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青年は迷子を送る

 「ごめんなさい。あたしのせいで……」

 

 突然謝られた。

 

 俺は今、家の近くで見つけた迷子を連れて毛皮の貴族亭に向かっているところだった。

 

 俺の家の近くを目をこすりながらとぼとぼと歩くワービーストの女の子に声を掛けた。名前を聞くと、なんとステラ・ゼラドイルというらしい。家名があることもそうだが、ゼラドイルという名前に少し驚いた。

 

 ゼラドイルといえばこの交流特区では有名だ。ワービーストの店は全部ゼラドイル家の物みたいな感じだからな。だから、ついさっき初めて会った迷子(ステラ・ゼラドイル)の家を探すのは超簡単だ。ワービーストの店に行って聞けばいい。

 

 日が沈んだ後も開いている店は少ないが、冒険者の店はまだ開いている。店主ならゼラドイル家の場所くらい知っているだろう。ついさっき店を出たところだしちょっと面倒だが、夜に子供一人で出歩かせるのはどうかと思うので、こうして今手をつないで歩いているわけだ。

 

 ちなみにエリーは家に置いてきた。酔ったあいつはめんどくさい絡み方をしてきて疲れる。

 

 「謝ることないぞ。別に悪いことしてないんだろ?」

 

 子供が迷子になるなんて当たり前のことで、別に悪気があって迷子になったわけじゃない。ワービーストの考え方は知らないが、俺の考えで言えば謝る必要なんかない。

 

 「でも、あたしのせいで帰るのがおそくなる」

 

 「帰るのが遅くなると困るならこんなことしない。つまり困らないってことだ。気にすんな」

 

 明日は休みにしようってことになったしな。

 

 「お前は悪くない。子供が外に出て迷子になるなんて普通だ。大人を頼るのも普通のことだ。だから謝るんじゃなくて、ありがとうって一言いえばいいんだよ」

 

 ステラがずっとつらそうな顔をしている。たぶんこいつは、自分が怒られることより俺に迷惑をかけたことを気にしてるんだと思う。だからちょっとだけフォローしておくことにする。

 

 「……うん……」

 

 つらそうな顔から泣きそうな顔になった。なぜだ?

 

 

 

 

 少しして、毛皮の貴族亭に着いた。やはりまだ店は開いている。俺たちが夕食をとったときはワービーストの連中がワイワイ騒いでいたが、今は静かなようだ。

 

 扉を開けて中に入ると、案の定客がほとんどいなかった。だがスコットだけはいた。

 

 「ん? どうした? さっき帰ったばかりじゃなかったか? というかその子は誰だ?」

 

 「よせ! 近寄るな! 変態がうつったらどうする?!」

 

 「な?! どういう意味だ! 誰が変態だ?!」

 

 上半身裸の露出狂ワービーストと10歳にすらなっていないステラを合わせるのは良くない。当然だ。 

 

 俺はステラとスコットを隔てるように立ち、カウンターで皿を洗っている店主の方に向かっていった。スコットがプリプリ怒りながら俺の方を睨んでいるが無視だ。露出狂め、ステラが上半身裸で歩き回るようになったらどうするつもりなのか……露出狂(スコット)がいる店に連れてきた俺も同罪か。

 

 店主はスコットと俺のやり取りが面白かったみたいで、肩をぷるぷると震わせて声を出さずに笑っていた。

 

 「……そうだよな……ッグ、上半身裸は……プフ……人間から見たらそうだよな……」

 

 笑いが落ち着いてから話せ。

  

 

 

 

 店主からゼラドイル家の場所を教えてもらった俺はたちは、店を出てゼラドイル家に向かった。まだちらほらと人通りがあるとはいえ、もう日が落ちてしばらく経つ。ステラの家族も心配しているだろうから、はやく家に帰してやらないとな。

 

 「……ありがと」

 

 またしても突然、お礼を言われた。だが謝られるよりずっといい。俺は子供に謝られるよりお礼を言われる方が好きなようだ……普通か。

 

