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青年は仕事を探す

プロローグで登場したモンド視点です

 人間の国、クレイド王国の中で唯一防壁を持たず、人間以外の種族であるエルフ、ドワーフ、ワービーストらが住む交流特区。他種族の国の技術や情報をやり取りできる唯一の町。俺は生まれ故郷のサジ村から数日かけてそこに到着した。

 

 「めんどくせぇ……」

 

 交流特区は亜人の出入りに制限があるが、人間には制限がない。制限がないとは言っても検問で種族検査があって、人間に扮した亜人ではないか調べられる。

 

 検問所で耳の形や体毛を調べられながら、俺は自分に課せられた役割を思い出してため息を吐く。

 

 「はぁあああ……」

 

 俺はサジ村の農家の家に生まれた。そして家業を継ぐことを嫌がった。毎朝早起きして楽しくもない土いじりをして、麦を作っては税を納めてつつましやかに暮らす……そんな生活が楽しいとは思えなかった。だから農家なんて絶対に継ぎたくない。

 

 親の手伝いをしない俺は、サジ村のもう一つの産業である酪農を仕切るポルコさんのところで働き始めた。でも、酪農も俺には向いてないとわかった。牛のふんの匂いがどうしてもだめだったし、家畜どもは俺に全く懐かなかった。そんな俺にポルコさんは、面倒くさい事を言ってくれやがった。

 

 「モンド、交流特区に行って何か技術を学んで来い。サジ村の役に立つ技術を持ち帰れ。」

 

 麦も作らず乳しぼりもしない奴は村で居場所を失う。もし村で居場所を失えば、冒険者になって危険が伴う面倒くさい使い走りをして、割に合わない報酬で生活するしかなくなる。ポルコさんは俺がそうなることを危惧して言ってくれたんだと思う。

 

 「サジ村の連中は、俺には荷が重いと思わなかったのか?」

 

 検問所を抜け交流特区の町に入った俺は、懐にある金の詰まった袋に触る。

 

 俺と俺の持ち帰る技術に、村のみんなが期待して投資してくれた金だ。なんで俺なんかに投資するのかわからん。村の仕事をしない怠け者だぞ俺は。

 

 まぁ引き受けちまったものはしょうがない。とにかく生活基盤を手に入れないことには、技術の習得とか無理だからな。安い部屋を借りるか空き家を安く譲ってもらおう。

 

 

 

 

 いくつか不動産を巡って、一番安く済む空き家を買った。部屋を借りるほうが安いと思っていたが、半年くらいはここに住むと想定して家賃を計算するとこの空き家の方が安く済みそうだった。実際いつまで交流特区に住むことになるかわからない以上、この選択は間違いじゃないと思う。

 

 問題は、この家を買っただけで資金がほぼ尽きかけているということだ! しかもかなりぼろい家だし。

 

 「はぁ……」

 

 ため息にも力がこもらず、ただの吐息になった。

 

 「ひとまずは資金集めだな。生活基盤は確保したし、あとは技術を教わるための金と帰りの馬車代と生活費の確保か」

 

 とりあえず今日は寝よう。明日は仕事探しだな……

 

 

 

 交流特区は結構たくさん人がいる。人間じゃなくて、エルフとワービーストが多い。ドワーフはなぜか少ない。そして、人間の出入りは結構激しい。俺みたいに他種族の技術を持ち帰ることが目的のやつが多いからだろうな。


 そして交流特区には、普通の町と違って数年契約で人を雇う制度がある。普通の町は基本的に終身雇用ばかりで、数年だけ雇うなんてことはしない。

 

 まぁそういう町だから、俺もすぐ仕事が見つかると思っていた。だが甘かった。

 

 まず給料の高そうなレストランに雇ってくれないかと頼んでみた。エルフの経営する野菜料理中心のレストランだった。

 

 「人間? 料理の経験は? ない? じゃあウェイターの経験は? 礼儀作法の知識は? ……そうか。雇ってやりたいが、店の戦力になれないだろうし、あんたのためにもならんだろう」

 

 次はワービーストの家具屋で頼んでみた。大きな店だから給料がいいと思ったんだ。

 

 「別にダメとは言わねぇけど、あんた人間だろ? うちは買ってくれた家具をお客さんの家に持って行って設置するサービスが売りなんだが、ワービーストの俺らもしんどい作業だ。なにせ重くて頑丈な木材で作った家具だからな。悪いことは言わねぇからやめときな」

 

 とまぁこんな感じで、村で何の努力も勉強もしてこなかった俺は、何をするにも知識と体力が足りなかった。

 

 ため息すら出ない。とりあえず帰って寝るか……

 

 村のみんなが投資してくれた金で、手に入れたものがぼろい家一軒だけ……技術のぎの字すら身に着けてない……ポルコさんはなんで俺なんかに……

 

 考えるのをやめて、俺はその日の就職活動を終えた。

 

 

 

 次の日、俺は昼食を摂りに行った安い店で、そいつに出会った。

 

 「……お前、もしかしてエリー? だったよな?」

 

 なんか変な感じの話しかけ方になったけど、間違いない。

 

 中肉中背の冒険者然とした服装に、毛先があっちこっち向いた感じの茶髪。あの時ウルフの討伐に村に来た冒険者に間違いない。

 

 「ん?」

 

 そうそうこういうちょっと眠そうな感じもよく覚えている。

 

 「エリーだよな。俺を覚えてるか? サジ村のモンドだ」

 

 チーズの乗ったバゲットのスライスをかじりながら俺の顔を見るエリー。覚えてないか……? まぁ覚えてないだろうな。覚えなくていいとか言っちまったし……

 

 「あああ!」

 

 お、思い出したのか! まぁまだ2か月も経ってないからな。思い出せるか。とりあえず、口に物入れたまま叫ぶのやめろ。

 

 「思い出したか?」

 

 「モグドさん!」

 

 「モンドだ! さっき名乗っただろ?!」

 

 どういうボケだよ……そういえばこういう奴だったかもしれないな。

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