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半ヴァンパイアは確かめる

久しぶりのエリー視点です

 モンドさんと森で売れそうな何かを探すことを決めたとき、隣の家の屋根からわずかな足音が聞こえてきた。

 

 ―あ、ステラちゃんが来るね。バレないように尾行するんじゃなくて普通についていけばいいのに。

 

 この足音や落ち着いた呼吸の気配は、ステラが初めてこの家を訪れたときも感じていた。落ち着き払ったその気配が敵意を感じさせることはなく、エリーは気配の主をステラの護衛の者だと断定していた。

 

 ドンドンドン

 

 少し乱暴というか、強めのノックが聞こえる。言うまでもなくステラだ。

 

 モンドが玄関を開けると、泣きそうな顔のステラが飛び込んできた。

 

 「うお!」

 

 「モンド! お願い家に来て!」

 

 「いきなりなんだ?! 何があった?」

 

 「馬車の中で説明するから、とにかく来て!」

 

 ステラはモンドの腕をムンズとつかんで家を出ると、すぐ近くに来ていた馬車にモンドと共に乗り込み、そのまま行ってしまった。

 

 ―ちょっといきなりすぎてよくわかんないけど、まぁ大丈夫かな。馬車で移動するなら危険も少ないだろうし。 

 

 一部始終を呆気にとられながら見ていたエリーは、自分しかいなくなった家の中でそう結論付けた。

 

 エリーは開け放たれたままの玄関扉を閉めに向かい、そのまま一歩家を出る。

 

 ―ちょうどいいから、確かめておこうかな。

 

 「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど、いい?」

 

 すぐ近くの路地の方に視線を向け、エリーは先ほどから動かない気配の主に声をかける。すると隣の家の屋根から降りてきた気配の主が、路地から姿を現した。

 

 「き、気づいてたんだ、ね」

 

 ―ああ、やっぱりワービーストの人だね。それにしても……

 

 路地から現れた彼の姿は、下半身こそズボンに靴という普通の恰好だったが、上半身はエプロンのような黒い布だけだった。

 

 「……裸エプロン?」

 

 「そ、その言い方はやめてほしいかな。へ、変態、み、みたいだから」

 

 ―おっと、上半身をつけ忘れてた。上半身裸エプロンだね。あとこの人はしゃべるのが苦手なのかな。

 

 「私はエリー。冒険者。あなたは?」

 

 「ぼ、僕はエラット。ゼラドイル家の、使用人」

 

 ―やっぱりステラちゃんの身内なのかな。まだ決めつけるのは早いよね。


 「ステラちゃんの護衛?」

 

 「つ、付き添いって、言ってよ。そ、そんな物々しいのじゃ、ないよ」

 

 ―付き添いねぇ……

 

 「じゃあなんで尾行してるの? 付き添いなら一緒に来ればいいのに」

 

 「ぼ、僕は人たくさんの人に見られるのが嫌い、なんだ。お嬢……ステラお嬢と一緒だと、め、目立つから。お嬢は声が、お、大きいんだ」

 

 ―まぁこの人は内気な感じはするね。ステラちゃんの声が大きいのもわかる。

 

 「じゃあ、なんでさっきはステラちゃんと一緒に行かなかったの? 付き添いなんでしょ?」

 

 「あの馬車はゼラドイル家の物、なんだ。御者(ぎょしゃ)もぼ、僕と同じ付き添いだから、いいんだ」

 

 ―でも、来るときもあの馬車で来たんだよね? ならエラットさんが来る必要あったのかな?

 

 「僕もいいかな? その、し、質問」

 

 ―そう言えば私ばっかり聞いてたね。

 

 「どうぞ」

 

 「き、君たちは、その、お嬢とどういうか、かか関係なのかな? い、いや知ってるんだ。迷子になったお嬢を、モンドって人が家まで送ってくれたんだよね? で、君はモンド君の恋人か、奥さんだよね」

 

 ―恋人とか奥さんは違うよ。一緒に住んでるからそう思われたのかな。

 

 「同居人だよ。恋人とかじゃないから」

 

 「そっか。ご、ごめん……えっと、僕が聞きたいのは、今後の関係について、なんだけど」

 

