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青年は交渉する

またしてもモンド目線です

 エリーという知り合いの冒険者に安い食堂で偶然出会った俺は、同じテーブルに座っていろいろと話をした。

 

 お互いの交流特区に来た理由とか、現状とか、まぁいろいろ話した。

 

 そして俺が今何をしているかというと……

 

 「おいおい、ここはデートスポットじゃないんだぜ? ガキは帰りな」

 

 「見せつけてくれやがって。ここはお前ら見てぇな奴が遊びに来る店じゃねぇぞ」

 

 交流特区にある冒険者の店の一つ、毛皮の貴族亭で、エリーと一緒に強面の冒険者に絡まれているところだ。

 

 おかしい。俺は村で居場所を失って冒険者にならないよう、村の役に立つために交流特区に来たはずだ。なのにどうして冒険者の店にいるんだ?

 

 少し思い出してみよう。そう、一時間くらい前、今朝交流特区に来たばかりのエリーに、俺はある提案をした

 

 

 

 

 「所持金にもよるが、長く住むなら宿に泊まり続けたり部屋を借り続けるより、自分の家を買った方が安く済むぞ」 

 

 普通に家を買おうとすると結構金がかかるからなかなかな手が出せない。俺のように不動産を巡りまくって滅茶苦茶安い家を探さないと、いきなり家を買ったりはできない。だが永住とは言わなくても5年10年住むと想定すると、高い買い物になっても家を買った方が安い。

 

 「ん~、そんなお金は持ってないね。お金がたまるまでは部屋を借りるしかないかな~」

 

 そうだろうな。冒険者にまとまった金の貯金を持ってるやつがいるとは思ってない。

 

 「実は俺家を買ったんだ。かなり安くてボロイ家だ」

 

 「モンドさんそんなお金持ってたの?!」

 

 食いつきは悪くない。家じゃなくてお金の方に食いつかれたのはちょっとアレだが……

 

 「村のみんなが俺の持ち帰る技術に投資してくれた金だ。俺のじゃない」

 

 「おお、なんかすごい! モンドさんは村のみんなの期待を背負ってるんだね」

 

 言うな。気が重くなるだろ。

 

 「で、相談なんだが……俺の家を譲ってやろう」

 

 正直な話、家以外に交渉に使えそうなものがない。だからこれは必要経費だ。

 

 「え? それはだめだよ。モンドさんのためにサジ村の人が出してくれたお金で買った家なんでしょ? もらえないよ」

 

 冒険者の癖にそういうこと気にするのかよ。もっとこう、冒険者らしくがっついて来いよ。

 

 「まてまて、譲るのは俺が村に帰る時だ。だからそこはいいんだ」

 

 ちゃんと技術を学んで帰るのであれば、俺に投資した金で買った家をどうしようが文句は言われないだろう。

 

 「はぁ、そうですか。で、私は何をすればいいんですか?」

 

 お、こういうところは冒険者っぽいな。当然ただで譲るわけない。俺が家を差し出す代わりに何かを要求するとわかっている。

 

 「金稼ぎを手伝ってくれ。他種族から技術を学ぶには当然金が要るし、俺は仕事がないから稼ぎがない。具体的にどうやって稼ぐかは決めてないが、必要な金額がたまるまで手伝ってくれ」

 

 ここで問題。その必要な金額とはいかほどのものなのか。

 

 答えは当然不明。どの種族からどんな技術を教えてもらうか、そしてどのくらい交流特区に住むのかを決まっていない以上、目安すらない。つまり、いつまでにどれだけ稼げばいいかがさっぱりわからんということだ。まぁ無理のない計画を立てるつもりだが。

 

 「必要な金額を言ってくれれば払うよ? 払えればだけど」

 

 無理に決まってんだろ。そんな安くねぇぞ。

 

 「いやそんなポンと払えるような額じゃないと思うぞ」

 

 わからんけど。

  

 「それに生活費とかまで含めて金が要る。自分の生活までお前におんぶにだっこは流石にちょっと」

 

 「え、生活費も含めるの?」

 

 しまった、口が滑ったかもしれん。

 

 「ま、まぁ。代わりといっちゃなんだが、今日から俺の家はお前も使ってくれてかまわん。男と一緒に暮らすのは嫌かもしれんが、家賃とかは払わなくていい」

 

 別にやましい気持ちはない。一緒の家に住むからといって、こいつと俺の関係はビジネスパートナー以上には絶対にならないだろうよ。

 

 しばらく考えた末、エリーは了承した。そして金を稼ぐ方法はこれしか知らないと言うと、こいつは俺を連れて冒険者の店を探し始めたわけだ。

 

 

 

 

 毛皮の貴族亭はワービーストのマスターが経営する店で、強面な連中が大量にたむろしていた。そんな店にずかずかと入っていけるこいつは、やはり冒険者なんだなと思う。俺は正直怖かった。

 

 「おいおい、ここはデートスポットじゃないんだぜ? ガキは帰りな」

 

 「見せつけてくれやがって。ここはお前ら見てぇな奴が遊びに来る店じゃねぇぞ」

 

 早速絡まれた、案の定だ。俺は見るからに農夫だし、エリーは恰好はともかく武器を持ってない。なぜか剣の鞘だけは腰に下げてるが、これでは冒険者の恰好をした町娘に見えなくもない。隣にいる俺が農夫なせいかもしれん。

 

 「デートじゃなくて仕事をもらいに来た」

 

 真顔できっぱり言い切ったよこいつ。怖がるそぶりが全くないな。

 

 「へぇ……冒険者のつもりか?」

 

 近くのテーブル席に座ってたワービーストの男が声をかけてくる。耳と尻尾以外は人間と変わらない見た目だな。上半身裸なのが気になるけど。

 

 そいつはスタスタと俺たちの前に立って、じっとエリーを見る。そしてふっと視線をこっちに向けて、興味なさそうにエリーに戻した。

 

 一体何なんだこいつ。

 

 「マスター」

 

 上半身裸のそいつは店主に声をかける。

 

 「ボア肉の依頼をやらせてやれ」

 

 なんじゃそりゃ。俺にもわかるようにしゃべってくれよ。

 

 「お、おいスコット、どういうつもりだ」

 

 「こいつら人間だぞ、それにボアは今狩るのはまずいんじゃ」

 

 なんか最初に絡んできた2人が動揺してるが、さっぱりわからん。エリーも”なにいってんだこいつ”みたいな顔してるし……

 

 「……いいだろう」

 

 いいのかよ。まぁ店主がいいっていうなら、いいのか? 

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