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半ヴァンパイアはのせられる


 「おはよう、マスター」

 

 「おう、おはようエリーちゃん。今日はいつもより早いな」 

 

 相変わらず渋い声だね。一年くらいほぼ毎朝聞いてても渋いと思う。

 私がいつも座ってるカウンター席に座って、いつも通り質問する。

 

 「お仕事ある?」

 

 「おう、実はちょっと助けてほしくてな」

 

 「なに? 雑用ならいやだよ?」

 

 雑用依頼はマスターの近所の人や知り合いの人が依頼人だったりして、内容も引っ越しの手伝いとかお店の看板をもって町中を歩き回って宣伝とか、便利に使われる割に報酬が安い依頼。でもお金がちょっと足りない時や戦うのに疲れた時なんかにこなして小銭を稼いだりして親しまれているらしい。

 私がやったことある雑用依頼は、看板をもって町中を歩くやつと、古い倉庫の片づけ。どっちももうやりたくないよ。

 

 「いやそうじゃなくて、一昨日エリーちゃんにサジ村の討伐依頼を受けてもらっただろ? そのとき護衛依頼もあるって話したの、覚えてるかい?」

 

 そういえば、行商人の護衛依頼とか言ってたような……

 

 「うん、なんとなく覚えてるよ」

 

 「その依頼な、まだあるんだよ。昼間に来たほかの連中にも紹介したんだが、誰も受けねぇんだよ。それでその行商人は、明日の朝にはこの街を出発しなきゃいけないらしくてな、エリーちゃん受けちゃくれないかい?」

 

 正直あんまり受けたくない。ほかの冒険者が断るってことは、受けたくない理由が依頼の方にあるからじゃないのかな? とりあえず気になったことを聞いてみよう。


 「えっと、なんで他の人たちは受けなかったの?」

 

 「めんどくさかったんだろうな。あいつら金は欲しいくせに日にちがかかる依頼は嫌がるんだ」

 

 「じゃあ私もめんどくさいから受けないよ」

 

 「頼むよエリーちゃん! ”依頼を誰も受けなかった”なんて依頼人に言ったら信用ガタ落ちなんだ」

 

 情けないことを言っているはずなのに、声が渋いからかあんまり困ってるように聞こえないよ、マスター。

 

 「ほかの人たちはめんどくさいって理由でも断らせるのに、私には押し付けるの?」

 

 「押し付けるなんてつもりはないんだ。だがもうエリーちゃんにしか頼めねぇんだよ。ほかの連中はどうせ何言ったって断るに決まってる」

 

 ああ、これはたぶん昨日一昨日ほかの冒険者に頼んで断られてきたって感じかな。

 というか私なら頼み込めばいけると思ってるんだね……

 

 「とりあえず依頼について教えて?」

 

 「ああ、護衛するのは依頼人である行商人のサマラと同行者一人、一頭馬車一台で、目的地は馬車で2日ほど先にある港町ルイアだ。ルイアで一日休んでまたピュラの町まで戻ってくる往復の護衛になる。報酬は銀貨70枚だ。」

 

 ああ、確かにめんどくさい依頼かもしれない。最低5日はかかるし、普通の4~5人のパーティで受けたら、パーティメンバーの一人あたりが手にするお金は14枚から17枚とか18枚になる。先日受けたサジ村のウルフ討伐依頼の報酬は銀貨20枚だから、こっちは時間がかかる分襲撃がなくて楽ができたとしても割安といえる。

 でも一人だと夜の見張りとか、襲撃を受けたときの護衛と反撃とかの役割分担ができないから、報酬のわりにしんどいし依頼失敗の危険もあがる。普通は2人とか3人のパーティに斡旋する依頼のはずだよね。

 

 「その依頼さ、私みたいな一人で活動してる冒険者に受けさせていいの?」

 

 「いいんだよ。エリーちゃんはこの店のエースだからな」

 

 え、エース? そんなのになった覚えはないんだけど?

 

 「私そんなの知らないよ」

 

 「いやいや、実際エリーちゃんこの店で受けた依頼、失敗したことないだろ? 確実に依頼をこなす冒険者は店にとってエースなのさ」

 

 難易度の高い依頼なんてほとんど持ってこないお店の癖に何をいうのか……とか思いながらも、おだてられるまま依頼を受けてしまったのが昨日の話。

 そのあと数日分の着替えとか火口(ほくち)の補充とかの依頼の準備をして、マーシャさんにしばらく依頼で帰ってこないことを伝えたりして一日を終えた。

 今から依頼主であるサマラさんとの待ち合わせ場所に向かうところ。昨日用意した着替えやらは、マーシャさんが用意してくれたショルダーバッグに入れて背負っている。

 

 「う~ん、あんまり気乗りしない」

 

 なんで気乗りしないかって、きっと依頼を受けた冒険者が私一人だって知ったら、ちゃんと”護衛できるの?”とか”ほかに仲間はいないの?”とか言われそうだから。サジ村の時だってモンドさんもポルコさんも私を新米冒険者だって思ってたみたいだし……私はもう2年冒険者やってるのに、全然そんな風には見えないみたい。

