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半ヴァンパイアは護衛する

 結局休憩の後もサマラさんの質問責めを受けつつ受け流しつつ、何事もなく夕方になるまで港町ルイアに向けて進み続けた。襲撃もトラブルもなく至って順調だね。

 

 馬車の荷台には乾いた薪や水がたっぷり入った(かめ)なんかも積んであったので、サマラさんの許可をもらって使わせてもらう。

 サマラさんは野営の準備ができて軽い夕食をとると、馬車の荷台でさっさと寝てしまった。そしてそれまでずっと荷台で寝ていたコルワさんが、入れ替わるように焚火までやってきた。

 

 「初めまして、コルワです」

 

 すごい普通の挨拶。ついさっきまで無造作に寝ていた人とは思えないね。

 

 「冒険者のエリーです。ピュラの町に戻るまで護衛させてもらいます」

 

 私も普通に挨拶する。昼夜逆転してることを除けば、コルワさんは普通の人なのかな。

 

 「夜の見張りを代わります」

 

 いきなり何を言い出すのか。

 

 「いえ、依頼人に見張りをやらせるわけにはいきません」

 

 「私は依頼人ではなく同行者ですから、それに、夜見張るために朝から今まで眠っていたんですよ?」

 

 え、そうなの? てっきりだらしない生活で昼夜逆転したのかと思ってたよ。

 

 「だらしない生活なんてしてませんよ。昼間に寝て夜起きていられるように、頑張って調整してきたんですから」

 

 え、思考を読まれた? ……いやまさかそんなことあるわけないない。ないよね?

 

 「えっと、どうしてそんなことを?」

 

 「叔母様にそうしろと言われたからです。”ムキムキの男性冒険者の護衛3人くらいが、私の美貌に我を忘れて夜に襲ってくるかもしれないから見張ってて”とか言ってましたよ」

 

 サマラさんは普段からあのノリらしい。

 

 「まぁ冒険者が依頼を受けてくれない可能性もありましたから、そのときの夜の見張り役ってことだったんでしょうね」

 

 「はぁ、なるほど」


 「それで叔母様が寝る前に、”依頼を受けたのはかわいい女の子だったの。昼間も護衛をしてもらったのに夜も見張りをさせ続けるのはあんまりだから代わってあげて”と言われたわけです」

 

 「はぁ、なるほど」

 

 しかし護衛の私が護衛対象に見張りをさせて休むのはだめだと思う。私も昨日夕方から寝貯めしてきたし、ここは私に任せてほしい。

 

 「お気遣いには感謝しますが、依頼を受けた以上ちゃんとやります」

 

 ”夜は護衛してなかったんだから報酬減額ね”とか言われるかもしれないし……いや言わないような気がするけど。

 とにかく代わってもらう気はありませんよと、コルワさんの目をしっかり見ながら言っておいた。

 

 コルワさんは無言で私の目を見つめ返してきたけど、ちょっと間を開けた後にふっっと息をはいた。

 

 「わかりました。もう見張りを代われとは言いません」

 

 ふぅ、説得できてよかった。

 

 「それじゃあ見張りは私に任せて、コルワさんも休んでください」

 

 「今起きたばかりなのに寝られるわけないでしょう?」

 

 それもそうか。私も昼寝した日は夜眠れないからよくわかるよ。

 

 「それよりおなかが空きました。エリーは夕食は済ませましたか?」

 

 まだ食べてない。サマラさんは”先にご飯食べてねるわね~”と言って、自分だけさっさと食べて寝てしまった。

 

 「いえ、まだです。これから作ろうかと思ってました。コルワさんも食べます?」

 

 「いただきます」

 

 コルワさんも食べるということで二人分作ることにしよう。

 

 ショルダーバッグから折り畳みのトライポッドを出して焚火にセット。水を入れた釣り鍋を焚火の上に引っ掛けて、持ってきた干し野菜と干しキノコ、イノシシの干し肉を小さくして鍋に入れて、野菜とお肉が柔らかくなるまで煮る。

 干し野菜はともかく干し肉は生で食べると結構硬くて、ハーフヴァンパイアになる前は食べるのに苦労してた。コルワさんも食べるんだし柔らかいほうがいいよね。

 野菜に火が通ってお肉が柔らかくなってきたら、出てきたアクをとって、岩塩を鍋の上でガリガリ削って味付けして、完成。

 ちなみにコルワさんは馬車の荷台から二人分のパンを持ってきてくれた。私もあのカチカチのパンを持ってきてるけど、今はコルワさんの厚意に甘えることにする。

 

 「見ての通りの料理なので、味はあんまり期待しないでくださいね」

 

 水と干した野菜と肉、そして塩。これしか使っていないのだから、当然スープはほぼ透明。水に野菜とキノコと肉が沈んでいるようにしか見えない。器によそうと少しは料理っぽく見えるかな…

 

 「いえ、よくできていると思いますよ」

 

 私はスープをよそってコルワさんに渡して、自分の器にもスープをよそって食べ始める。

 おいしい……かな? 野営するときによく作るスープだから、そうそう変な味にはならないはず。

 

 「おいしいですよ! えろー」

 

 「ッグ、ゴホッゴホ」

 

 思わずむせたよ! なんで私の名前をサマラさんと同じ間違い方するのかな! 

