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青年はイモを知る

 ステラがワービーストの国に帰って数日、クレアさんがちょくちょく俺の家にやってくるようになった。ユルク爺さんの差し金らしい。

 

 「モンドさんは、故郷に持ち帰る技術や知識を求めて交流特区に来られたのですよね?」


 「まだ何にも身に着けてないけどな」

 

 俺の家に来て何をするかと言えば、世間話をするくらいだ。ユルク爺さんは何を思ってクレアさんを毎日のように来させるのかわからん。

 

 「どういうのを求めているのですか?」

 

 「あ~、俺の村は普通の農村だからな~。農業の役に立つようなのとか、家畜も育ててるから酪農の技術とか、あとは村の特産品になるような何かってとこか」

 

 交流特区に来て結構経つし、そろそろ何かしら進展が欲しいところだ。

 

 

 

 

 

 次の日、またクレアさんがやってきた。

 

 「そういえば、今は何か仕事をしているのですか?」

 

 「今は特に何もしてないな。たまに毛皮の貴族亭で、俺でもできそうな仕事が無いか見に行くくらいだ」

 

 ちなみに一度も俺にできそうな仕事を見つけることはできなかった。というかボア肉の依頼を押し付けようとしてきやがる。俺一人じゃ無理だっつうの。

 

 「冒険者なのですね」

 

 「違う」

 

 みんな俺を冒険者だと勘違いするのは、あの店によく出入りするせいなんだろうな。行くのやめようかな……

 

 

 

 また次の日、クレアさんがやってきた。今度は小包をもってきた。

 

 「モンドさん、甘いものは好きですか?」

 

 甘いもの? 嫌いではないけど好きかと言われると微妙なところだな。

 

 「まぁ、それなりには」

 

 クレアさんは小包を開けて、中からお菓子を取り出した。きつね色で一口サイズの棒状のお菓子だな。

 

 「これは私の知り合いが作ったお菓子で、シルクポテトという芋から作られています」

 

 ”どうぞ”と差し出されたので、食べてみる。

 

 「……甘! 砂糖どれだけ使ったんだこれ?!」

 

 「すごく甘いですよね! これ砂糖使ってないんだそうです。すべてシルクポテトという芋の甘さなんですよ」

 

 まじか。すげぇなゲロクソ甘いじゃん。おっと、食べ物にゲロクソとか言っちゃまずいな。まずいもダメか。甘くておいしいが正解だな。

 

 「すげぇ甘いなシルクポテト。持ってきてくれてありがとな」

 

 

 

 

 そして、今日もクレアさんはやってきた。

 

 「モンドさん、昨日のシルクポテト、村に持ち帰る技術としてどうですか?」

 

 「え? ……え?」

 

 えっと、どういうことだ?

 

 「シルクポテトの苗と栽培方法を持ち帰るんです。シルクポテトはエルフの国ではよく食べられる芋なんですけど、人間の国には無いと聞きました。持ち帰れば村の特産品になると思うのです」

 

 確かに砂糖なしでこれだけの甘みが出せるというのはすごい。栽培できればきっと売れる。間違いなく売れる。商売素人の俺でもわかる。だが、いいのだろうか。

 

 「いいのか? 俺より、人間の大きな商会や商人に売る方が金になるだろうし、そもそも苗や栽培方法を習う金を払えるかどうか微妙だぞ?」

 

 「お金に関しては問題ありません。ユルク様がすべて払ってくださるそうです。あとはモンドさんが首を縦に振れば、すぐにでも栽培方法を教えられます」


 まじか、ユルク爺さん滅茶苦茶親切にしてくれるじゃん。金持ちすげぇな。

 

 「……わかった。ありがとう。教えてくれ」

 

 「私が教えるわけじゃないんですけどね。とりあえず明日、屋敷にお越しください。ユルク様や私の知り合いと詳しい話をしましょう」

 

 なんだかトントン拍子で話が進んだというか、俺の知らないところでクレアさんやユルク爺さんがいろいろ手を回してくれていたんだな。ちょっと、いやかなりうれしい。せっかく俺のためにいろいろ準備してくれたんだし、必ず身に着けて村に持ち帰るぞ。

 

 

 

 

 

 交流特区に来た時、俺は村のみんなの期待を重荷に感じていた。俺なんかに期待しないでほしいと思ってた。俺なんかに金を預けないでくれと嫌がってた。だけど、今はうれしく感じる。ユルク爺さんが俺のために金を出すと言ってくれて、クレアさんはシルクポテトの栽培を持ちかけてくれた。なんで俺なんかのために、なんて今は思わない。交流特区に来て、俺はちょっと変わったのかも知れん。

 

 今の俺は、期待に応えたいって思うんだ。

三章これにて完結です。次話から四章に入ります。あと、一口サイズの棒状の……ていうのは、芋け〇ぴみたいな感じだと思ってください。

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