 ―この話の流れだと、私とモンドさんの関係の今後について聞いてるように聞こえなくもないよ。主語付けて主語。

 

 「えっと、ステラちゃんと今後どうするかってことかな?」

 

 「そう! そうなんだ。そこが知りたいんだ」

 

 ―なんで知りたがるんだろう。使用人が口出しすることじゃない気がする。

 

 「なんで知りたいの?」

 

 「ユ、ユルク様……僕のや、雇い主の指示、なんだ。お嬢と仲良くなった人間が、な、何か企みがあってお嬢に、近づいたんじゃないかって気になった、み、みたいで」

 

 ―だからステラちゃんの乗った馬車についていかずに残ってたんだね。私の様子を観察したかったのかな。

 

 「私はステラちゃんとそんなに話してないから、今後ステラちゃんとどうなりたいかなんてあんまり考えてないよ。でも友達にはなりたいかな」

 

 ―とりあえず当たり障りのない回答をしておこうかな。というかほぼ本心なんだけどね。別にステラちゃんに何かしようなんて思ってないし。

 

 「そ、そっか。ありがとう」

 

 「……どういたしまして?」

 

 ―何のお礼? 質問に答えたお礼かな。私の方がたくさん質問したんだし、わざわざ言わなくてもいいと思わなくもないかも。

 

 「……ところで、ステラちゃんは今日どうしたの? 泣きそうな顔で慌ててたけど」

 

 「あ、うん。説明しても……君ならいいかな。あ、あとでモンド君から聞くだろうし」

 

 

 

 

 

 ステラが迷子になった日、彼女の保護者であるユルクが外出した直後にステラは家を抜け出していた。ユルクが街にあるワービーストの店をすべて巡り、経営者の要望や客層の変化などを確認して回るための外出であった。そのためゼラドイル家への帰りは数日後となる。

 

 夕方になり、家の中にステラがいないことに気が付いた使用人たちは慌てた。家主が家を留守にしたその日のうちに問題を起こすなど、自分たちが無能であると主に思われかねないと危惧したからだ。そこで使用人たちは夜の町を手分けしてあちこち探しまわりつつ、ユルクにステラの姿が見えないことを伝えることにした。

 

 ユルクはステラの姿が見えないことを知ったのは翌朝であった。ユルクは一日に何件も店を巡るためうまく連絡ができず、報告が遅れてしまった。そしてステラが無事見つかったことを知ったのは、そのすぐ後のことだった。ユルクは安心し、家に帰った後ステラを叱ってやらねばと思いながら仕事を続行した。

 

 そして今日、ユルクが仕事を終え帰ってきた。そして詳しい話を使用人からを聞いたユルクは、ステラを家に送った人物であるモンドを連れてくるようステラに言い渡した。

 

 

 

 と言うのが、馬車に揺られながらステラに聞いたことのあらましだ。なんで迷子を助けただけで家に呼ばれなきゃいかんのだ。めんどくさい。

 

 「モンド、ごめんなさい」

 

 泣き出すのをギリギリのところで耐えながら、長い説明を言い切ったステラを褒めてやりたい。が、今はとりあえず慰めるほうがいいか。

 

 「謝ることないぞ。いやまぁ誰にも言わずに家を飛び出したのは悪いことかもしれんが、やっぱり謝らなくていい。あと俺もお前の爺さんに一言(ひとこと)言いたい」

 

 「うぅ……一言? ……何言うの?」

 

 俺の思う普通の家庭とゼラドイル家の家庭の違いについて。それから子供というものの普遍性についてだ。

 

 「ステラを家に送った日、ステラは俺にいろいろ教えてくれただろ? 毎日どんなことして過ごしてるとか、爺さんと過ごした思い出とか」

 

 「うん」

 

 「それでちょっと突っ込みを入れたくなった」

 

 「突っ込み……?」

 

 「ああ、突っ込みだ。普段俺が心の内に留めて口には出さない突っ込みを、今回は口に出しておこうと思ってる」

 

 ステラは”ちょっと何言ってるかわかんない”みたいな顔になった。ちょっと腹が立つ顔だが、泣きそうな顔よりずっといいな。

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