 

 「エリーです! さっきまで普通によんでたじゃないですか!」

 

 「すいません。予想以上においしくて舌がうまく回りませんでした」

 

 本当かな!? 本当にそうなのかな!? サマラさんになにか言われてたんじゃないのかな!? ねぇコルワさん? ねえ!?

 

 「サマラさんに”名前をえろーって呼び間違うと面白いわよ”とか言われませんでしたか?」

 

 「いえ? そんなこと言われてないですよ?」

 

 おっとぉ? 今顔をそむけたぞ? 

 そむけた顔の先に回り込んでもう一度問うてみる。

 「言われたんですね?」

 

 「えっと、はい。実は言われました」

 

 はい黒! サマラさん黒です。サマラさんが朝になって目を覚ましたらどうしてくれようか。いっそ今から起こしに行って、からかうのをやめるよう懇々と私の苦い思い出を語り聞かせてくれようか……

 

 「エリーが見た目よりしっかりしてたので、ちょっとからかってみたくなったんです。すいません」

 

 「いいえコルワさんは悪くないです。そそのかしたサマラさんが悪いんです」

 

 「いえ、私の誠実さが足りませんでした。護衛してもらっておきながらからかうなんて申し訳ないです」

 

 そう言ってコルワさんは私に頭を下げてしまった。う~んこれではもう、これ以上怒れない。

 

 「いえ、もういいです。少しからかわれたくらいで怒るのはちょっと大人げなかったですね」

 

 そういうとコルワさんは頭を上げてくれた。もうこの話題はやめておこう、コルワさんは悪くないのに、また頭を下げてしまいそうだし。というかコルワさんすごくいい人だね。

 

 「はやく食べちゃいましょう。冷めてしまいます」

 

 「おっとそうでした。エリー?」

 

 「なんです?」

 

 コルワさんはいい人だと思う。でもさっきの言い間違いのこともあるし、ちょっと身構えてしまう。

 

 「予想以上においしいっていうのは本当ですよ?」

 

 「え? あ、それはどうも。ありがとうございます」

 

 普通に笑いかけてくるからちょっと毒気を抜かれちゃったよ。

 

 「そういえば、コルワさんは冒険者の店を経営してると聞きました」

 

 コルワさんのパンをムシャムシャしながら、気になったことを聞いてみた。

 

 「はい、私と私の父とで経営しています。魔女の入れ墨亭という店です」

 

 うん、やっぱり知らない店だった。ピュラの町には冒険者の店がいくつかあって、パーティで活動してた時は、砂金の泉亭(さきんのいずみてい)という、ピュラの町では有名な店で活動してたんだけど、たまにほかのお店でも依頼を探したこともある。でもコルワさんに見覚えがないってことは、知らないお店がまだあるってことだよね。

 

 「ピュラの町のお店ですか?」

 

 念のため確認しておこう。

 

 「そうですけど、かなりマイナーな店なので知ってる人は一握りですよ。うちは貴族様方からの依頼が多くて、一般の方や近くの村からの依頼はほぼ来ないんです」

 

 へぇ、貴族からの依頼か。どこかへ行くときの護衛や屋敷の警護とか、そういう依頼かな?

 

 「ところで、エリーはどこの店で活動してるんですか?」

 

 それはサマラさんから聞いてないのかな? 人の名前の間違い方よりそっちを教えるほうが大事だと思うんですけど。

 

 「小人の木槌亭です。貴族とか関係なく普通にマイナーなお店です」

 

 マスターごめん。悪口のつもりじゃないんだよ? 本当のことを言っただけなんだよ? 

 

 「聞いたことないですね」

 

 「まぁそうですよね」

 

 「ええ、しかし護衛依頼を一人だけに受けさせるなんて、どれだけ人手不足なんでしょうかね」

 

 人は少ないけど依頼も少ないから、人手自体は足りてるはず。人が依頼を嫌がるだけで。

 

 「ええっと、3人のパーティと4人のパーティが一組ずつと二人パーティが二組、一人で活動してるのが一人。まぁその一人が私なんですけど」

 

 「四組もパーティがあってなんでエリー一人に護衛依頼を任せるのですか」

 

 ほかの人がみんな嫌がったからです。

 

 「まぁ事情があるんでしょう。でも引き受けたのは私ですから」

 

 「エリー? 悪いことは言いませんから、ほかの店を探してみてください。それかうちの店に来ますか? 貴族相手なので結構面倒くさいかもしれませんけど」

 

 「私は小人の木槌亭が結構気に入ってるんで、大丈夫です」

 

 「どういうところが気に入ってるんですか?」

 

 「家が近いところですね」

 

 私は冗談のつもりで言ったんだけど、この後文字通り夜が明けるまで、いい冒険者の店の選び方とうちの店自慢と勧誘を受け続けた。

 コルワさんはいい人だし真面目だけれど、冒険者の店のことになると冗談が通じないことがわかった。

前話と今話で、サマラとコルワについてかけたと思います。

次話でルイアに入りたいと思います。

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