青年は朽ち木を探す
俺とエリーは、いつものように交流特区の外にある森に来ていた。荷車を森のはずれに繋ぎ、ダムボアを待ち伏せる大きな水たまりに向かって森を歩く。
「今日はとりあえず、何か売れそうなものを探しつつ待ち伏せだな」
先日俺たちは、ダムボアを狩るついでに森で売れそうなものがないか探すことを決めていた。念押しのため歩きながらエリーに言っておく。
「でも、森で売れそうなものって何があるかな?」
お前が言い出したんだろ。そこも考えとけよ。
「薬草とか、キノコとかか? あとはそうだな……」
思いつかん。我ながら発想力に欠けているな。
「土はどうかな?」
「お? なんで土?」
エリー、土なんぞどこにでもあるもんが売れると思うのか? と突っ込んでやりたいが、発想が面白いので聞いてみる。
「森の土って栄養たっぷりな気がしない? 畑の土って痩せちゃうでしょ? こういう自然豊かな森の土を持ち帰ればお金になるんじゃないかな」
なるほど、確かにそれはいい案かもしれん。だが、それで儲けようとするととんでもない量の土を持ち帰らないと大した金にならんだろう。絶対にそんな面倒なことしたくないぞ。
「エリー、今はもう秋と言って差し支えない時期だよな」
だからその案は却下したい。ダムボアより重い荷車を引きたくない。絶対にだ。
「そうだね」
「つまり、今年一年において、森の植物どもが土の栄養を大体吸い切った後の季節だよな」
悪いが難癖付けさせてもらう。
「あ~、今の季節じゃ土にあんまり栄養がないってこと?」
「そうだ。落ち葉や動物の死体が土の栄養になるからな。土が栄養豊かになる時期ってのは春だ。もし売るなら、冬になって落ち葉が落ちきった後の、これからいろんな植物が成長する時期の土がいいだろう」
農家生まれの俺が言えば説得力があるだろう。土や作物の勉強とかしてないから、本当のところは知らないけどな。
「なるほどね。じゃあ土は春になったら採りにこよっか」
「あ、ああ」
しかし、これでは問題の先送りにしかなってないな。
「今日はとりあえずキノコ探してみないか? 少し早いが秋の味覚の一つだしな」
結局一般人の普通な発想を提案する。するとエリーも頷いてくれた。
「確かにちょっと早いかもだけど、生えてる場所を覚えておけば、もっと増えたころに採りに来れるね」
「決まりだな」
食用キノコは大体秋に生えるってポルコさんが言ってた気がする。たぶん。朽ち木を探せば大体生えてるはずだし、森の中で探すならちょうどいいだろう。
「朽ち木を探すぞ。動物の死体とかにも生えてる場合があるが、さすがにそれは遠慮したい」
「珍味かもしれないよ? 動物死体に生えてるキノコ」
チャレンジャ―だな。さすが冒険者だ。だが俺は断固お断りだ。
「触りたくないからなしだ。それにいつまでも死体が残ってるわけないだろうしな」
「なら見つけたときすぐに採っちゃえばいいじゃん」
「絶対ハエが集ってるし臭いと思うぞ。俺は近づきたくない」
「もう、わがままだね」
わがまま……言い返せねぇ。
いつものでかい水たまりに着いた。来る途中に朽ち木を一つ見つけた。白いキノコがちょろっと生えていたので、一本だけ採ってきた。町に戻って食べられるものとか売れるものかなのかを確認するためだ。だが朽ち木一つじゃ少ないだろうし、ダムボアの待ち伏せをエリー一人に任せ、俺は一人森を散策することにした。
「あんまり遠くに行っちゃだめだからね」
「へいへい」
母親みたいなことを言うエリーに適当に返事をして、水たまりとは逆方向に進む。
朽ち木の探し方なんぞ知らんが、倒木はいくつか見つけていた。古い倒木ならキノコが生えてもおかしくないだろうし、まずは見つけていた倒木をチェックしていくことにしよう。
倒木一本目。日がよく当たる場所なせいか、乾ききっている。が、ひっくり返してみると裏面は湿っていた。虫がうじゃうじゃいて気持ちが悪い。あとキノコは生えなさそうだ。
二本目。近くの木の枝に引っかかるように倒れていて、軽く触ってみるとボロっと崩れる。エリーが背負っているやたら重たい槍で叩けば、一発で折れそうだ。根元の方に白いキノコがちょっと生えている。
三本目。割と硬い。そして穴だらけだ。何の穴かと思い覗き込んで、後悔した。虫の幼虫が穴という穴に埋まってやがった。気持ち悪いが、たぶんクワガタの幼虫だろう。燃やすのは勘弁しといてやる。あと、傘の大きい茶色のキノコが生えてた。一本だけ採っておく。
順調にキノコの苗木を発見できた。よく考えたら倒木=朽ち木みたいなもんだし、倒木探した方が早かったな。目立つし。
キノコは二種類しか見つけられなかったが、まぁどっちかは売れるだろう。そろそろエリーのところに戻るか。
「あ、モンドさんおかえり。キノコ見つかった?」
水たまりに戻ってきたら、すでにエリーがダムボアを狩っていた。たった2~30分しか経っていないはずなんだが、毎度よく見つかるというか、よく遭遇するというか。
「見つかったぞ。気持ち悪かった」
とりあえず茶色くて傘の大きいキノコを見せる。
「別に普通じゃない? 気持ち悪くないよ?」
「いやキノコじゃなくて、苗木の方が気持ち悪かった。虫がうじゃうじゃいて」
指をバラバラに動かして気持ち悪さを表現しながら話すと、エリーが耳を塞いで蹲ってしまった。
「やめてやめて! 私虫嫌いなんだからね! 特に足が無いタイプと足がたくさんあるタイプの虫は絶対ダメ!」
ほほう、やたら強い冒険者のエリーにも、弱点はあるようだ。まぁ虫が苦手な気持ちは解るが、嫌がるエリーはなんだかおもしろい。
「まぁ聞けよ。マジで気持ち悪かったんだって。倒木をひっくり返してみたんだが、ミミズとダンゴムシとかの生易しいもんじゃなくて、ヒダヒダの短い胴体に細長い足がブワァっと生えた奴が」
「やめ、やめてええええええええええ」
涙目で首をいやいやと振るエリーを見ていると、何とも言えない心地よさを感じる。なんだろうこの気持ち……もしかしてこれが……サディズムってやつか……? エリーのいじめてオーラによって、俺もサディズムに目覚めてしまったというのか……?
このあと10分ほどエリーで遊んだ。おもしろかった。