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付き添いは獣人少女を想う

エラット視点です。時系列がちょっとややこしいかもしれません。

 僕の幸せは、お嬢を守ることだ。初めて会った日から今日まで、そしてこれからもそれは変わらない。

 

 お嬢、ステラ・ゼラドイル、灰色の毛を持つ、ワービーストの少女、僕のお姫様。

 

 お嬢の日常は変化がない。

 

 朝起きて、ユルクのくそジジイと朝ご飯を食べ、その後自分の部屋で絵本を読む。一人で昼ご飯を食べ、部屋に戻って絵本を読む。夕食を一人で、たまにユルクのくそジジイと食べ、絵本を読んで、寝る。

 

 僕のお姫様は、絵本が好きだ。好きになった理由は、ユルクが買い与えたからだ。絵本を買い与えたのは、ジジイがお嬢に読ませたかったからに違いないんだ。お嬢はジジイの言うことを聞いて、絵本が好きだと錯覚して、毎日絵本を読む。最悪な日々だ。自分が本当にしたいこと何なのかわからないうちに、ジジイの好みに洗脳されてしまった。

 

 ……僕が守れなかったせいだ……

  

 今日も絵本を読んでいる。僕はお嬢が読む絵本の内容を全部知っている。かわいらしい女の子がさらわれて、呪われて、かっこいい男の人に助けられる内容の絵本ばかりだ。お嬢はそういうお話が好きだ。

 

 絵本が好きになったのはユルクジジイのせいだが、好きな内容はお嬢自身の好みだ。僕にはわかっているよお嬢。きっとそれは、感情移入できるからなんだよね?

 

 広い屋敷の狭い自分の部屋に閉じ込められたかわいそうなステラを、かっこいい男の人に助けてほしんだ。絶対そうだ。

 

 お嬢の存在を知る人は多い。交流特区に住むワービーストの大半は知っているし、本国でもゼラドイル家は有名だ。

 

 だが、直接会ったことがある人は限られている。屋敷の使用人を除けば、ほとんどいない。外に出られないから、会う人もいない。当然だと思う。

 

 僕くらいなんだよお嬢、君を助けてあげられる人は。屋敷で使用人として雇われていたのは、1年にも満たないわずかな期間だった。僕がお嬢に抱いたこの気持ちを、あのくそジジイが踏みにじったせいだ。だから僕は近くにいられなくなった。

 

 ……でも、安心してほしい。僕は君を守る、助けるって約束した。必ず約束を守ってあげる。君を最低なジジイの下から救い出してあげるよ。

 

 

 

 ユルクのジジイのせいで屋敷から追放された僕は、それでもお嬢の近くにいることに決めた。

 

 屋敷の近くにはたくさんの民家がある。僕はお嬢の部屋の窓が、部屋で絵本を読むお嬢が見える位置に潜伏するようになった。僕が守らなければ、きっと誰もお嬢を守らない。僕が守る。守ってあげる。守ってあげてきたんだ。

 

 お嬢はいつも気丈にふるまっている。どれだけ変化のない、押し付けられた絵本に縛られる不自由な生活でも、使用人に怒りや悲しみをぶつけるようなことはなかった。

 

 お嬢、早く気づいて。その使用人たちは、ユルクの手下なんだよ。君を屋敷に縛り付ける最低なクズどもなんだ。そんな奴に笑いかけちゃいけない。優しい言葉をかけちゃいけないんだ。

 

 僕だけなんだ。君の本当の味方は、僕だけなんだよお嬢。一緒にいた期間は短いけれど、そんなクズどもより僕の方が、ずっと親密で濃密な関係だったはずだよ? 僕の名を、呼んでほしい。昔みたいに、エラ(にぃ)って、呼んでほしい。

 

 お嬢を見守り続けたある日、お嬢はなんと自分の力で屋敷を抜け出した。初めて一人で外に出た。屋敷から逃げ出してくれた。きっと僕を探してるんだ。

 

 ただ、お嬢が屋敷の外に出たことに気づくのが遅れてしまった。部屋を出るとき、きっとトイレか、喉が渇いて水を飲みに行ったかだと思っていた。すぐ僕の視界の中に戻ってきてくれると、そう思っていたんだ。

 

 屋敷のクズども(使用人)が騒ぎだしたのを見て、やっとお嬢が屋敷から逃げ出したことに気づいた。あの時はうれしかった。やっと、お嬢と話せる。誤解を解ける。きっと、あの屋敷に戻るより僕と一緒にいることを選んでくれると思うと、本当にうれしかった。

 

