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青年はアポを取る

 「……アポイントメントの取り方? 普通に言えばいいだけだ」

 

 「普通ってなんだよ」

 

 「……普通は普通だ。いつどこであってもあるようなもので、常識的な様だ」

 

 「いや言葉の意味じゃなくてだな」

 

 毛皮の貴族亭の店主にアポの取り方を聞いてみたが、微妙に話がかみ合わない。どうしたもんか。

 

 「えっと、お屋敷の誰かに直接言えばいいの? どこか別の誰かに取り次いでもらえばいいの?」

 

 ナイスフォローだエリー。そう言う具体的なことが聞きたいんだよ。

 

 「……屋敷の正門あたりに小屋がある。そいつに言えばユルクさんに伝えてくれるだろう」

 

 あ、それでいいんのか。めんどくさい手続きとかない感じなんだな。なんつうか……

 

 「なんつうか、普通だな?」

 

 「……だから普通だと言っただろう」

 

 店主のほとんど変化しない仏頂面が、なんとなく呆れたように見えた。普通とかいうよくわからん言葉じゃなく、最初から具体的に教えてくれればこんな面倒くさいやり取りしなくて済んだんだけどな。

 

 よし、これで必要な情報はそろったな。行くか。

 

 俺たちは改めて毛皮の貴族亭を後にする。向かうはステラの住む屋敷、ゼラドイル本家だ。

 

 「私ゼラドイル本家? に行ったことないんだけど、モンドさん道覚えてるの? 一回歩いて行ったことあるんでしょ?」

 

 ……正直、うろ覚えだ。真っ暗な夜道をあいまいな記憶を頼りに歩いただけだったからな。だが問題ない。ここはステラを見習って辻馬車で行こう。その方が確実だ。

 

 「エリー、辻馬車を拾うぞ」

 

 「あ、うん」

 

 

 

 

 ゼラドイル本家の正門に着いた。辻馬車は高かったが、必要経費だ。エリーにも必要経費だと言って説得できたし、間違いなく必要経費だ。

 

 店主の言っていた通り、正門のすぐそばに小屋がある。小屋というには少し豪華な装飾があるが、たぶんあれのことだろう。ガラス窓に人がいるっポイし、話しかけることにする。

 

 「こんにちは」

 

 「こんばんわ」

 

 ……まぁ、もう夕方になっちまったから、こんばんわの方が適切か。だがこんにちわの方に合わせてほしかった。ペースが崩れる。小屋の中にいた人は、窓ガラスをススっと動かして身を乗り出してくる。意外にも人間だった。うっすらと禿げたおっさんだったが、目つきが鋭い。

 

 「俺はモンド、こっちはエリー。ステラの知り合いで、ステラが体調を崩したと聞いてお見舞いをしたい。明日の昼過ぎに伺ってもいいだろうか?」 

 

 小屋のおっさんは俺たちをジロリと見まわすと、ふむふむと何か考え始めた。

 

 「……確かに、聞いていた通りの恰好だな。本当にお嬢様のお知り合いのようだ。ユルク様とお嬢様に確認を取って来る。少し待っててくれ」

 

 おっさんは小屋を出ると屋敷の中に入っていった。どうやらステラが俺たちと知り合ったことは、屋敷の使用人たちも知ってるんだろう。”聞いていた通りの恰好”とか言ってたしな。

 

 ふと、エリーが屋敷キョロキョロとあたりを見回しているのに気が付いた。それもただ見回すというより、斜め上方向をぐるぐるとを見ている。

 

 「どうかしたか?」

 

 エリーはキョロキョロを続けながら答える。

 

 「エラットさんがいる……と思う。どこにいるのかは分からないけど、たぶんどこかの屋根の上だと思う」

 

 ”思う思う”と自信なさげな感じで話しているが、たぶん本当にいるんだろう。見えなくても存在を感じ取れるあたり、エリーはエラットと通じ合う何かがあるのだろうか?

 

 俺もぐるりと屋敷の周りを見てみる。屋敷を取り囲むように家が立ち並んでいて、3角形の屋根がどこにでもある。エラットとかいう自称付き添いは、屋敷の外から危険がないか見守ってるのか? それとも屋敷の屋根の上にいるのか? 全くわからん。

 

 二人そろって斜め上を向きながらキョロキョロしていると、屋敷から小屋のおっさんが戻って来た。

 

 「待たせたな。ユルク様は明日屋敷におられる。”待っている”だそうだ。お嬢様も楽しみにしておいでだ。昼過ぎに来ると伝えてある」

 

 おお、よく考えたらユルク爺さんが不在の可能性もあったのか。ユルク爺さんに聞きたいこともあったというのに、失念していた。

  

 「それから、こういう約束は普通2~3日前に取り付けるものだ。覚えておいてくれ」

 

 「わかった」

 

 いろいろ注意されたが、こっちの要望通りの時間にお見舞いをさせてくれるようだ。優しいおっさんなんだろうな。ユルク爺さんも待っていてくれるらしいし、明日はちゃんと見舞いに来よう。ステラが作ってくれたネックレスをもって、お礼をちゃんと言うことにしよう。

 

 「それじゃあ今日は帰る。明日の昼過ぎにまた来る」

 

 「ああ」

 

 おっさんと短く会話を切って、エリーと一緒に辻馬車を拾いに行く。明日も辻馬車で往復するとなると、ちょっと痛い出費だな。

 

 エリーは辻馬車に乗るまでずっとキョロキョロしていたが、乗ってしまえばあとは普通だった。

 

 「念のためについてきたけど、何にもなくてよかった」

 

 「何がだ?」

 

 「なんでもない」

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