半ヴァンパイアは合流する
「あ、メイドさん」
モンドさんを抱えて屋根を飛び回っていると、ユルクさんを抱っこして走るメイドさんを見つけた。
―そういえばなんでモンドさんは一人でエラットと戦ってて、ユルクさんとメイドさんは二人で逃げてるの?
ふと、何かおかしいような気がする。エラットがユルクさんよりモンドさんを優先して狙ったことが気になる。
―そもそもエラットはステラちゃんに執着してて、よくわかんないけどその執着が理由で屋敷の使用人さんたちを殺したりユルクさんの命を狙ったりしてるんだよね? 私やモンドさんまで殺そうとする理由ってなんなの?
メイドさんを屋根の上から追いかけつつ、エラットの言っていたことを思い出してみる。
―たしか”ステラのために、僕はくそジジイとジジイの従えるクズどもを抹殺する”とか言ってたっけ? じゃあ私もモンドさんも関係ないじゃん。屋敷で私と戦ったのは、ユルクさんやメイドさんを殺すのに私が邪魔だったからだと思うけど……じゃあ、モンドさんは……?
モンドさんは冒険者でもないし、ゼラドイル家の使用人でもないはず。狙われる理由がわからない。
―モンドさんとユルクさん+メイドさんの二手に別れたなら、ユルクさん+メイドさんの方を追いかけると思う。だってモンドさんを狙う理由がないもん。それなのにエラットはモンドさんを追いかけて殺そうとしてた。ユルクさんもメイドさんも放置してまでモンドさんを狙う理由……思いつかない。
「とにかく、合流しよう」
メイドさんにほぼ追いついたので、屋根を降りて声をかける。
「ユルクさ~ん、メイドさ~ん」
「え、エリーさん?!」
すっごく驚かれた。あと使いっぱなしにしてたヴァンパイアレイジを慌てて切った。赤くなった目を見られるところだった。危ない危ない。
二人はゼラドイル家から一番近い冒険者の店に逃げ込む途中だったみたいで、冒険者の店なら治療に使う道具や治療できる人もいるだろうってことで、私もモンドさんを抱えて一緒に行くことにした。
お店に向かいながら、ユルクさんとメイドさんから屋敷を出た後のことを聞いた。
モンドさんは追いかけてくるエラットを足止めするために、道に落ちてるいろんなもので抵抗した。メイドさんはユルクさんを抱えて走っているうちに、モンドさんとはぐれてしまった。ということだった。
―私が聞いたガラスが割れる音は、やっぱりモンドさんが立てた音だったんだね。
私からも、話せることは話しておくことにする。
門番の人が首を折られて死んでたことや、エラットがどこかに逃げて行ったことを伝える。
「そう、か」
ユルクさんは、それ以上何も言わなかった。何にも状況が好転する情報がなくて、むしろ悪い情報ばかりだからかな。すごくつらそうな顔だった。
向かっていた冒険者の店は、そのあとすぐに着いた。エルフの冒険者の店らしいけど、気にせず入る。
「お邪魔します。けが人がいるんです。誰か治療をお願いします」
店の中を全く確認せずに言っちゃった。お店の中は喫茶店みたいな感じで、エルフの人が何人もいた。みんな私と私が抱えるモンドさんを見てる。
「診せなさい」
エルフの人の一人がモンドさんを私から受け取って、大きな机の上に寝かせて怪我を確認し始めた。
「右わき腹を強く殴られてて、殴られてすぐは意識があったんですけど、すぐに気を失ってしまって」
モンドさんを診てくれてる人に、モンドさんの怪我について知っていることを話す。
―えっと、この後私はどうしたらいいのかな。治療の手伝いとか、できるかな……?
「命に別状はない……というか、ただの内出血。骨も内臓も無事。むしろ冒険者が気絶するような怪我には見えない」
―あ、よかった。いや良くないけど、大した怪我じゃないなら、よかった。
「えっと、冒険者じゃないんです。モンドさんは普通の人間ですから。でも結構強く殴られてました。殴り飛ばされてましたし」
「確かにかなり強く殴られてる。けど、この人の体が頑丈だから。ほら」
モンドさんの服をまくって、殴られた箇所と一緒にモンドさんのお腹を見せてくる。右わき腹の殴られた箇所が紫色に変色してて、大きな痣になってる。あと、モンドさんの腹筋が割れてて、体幹の筋肉が結構鍛えられてるのもわかった。
「頑丈な体じゃなかったら、あばら骨が折れたり内臓がつぶれてたりしてたはず。大けがにならなかったのは幸いだったね」
「はい」
モンドさんは大丈夫だとわかって、少し心が軽くなった気がする。
―なんでモンドさんが殴られなきゃいけないの? モンドさんは冒険者でも兵士でもないよ。自分のことをただの村人、一般人だって言ってた。ゼラドイル家の使用人でもない。なのにエラットはモンドさんを襲った。殺そうとした。なんで? 関係ないじゃん。なんで、なんで、どうして……
モンドさんは大丈夫だって安心したら、エラットに対してまたイライラし始めた。やっぱり、許せない。
モンドさんのことはエルフの人に任せて、ユルクさんのところに行く。ユルクさんは紫色のフードを被ったエルフの人のところで、何か話し込んでる。
今話に割って入るのはやめた方がよさそうだから、ユルクさんの近くで待機してるメイドさんに話しかけてみる。
「ユルクさんと話してる人は誰ですか?」
「彼女は占い師です。ステラ様の居場所を占ってもらっています」
―占ってって……もしかして、占術ってこと? じゃあ魔術師?
「魔術師なんですか?」
「そうです。人間の国にはいないのですか?」
「いないということになってますけど、どこかにはいるらしいです」
魔法使いと魔術師は一緒にされやすいけど全然違う。魔法は”魔法適正”というスキルを持っている人が使えるもので、炎や水、風なんかを生み出せる。魔術は、錬金術、死霊術、占術、呪術とかの総称で、こちらはスキルがなくても使えるらしい。人間の国では外法とされ禁止されている。私が知ってる魔術師は、死霊術士のご主人様とギドの二人だけになるのかな。
「ここって一応人間の国の中なんですけど、大丈夫なんですか?」
「本当はダメですけど、監視されてるわけでもないですから」
―へぇ、かかわらないほうがいいかも。今はあてにさせてもらうけど。
「出ました。ここです」
私がメイドさんと話してる間に占いが終わったみたいで、机に地図を広げて場所を教えてくれてる。
「ここにステラがおるんじゃな?」
「はい、クレアもそこにいるようです」
「おお、クレアも一緒におるのか」
―クレアさんを知ってるの? そういえばクレアさんも冒険者だったっけ。このお店に出入りしてたんだね。
私もステラちゃんの居場所が気になるから、ユルクさんの横から地図を覗き込む。
「3番倉庫」
占い師の人は、ゼラドイルのお屋敷の西にある倉庫群の3番を指さしていた。ここからはちょっと距離がある。もう夕方だから、今すぐ行っても夜になるかな。
―あとエラットの居場所も知りたい。ステラちゃんの近くにいるなら、クレアさんやステラちゃんが危険かもしれないから。
「エラットの居場所も占ってください」
「わかりました。そのエラットなる人について、教えてください」
エラットについては、私より詳しいユルクさんがいろいろ教えていた。私も聞くことにする。