけど。
馬車の荷台からサマラさんとコルワさんがそろって出てきた。
「エリーちゃん。とりあえず受付に行ってみるから、ついてきてくれる?」
「はい」
そりゃ行きますよ。護衛ですから。
中庭から大通りのある、店の表側にやってくる。U字型の受付にはだれもいないけど、奥の方から足音が聞こえてくる。たぶんさっき私が感じた視線の主だと思う。
受付の奥から、灰色の外套を着たがたいのいい金髪のおじさんが出てきた。外套を着てはいるけど、その下には赤色の生地に金いろの装飾品が付いた派手な服を着ているのが見える。
灰色の外套の地味さと隠しきれてない派手さがミスマッチだ。一言で言うと変。
「行商人のサマラ殿でしょうか?」
「ええ、サマラと申します。ご注文の品を届けに参りました。ゾーイ様はこちらにおいででしょうか?」
「申し訳ございません。ゾーイは現在行方不明なのです」
ゾーイって人がサマラさんの取引相手らしい、今いないけど。
変なおじさんは受付から出て、
「この街が異常な状況なのはもうお判りでしょう。詳しくお話いたします」
と言いながら応接室に案内する。
変なおじさんは、この街の状況について知っているみたいだね。サマラさんとコルワさんも話を聞くつもりらしい。私たち3人は応接室に入った。
短いですが、とりあえず町に着きました。
次話は別視点の話の予定です。