 

 そんなことをふわふわと考えていると、いつの間にかサマラさんとの待ち合わせ場所についてしまった。ピュラの町の東門のすぐ近くに、幌付き(ほろつき)の一頭馬車とフード付きの外套を着た人が見える。たぶんあの人がサマラさんだよね。

 

 「あの~、小人の木槌亭に護衛依頼を出された、サマラさんですか?」

 

 うわぁこの人髪の毛が長い、しかも真っ黒でつやつやだぁ。

 

 「ええそうよ。もしかして、あなたが依頼を受けたの? 一人で?」

 

 あ、言われる。さっきまで私がふわふわ考えていたことがそのまま現実になる。

 

 「……よかったわ。ムキムキの男が3人くらいやってくるんじゃないかと思って、ちょっと不安だったのよ。ほら私って美しいから、護衛の冒険者が男の人だったら、むしろ私を襲っちゃったりしそうじゃない?」


 ……ええっと、いろいろ想像の上を行く人のようでびっくりだよ……確かに美人さんだと思うけど、自分で言っちゃうのかぁ、なんていうかすごい自信……

 

 「ええっと、護衛が私一人なんですけど、大丈夫ですか?」

 

 思わず自分から聞いちゃった。

 

 「全然かまわないわよ。あ、同行者を紹介するわ。来て」

 

 サマラさんは私の手を引っ張って幌付き馬車の方へ歩いていく。つややかな長い髪が私のすぐ近くまでなびいていて、思わずそっちを見てしまう。

 マーシャさんも髪が長いけど、サマラさんのはもっと長い。お尻まで届くほどの長い髪はみたことなかったなぁ。

 

 「そういえば名前を聞いてなかったわ。なんていうの?」

 

 あ、しまった忘れてた。


 「エリーと言います」

 

 「えろー?」

 

 この人はなんて間違い方をするのか。子供のころ近所の男の子たちにそのあだ名で呼ばれてはからかわれていた苦い思い出がよみがえりかけたよ! ひどい!


 「エリーです!」

 

 思わず語気が強くなっちゃったけど私は悪くない。

 

 「あらごめんなさい? うふふ」

 

 この人絶対わざと間違えた。間違いない。

 

 サマラさんは馬車の荷台にかかっている幌をまくって中にいる人を私に紹介してくれる。

 

 「エリーちゃん、あそこで荷物に埋もれながら寝てるのがコルワ。私の姪で、冒険者の店を経営してるのよ、ああ見えて」

 

 荷台には大きな木箱、小さな木箱、背の低い棚や袋がたくさん載っていて、その中に女の人が無造作に寝ている。無造作に寝るっていう表現しか思いつかない。私と同じ茶髪で、たぶんボブカットっていう髪型……だとおもう。寝癖がひどすぎて確信がもてないけど。

 

 「ああ、はい」

 

 サマラさんもコルワさんも結構な美人さんだけど、癖が強いね。残念美人とか思ってないからね。

 

 「それじゃ出発しましょうか。あ、荷物は荷台の置いちゃっていいわよ。御者は私がするから、エリーちゃんは私の隣に座って見張り。何かあったときは頼らせてもらうからね」

 

 それだけ言うとサマラさんはめくった幌を戻し、また私の手をつかんで馬車の御者席に向かう。

 御者席に座って手綱を握り、隣に私を座らせると、慣れた手つきで馬を歩かせてすぐ近くの東門へ向かう。随分と手慣れた感じがする。

 

 門番さんに通行手形を見せ、私たちはピュラの町を出発したのだった。

 

 

 

 「ねぇねぇエリーちゃん」

 

 「……なんですか?」

 

 東門を出てから今に至るまで、つまり朝からお昼に至る今までのあいだに、数えきれないほど繰り返した問答。サマラさんは馬を走らせながらめちゃくちゃ私に質問をしてくる。

 年齢はいくつ? 彼氏はいるの? なんで冒険者になったの? どうして小人の木槌亭で活動しているの? などなどの質問を繰り返し、私は答えられる範囲でできるだけこたえてきた。

 この人はなんでこんなに話したがりなんだろう。キレイというか妖艶な顔を近づけてグイグイ来るのをやめてほしい。正直もういろいろおなかいっぱいだよ。

 

 「なんでエリーちゃんは一人で活動してるの? パーティ組むのは嫌なの?」

 

 「えっと、まぁいろいろあったんです。嫌なわけじゃないんですけど」

 

 「ふ~ん」

 

 答えを濁したからかな? あんまり深くは聞いてこなかった。

 

 「ねぇねぇエリーちゃん」

 

 「なんですか?」

 

 もう何でもいいよ。なんでも聞いてくださいよ。答えないかもしれないけど。

 

 「そろそろお昼休憩しましょうか」

 

 「あ、はい」

 

 なんだろう、この護衛依頼はすっごく疲れる。


依頼を受けてから出発した日のお昼までですね。

次話で港町ルイアまでいけたらいいなと思います。

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