 「おう」

 

 ふとステラの方を見ると、ステラも俺の顔を見上げていた。ばっちり目が合った。そしたらステラは慌てて前を向いてしまった。

 

 ……嫌われたか? 俺は子供の気持ちなんかわからない。まして女の気持ちなどさっぱりだ。無自覚でこいつに嫌われることをしたり言ったりしていたのかもしれないな。

 

 と思ったが、ステラは俺の手を握ったまま放そうとしない。嫌いなら手を放すよな? やっぱりわからん。

 

 ステラの灰色の髪と頭の上の方から生えた耳をぼんやり見ながら歩いていると、分かれ道に出た。

 

 「んと、どっちだったかな」

  

 店主に教えてもらった道順を思い出してみる。たしかここは左のはずだ。

 

 「左だったかな」

 

 「……あたし、たぶん右だと思う……」

 

 「……まじか」

 

 うわぁめんどくせぇ……俺の記憶を信じて左に行ってもし間違っていたら、俺が口だけの無能みたいに思われるかもしれん。だがステラを信じて右に行って間違っていたら、ステラはまた落ち込んでしまうかもしれん。せっかくちょっと顔色が良くなってきたのに、また泣きそうな顔になったらたまったもんじゃない。

 

 「見覚えがある道なのか?」

 

 決断は一旦先送りにして、まず情報を集めてみよう。

 

 「ううん。あたし屋敷からほとんど出たことがないから、見覚えなんかない」

 

 なんじゃそりゃ。

 

 「じゃあ、なんで右だと思うのはなぜなんだ?」

 

 ステラはちょっと考えてから

 

 「勘。うまく言えないわ」

 

 情報、ほぼ増えてないな。

 

 「じゃあ右に行くか」

 

 「左じゃなくていいの?」

 

 「俺の記憶が正しいとは限らんだろ。それに間違えていたらここに戻ればいいだけだしな」

 

 俺が”右に行く”とはっきり言っておけば、間違っていてもステラが自分を責めないようフォローできるはずだ。

 

 

 

 

 しばらくの間、俺はステラを連れて夜の町を右往左往していた。さっきの分かれ道を右に行ったあとの道順が解らなかった俺は、そのあとの分かれ道を適当に選んで歩いていた。

 

 「ごめん。あたしが適当なこと言ったせいで、また迷子になっちゃった。あたしたちもう帰れないのかな……」

 

 確かに道に迷っているかもしれんが、俺まで迷子認定しないでくれ。俺は自分の家に帰れるから。

 

 「それは違う」

 

 俺はしゃがんでステラと目線を合わせ、つないだ手を前に持ってくる。

 

 「俺はステラを家に送ってるわけじゃない。ステラを連れまわしてゼラドイル家に行こうとしてるんだ」

 

 ちょっと意味不明な感じになったが、このままゴリ押すことにする。

 

 「お前は俺に連れまわされてる。だから進む道は俺に任せるしかない。さっきの分かれ道を右に行くと決めたのは俺だ。だからお前のせいじゃないぞ」

 

 ステラは俺の目をじっと見て、何も言わない。何か言ってくれよ、なんか俺がダサいみたいになっちゃうだろ。

 

 ステラが何も言わないせいか、俺もこの後何を言えばいいかわからなくなった。そんなとき、なにか人が騒いでいる声が聞こえてきた。

 

 「こっちの道にはいない。そっちはどうだ?」

 

 「こっちにもいない。次の通りに行くぞ」

 

 たぶんゼラドイル家の人だな。ステラが帰ってこないから探し回ってるんだろう。

 

 「それに、ちゃんとステラの家に行けそうだ」

 

 俺は立ち上がって、声のする方にステラを連れて向かって行った。

 

 だいぶ遅くなったが、これでをステラを家に帰せるな。やっと帰れる。思ったより時間かかっちまったな。

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