 僕は必死にお嬢を探した。お嬢も僕を探してるはず。きっと出会える。そう思って、交流特区中を探し回った。

 

 ……夜遅くに、お嬢はクズども(使用人)に見つかり、屋敷に連れ戻されていた。連れ戻される時、僕がその場にいれば助けられたのに……本当に、どうして僕じゃなくてクズどもが見つけてしまうんだろう……情けない。

 

 

 お嬢を最初に見つけたのは人間だったようだ。クズどもの会話を読唇術で読み取ると、そいつはお嬢を迷子だと勘違いしたらしかった。迷子を助けようとするやつなら、きっといい人なんだろう。モンドという名前だともわかった。

 

 モンドは貴重な人材だと言える。お嬢と直接面識のある、屋敷の外にいる人は貴重だ。それにお嬢を助けようとしてくれた。実際は助けるどころか屋敷に連れ戻しただけだったが、真実を知れば、屋敷からお嬢を連れ出そうとしてくれるに違いない。

 

 翌日、ユルクのくそジジイが仕事で屋敷を留守にしていることを好機と見たお嬢は、もう一度屋敷を抜け出した。そしてモンドのところに行った。僕も付いていくことにした。お嬢が屋敷を出た時点で僕が連れて逃げてもいいが、お嬢が失踪したときに真っ先に疑われるのは僕だ。だから味方を作り、協力を得ることで、僕やお嬢の後を追えない形で連れ去りたい。ここはお嬢の護衛に徹することにする。

 

 モンドの家は、こう言っちゃ悪いけれどぼろぼろの家だった。耳を澄ませば、隣の家の屋根の上にいても音が聞こえてしまうほど隙間が多く壁が薄い。でもさすがに会話の内容まではよく聞こえていなかった。それでもお嬢の声がだんだんと落ち込んでいくのが解る。

 

 きっとお嬢は、屋敷に監禁されていることをモンドに話し、助けを求めたのだろう。そしてモンドはそれが難しいことを伝えたんだ。僕がその場に行って彼を説得すれば、きっと力になってくれるだろう。

 

 でも、それはできなかった。もう一人、家の中にいる。女だ。彼女は僕に気づいている。

 

 ワービーストは狩猟民族だ。獲物に忍び寄り奇襲をかけることを得意とする。気配の察知と遮断は、エルフやドワーフより圧倒的に優れている。僕の得意分野でもある。その僕の潜伏を見破るほど鋭い感覚を持つ人間など、滅多にいない。僕がいきなりあの家に行ったら、きっと彼女は気づいて警戒する。お嬢は僕のことを誤解しているから、きっと僕を味方だとは言わないだろう。

 

 ちゃんと誤解を解くことができていれば……くそジジイが僕を屋敷から追放しなければ……

  

 お嬢はあっさりと屋敷に戻って来た。そのまま逃げればいいと思うんだけど、きっとユルクが何か言ったんだろう。お嬢は屋敷を出てることはできても、逃げ出すことはできないみたいだ。ユルクが、あのくそジジイが何か言ったんだ。お嬢は言葉で縛られているに違いない。モンドに助けを求めるのがいい証拠だ。自分一人ではどうにもできないからモンドに頼るんだ。

 

 モンドの家にいた彼女と、少しだけ話をした。やはり僕に気づいていたようで、彼女の方から僕を呼び出した。エリーという冒険者らしい。てっきりモンドのパートナーだと思っていたけれど、どうやら違うみたいだ。だが彼女の感覚の鋭さは、ステラを屋敷から助け出すときに有効に働くだろう。彼女も味方に引き入れたい。モンドと一緒にいるなら彼女もいい人だと、思いたいところだ。

 

 だが今はゼラドイル家の使用人、お嬢の付き添いだと名乗っておく。エリーもきっとお嬢の味方になってくれるというのは、僕の希望的観測でもある。慎重に話を作って合わせておくことにした。

 

 エリーは僕にゼラドイル家について質問をすると思っていたが、僕の正体や行動について聞いてきた。当然だ。まず僕が何者かを知ってもらわねば、味方になどなってもらえるはずがない。僕は信用を得られるように慎重に言葉を選んで答えた。そしてお嬢がその日やってきた要件も伝えておく。お嬢とは別の、もう一つの情報源になることで、モンドとエリーをお嬢を助け出す方向に誘導するためだ。

 

 きっと、モンドもエリーもお嬢のために動いてくれる。ちゃんと誘導して見せる。大丈夫、うまくやるよ。だから、もう少しだけ待ってて、お嬢。

半ヴァンパイは確かめる。までのエラットです。

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